HOME > 各論 > 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準 >

 

賃貸等不動産に関する注記事項

賃貸等不動産を保有している場合は、財務諸表に次の事項を注記しなければなりません(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準第8項)。


  1. 賃貸等不動産の概要
  2. 賃貸等不動産の貸借対照表計上額および期中における主な変動
  3. 賃貸等不動産の当期末における時価およびその算定方法
  4. 賃貸等不動産に関する損益

ただし、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略することができます(同会計基準第8項ただし書き)。

なお、連結財務諸表において賃貸等不動産の時価等の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は必要ありません(同会計基準第3項なお書き)。

賃貸等不動産の概要

賃貸等不動産の概要には、主な賃貸等不動産の内容、種類、場所が含まれます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第9項)。

また、賃貸等不動産の概要を注記するにあたって、管理状況等に応じた区分による開示を行う場合は、当該区分と関連付けて記載することが適当です(同適用指針第24項)。

貸借対照表計上額および期中における主な変動

賃貸等不動産の貸借対照表計上額および期中における主な変動を注記するにあたっては、次の事項に留意する必要があります(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第10項)。


  1. 原則として、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額(減損損失累計額を取得原価から直接控除している場合を除く。)を控除した金額をもって行う。
  2. 貸借対照表計上額に関する期中の変動に重要性がある場合には、その事由および金額を記載する。

上記「1」については、当期末における減価償却累計額および減損損失累計額を別途記載する場合には、取得原価をもって記載することができます。この場合には、当期末における取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した金額についても記載します(同適用指針第10項(1)ただし書き)。

資産除去債務が含まれる賃貸等不動産

賃貸等不動産の貸借対照表計上額に資産除去債務が含まれるなど、当該貸借対照表計上額と当期末における時価とが対応しない場合には、資産除去債務の金額を記載するなど、追加的な説明を行うことが適当であると考えられます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第25項)。

土地再評価差額金

「土地の再評価に関する法律」第10条に規定する差額の注記(当期末における事業用土地の時価の合計額が当該事業用土地の貸借対照表計上額の合計額を下回った場合に、その差額を注記)を行っており、当該差額に賃貸等不動産によるものが含まれている場合、重要性が乏しいときを除き、当該差額のうち賃貸等不動産による差額を併せて開示することが適当であると考えられます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第25項また書き)。

賃貸等不動産の期中における変動

賃貸等不動産の期中における変動については、以下の内容を記載します(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第26項)。


  1. 賃貸等不動産の取得
  2. 賃貸等不動産の処分
  3. 賃貸等不動産から棚卸資産への振替
  4. 棚卸資産から賃貸等不動産への振替

賃貸等不動産の期中における変動を注記するにあたっては、必ずしも増加額と減少額を個別に記載する必要はありません。ただし、変動額に重要性がある場合には、その事由および金額を記載する必要があります(同適用指針第27項)。

当期末における時価およびその算定方法

市場価格が観察できない場合

賃貸等不動産について、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額を注記します。ここで、賃貸等不動産に関する合理的に算定された価額は、「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)による方法または類似の方法に基づいて算定した価額をいいます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第11項)。

なお、契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合は、合理的に算定された価額として当該売却予定価額を用います(同適用指針第11項なお書き)。

不動産鑑定評価基準においては、評価目的に応じて、正常価格、特定価格、限定価格、特殊価格が列挙されていますが、賃貸等不動産の時価の注記を行う場合の時価に対応するのは正常価格と考えられます(同適用指針第29項) 。

ここで、正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいいます。

不動産鑑定評価基準では、原価法(コスト・アプローチ)、取引事例比較法(マーケット・アプローチ)、収益還元法(インカム・アプローチ)の3手法の適用により求められた価格を併用または斟酌することとしています。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、再調達原価をもって評価する原価法です。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する取引事例比較法です。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、将来において期待される収益をもって評価する収益還元法です。

収益物件の評価方法

収益物件の評価方法については、収益還元法のうち割引キャッシュ・フロー(DCF)法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき鑑定評価額を決定する方法を用いることができると考えられます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第30項および31項)。その理由は以下の通りです。


  1. DCF法を重視した算定方法であれば、結果として正常価格と概ね一致する。
  2. 実際の収益物件の価格形成が収益還元法に基づいている場合が多い。

取得時や直近の時価算定から評価額に重要な変動が生じていない場合

第三者からの取得時また直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額をもって当期末における時価とみなすことができます。

その変動が軽微であるときには、取得時の価額または直近の原則的な時価算定による価額をもって当期末の時価とみなすことができます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第12項)。

なお、連結財務諸表上、連結子会社の保有する賃貸等不動産については当該連結子会社の支配獲得時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額をもって当期末における時価とみなすことができます。また、連結財務諸表上も、変動が軽微な場合には、支配獲得時の価額をもって当期末の時価とみなすことができます。

重要性が乏しい賃貸等不動産

開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいものについては、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額等を時価とみなすことができます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第13項)。

一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額には、容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれます。また、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができます(同適用指針第33項)。

容易に入手できると考えられる評価額には、実勢価格や査定価格などの評価額が含まれます。また、容易に入手できると考えられる土地の価格指標には以下があります(同適用指針第33項なお書き)。


  1. 公示価格
  2. 都道府県基準地価格
  3. 路線価による相続税評価額
  4. 固定資産税評価額

時価の把握が極めて困難な場合

賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合は、時価を注記せず、重要性が乏しいものを除き、その事由、当該賃貸等不動産の概要および貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に記載します(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第14項)。

賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合には、以下の場合などが考えられますが、賃貸等不動産の状況は一様ではないため状況に応じて適切に判断する必要があります(同適用指針第34項)。


  1. 現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林
  2. 着工して間もない大規模開発中の不動産

賃貸等不動産に関する損益

賃貸等不動産に関する損益を注記するにあたっては、次の事項に留意しなければなりません(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第16項)。


  1. 財務諸表において賃貸等不動産の損益の注記を行う場合、損益計算書における金額に基づくこととなります。この際、損益計算書において、賃貸等不動産に関して直接把握している損益のほか、管理会計上の数値に基づいて適切に算定した額その他の合理的な方法に基づく金額によって開示することができます。
  2. 重要性が乏しい場合を除き、賃貸等不動産に関する賃貸収益とこれに係る費用(賃貸費用)による損益、売却損益、減損損失およびその他の損益等を適切に区分して記載します。
  3. 上記「2」の損益については、収益と費用を総額で記載することができます。また、賃貸費用は、主な費目に区分して記載することができます。

連結財務諸表における賃貸等不動産に関する損益の注記

連結財務諸表において賃貸等不動産に関する損益を注記する場合には、連結損益計算書における金額に基づくこととなります。

また、管理会計上の数値に基づいて適切に算定した額その他の合理的な方法に基づく金額によって開示することができます。例えば、複数の不動産について費用等を一括して把握している場合など、賃貸等不動産の個々の損益を直接的に把握していない場合には、以下のような方法で把握した額を開示できます(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針第35項)。


  1. 連結損益計算書上の賃貸収益およびこれに係る費用を管理会計上の区分割合に基づいて配賦した額
  2. 各不動産の連結相殺消去前の賃貸収益およびこれに係る費用に適切な調整を加えるなど合理的に賃貸等不動産の損益として把握した額

リース取引の対象となっている賃貸等不動産

リース取引の対象となっている賃貸等不動産については、「リース取引に関する会計基準」に従った注記も併せて行う必要があります(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準第31項)。