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資産除去債務

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものをいいます(資産除去債務に関する会計基準第3項(1))

資産除去債務を計上する理由

使用を終えて除去する有形固定資産の中には、例えば原子力発電所のように解体費用が発生するものがあります。

このような有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映することは投資情報として役立つことから、資産除去債務に関する会計基準が公表されました。

また、国際的な会計基準では、資産除去債務を負債として計上し、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理が行われていることから、財務諸表の国際的な比較可能性を確保するために我が国でも資産除去債務に関する会計基準が必要となりました。

有形固定資産の範囲

資産除去債務に関する会計基準でいう有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、それに準じる有形の資産も含まれます(同会計基準第23項)。

したがって、建設仮勘定やリース資産、財務諸表等規則において「投資その他の資産」に分類されている投資不動産などについても、資産除去債務が存在している場合には、同会計基準が適用されます。

資産除去債務の範囲

有形固定資産の除去とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいいます(資産除去債務に関する会計基準第3項(2))。具体的には、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が該当します。

有形固定資産を用役提供から一時的に除外する場合、有形固定資産が遊休状態にある場合は除去に該当しません。転用や用途変更も自ら使用を継続するものであることから除去とはなりません(同会計基準第30項)。

また、資産除去債務は有形固定資産の除去に関わるものなので、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕などは、その対象とはなりません(同会計基準第24項)。

修繕引当金との違い

修繕引当金は、有形固定資産の使用によって将来の修繕が発生することに備えて計上します。

将来の支出に備える点では、資産除去債務も修繕引当金も同じです。

しかし、修繕引当金は、収益との対応を図るために当期の負担に属する金額を計上するものである(費用収益対応の原則)のに対して、資産除去債務は有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映することを目的としている点で異なります。

そのため、固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕などは、修繕引当金の対象となり、資産除去債務とは区別されます。

異常な原因による有形固定資産の除去

資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用により生じるものです。ここで、通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいいます(資産除去債務に関する会計基準第26項)。

そのため、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合には、資産除去債務として使用期間にわたって費用配分すべきものではなく、引当金の計上や減損の適用対象となります。

使用終了前後で除去費用が発生する可能性が高くなった場合

有形固定資産の使用を終了する前後において、当該資産の除去の方針の公表や、有姿除却の実施により、除去費用の発生の可能性が高くなった場合には、当該除去費用は、資産除去債務の対象とはなりません(資産除去債務に関する会計基準第27項)。

有形固定資産を取得した時点または通常の使用を行っている時点において法律上の義務またはそれに準ずるものが存在していない場合は、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用により生じるものには該当しないと考えられます。

ただし、このような場合には、減損や引当金計上の対象となる余地はあります。

特定の有害物質

企業が所有する有形固定資産に特定の有害物質が使用されており、有形固定資産を除去する際に当該有害物質を一定の方法により除去することが、法律等により義務付けられている場合があります。

将来、有形固定資産の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避的であるならば、現時点で当該有害物質を除去する義務が存在していると考えられます。

したがって、有形固定資産自体を除去する義務がなかったとしても、当該有形固定資産に使用されている有害物質自体の除去義務がある場合には、資産除去債務に含まれます(資産除去債務に関する会計基準第29項)。

なお、この場合に資産除去債務の計上の対象となるのは、有害物質の除去に直接関わる費用であり、当該有形固定資産の除去費用全体ではありません。

法律上の義務に準ずるものとは

法律上の義務およびそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務だけでなく、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去する義務も含まれます(資産除去債務に関する会計基準第3項(1))。

ここで、法律上の義務に準ずるものは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令または契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します(同会計基準第28項)。具体的には、以下のものが法律上の義務に準ずるものに該当します。


  1. 法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務
  2. 過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるもの

なお、有形固定資産の除去が、企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しません。