関連当事者の開示に関する会計基準
会社を支配している者、または、会社の意思決定に重要な影響力を有している者が、当該会社と取引をする場合、一般には見ることができない条件で行われることがあります。そして、その状況は財務諸表から容易に識別できません。そのため、財務諸表作成会社の財政状態や経営成績におよぼす影響を、その利用者が適切に理解できるようにすべきであるとの要請が出てきました(関連当事者の開示に関する会計基準第15項)。
このような要請に応えるため、会社と関連当事者との取引について、財務諸表に注記することとなり、平成18年(2006年)には関連当事者の開示に関する会計基準が公表されています。
目的
関連当事者の開示に関する会計基準は、財務諸表の注記事項としての関連当事者の開示について、その内容を定めることを目的としています(同会計基準第1項)。
会社と関連当事者との取引は、会社と役員等の個人との取引を含め、対等な立場で行われているとは限りません。そのため、関連当事者との取引は、会社の財政状態や経営成績に影響をおよぼすことがあります。また、関連当事者の存在自体が、会社の財政状態や経営成績に影響をおよぼすこともあります(同会計基準第2項)。
そのため、関連当事者の開示については、会社と関連当事者との取引だけでなく、関連当事者の存在が財務諸表に与えている影響を財務諸表利用者が把握できるように、適切な情報を提供する必要があります(同会計基準第2項)。
したがって、親会社等が存在するだけでは、会社と関連当事者との取引とはなりませんが、親会社等の情報は、会社の財務諸表を理解する上で有用な情報と考えられるため、、関連当事者の存在に関する開示として、親会社等の情報も関連当事者の開示に含めることとなっています(同会計基準第16項)。
範囲
関連当事者の開示に関する会計基準は、すべての会社の連結財務諸表または個別財務諸表における関連当事者の開示に適用されます(同会計基準第4項)。
なお、連結財務諸表で関連当事者の開示を行っている場合は、個別財務諸表での開示は必要ありません(同会計基準第4項なお書き)。
用語の定義
関連当事者の開示に関する会計基準では、以下の用語の定義を定めています。
関連当事者との取引
「関連当事者との取引」とは、会社と関連当事者との取引をいい、対価の有無にかかわらず、資源若しくは債務の移転、または役務の提供をいいます。また、関連当事者が第三者のために会社との間で行う取引や、会社と第三者との間の取引で関連当事者が当該取引に関して会社に重要な影響をおよぼしているものを含みます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(1))。
会社
会社と関連当事者との取引における「会社」とは、連結財務諸表上は連結会社(連結財務諸表作成会社および連結子会社)をいい、個別財務諸表上は財務諸表作成会社をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(2))。
関連当事者
「関連当事者」とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、または、他の当事者の財務上および業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいい、次に掲げる者をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(3))。
- 親会社
- 子会社
- 財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社
- 財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(その他の関係会社)ならびに当該その他の関係会社の親会社および子会社
- 関連会社および当該関連会社の子会社
- 財務諸表作成会社の主要株主およびその近親者
- 財務諸表作成会社の役員およびその近親者
- 親会社の役員およびその近親者
- 重要な子会社の役員およびその近親者
- 「6」から「9」に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社およびその子会社
- 従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。)
連結財務諸表上は、連結子会社を除きます(同会計基準第5項(3)なお書き)。
個別財務諸表上は、重要な子会社の役員およびその近親者ならびにこれらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社およびその子会社を除きます(同会計基準第5項(3)また書き)。
上記の「1」から「5」および「10」に掲げる会社には、会社だけでなく、組合その他これらに準ずる事業体が含まれます。その場合、業務執行組合員が組合の財務および営業または事業の方針を決定しているときには、「10」の「議決権」は「業務執行を決定する権限」と読み替えます(同会計基準第5項(4))。
その他の関係会社の範囲
その他の関係会社には、「共同支配投資企業」(財務諸表作成会社を共同で支配する企業)が含まれます。また、関連会社には、「共同支配企業」(財務諸表作成会社(連結財務諸表上は連結子会社を含む。)と他の独立した企業により共同で支配されている企業)が含まれます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(5))。
関連当事者の判定基準
関連当事者の開示について適切な開示を求める観点から、関連当事者の範囲は形式的に判定するのではなく、実質的に判定する必要があります(関連当事者の開示に関する会計基準第17項)。
主要株主
「主要株主」とは、保有態様を勘案した上で、自己または他人の名義をもって総株主の議決権の10%以上を保有している株主をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(6))。
役員
「役員」とは、取締役、会計参与、監査役、執行役またはこれらに準ずる者をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(7))。
なお、上記の「これらに準ずる者」は、例えば、相談役、顧問、執行役員その他これらに類する者であって、その会社内における地位や職務等からみて実質的に会社の経営に強い影響をおよぼしていると認められる者をいいます。創業者等で役員を退任した者についても、役員の定義に該当するかどうかを実質的に判定しなければなりません(関連当事者との取引にの適用指針第4項)。
近親者
「近親者」とは、二親等以内の親族、すなわち、配偶者、父母、兄弟、姉妹、祖父母、子、孫および配偶者の父母、兄弟、姉妹、祖父母ならびに兄弟、姉妹、子、孫の配偶者をいいます(関連当事者の開示に関する会計基準第5項(8))。