複数基準配賦法による部門別個別原価計算
ここでは、複数基準配賦法による部門別個別原価計算の具体的な計算について解説します。
計算の前提
甲社は、部門別個別原価計算を採用しています。
期首仕掛品
前期末に未完成であった仕掛品の内容は以下の通りです。
当期の原価資料
当期は、製造指図書No.#001~#008の作業を行いました。指図書別の直接材料庫出高、直接作業時間、機械作業時間は以下の通りです。
直接材料費
製品の製造には、A材料とB材料の2種類を消費しています。各材料の実際価格は以下の通りです。
- A材料=20円
- B材料=10円
直接労務費
現場作業員の実際平均賃率は、400円/時間です。
直接経費
#005の外注加工賃は、1,000円でした。
製造間接費
甲社の製造部門には第1部門と第2部門があり、補助部門として修繕部門を設定しています。
各部門の部門個別費は以下の通りです。
- 第1部門:変動費=8,000円、固定費=12,000円
- 第2部門:変動費=7,000円、固定費=8,000円
- 修繕部門:変動費=750円、固定費=4,250円
部門共通費は、10,000円発生し、全て固定費として扱います。なお、部門共通費は、以下の割合で各部門に配賦します。
- 第1部門=45%
- 第2部門=30%
- 修繕部門=25%
修繕部門費は、変動費は修繕時間を基準に、固定費は各部門の機械台数を基準に直接配賦法により実際配賦します。各製造部門の修繕時間と機械台数は以下の通りです。
- 第1部門:修繕時間=550時間、機械台数=8台
- 第2部門:修繕時間=200時間、機械台数=2台
各製品への製造間接費の配賦は、第1部門は実際直接作業時間、第2部門は実際機械作業時間を基準に行っています。
製造間接費は予定配賦しており、第1製造部門の予定配賦率は130円/直接作業時間、第2製造部門の予定配賦率は100円/機械作業時間です。
期末仕掛品
#007と#008は、当期末時点で未完成です。
原価計算表の作成
個別原価計算で、各製品原価を集計する際は、以下のような原価計算表を作成します。
前期繰越高
原価計算表の前期繰越高には、前期末に未完成であった製造指図書No.#001、#002、#003の前期末残高を記入します。
- #001=2,300円
- #002=2,900円
- #003=4,300円
直接材料費
直接材料費は、A材料費とB材料費の2種類があるので、それぞれの実際発生額を各指図書別に計算します。
A材料費
- #003=20円×15個=300円
- #004=20円×50個=1,000円
- #005=20円×55個=1,100円
- #006=20円×70個=1,400円
- #007=20円×50個=1,000円
- #008=20円×30個=600円
B材料費
- #003=10円×10個=100円
- #004=10円×40個=400円
- #005=10円×50個=500円
- #006=10円×60個=600円
- #007=10円×35個=350円
- #008=10円×20個=200円
直接労務費
直接労務費は、各製造指図書別に実際賃率を実際直接作業時間に乗じて計算します。
- #001=400円×20時間=8,000円
- #002=400円×15時間=6,000円
- #003=400円×5時間=2,000円
- #004=400円×50時間=20,000円
- #005=400円×60時間=24,000円
- #006=400円×80時間=32,000円
- #007=400円×5時間=2,000円
- #008=400円×8時間=3,200円
直接経費
直接経費は、製造指図書#005の外注加工賃1,000円だけです。
製造間接費
製造間接費は、各製造指図書別に第1部門は実際直接作業時間、第2部門は実際機械作業時間にそれぞれの予定配賦率を乗じて計算します。
第1部門
- #001=130円×20時間=2,600円
- #002=130円×15時間=1,950円
- #003=130円×5時間=650円
- #004=130円×50時間=6,500円
- #005=130円×60時間=7,800円
- #006=130円×80時間=10,400円
- #007=130円×5時間=650円
- #008=130円×8時間=1,040円
- 第1部門費合計=31,590円
第2部門
- #001=100円×10時間=1,000円
- #002=100円×10時間=1,000円
- #003=100円×4時間=400円
- #004=100円×35時間=3,500円
- #005=100円×40時間=4,000円
- #006=100円×60時間=6,000円
- #007=100円×3時間=300円
- #008=100円×5時間=500円
- 第2部門費合計=16,700円
したがって、製造間接費予定配賦額の合計は48,290円になります。
- 31,590円+16,700円=48,290円
製造原価の計算
以上より、当期の直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費は以下のようになります。
- 直接材料費=7,550円
- 直接労務費=97,200円
- 直接経費=1,000円
- 製造間接費=48,290円
- 当期総製造費用=154,040円
完成品原価
当期は、指図書No.#001から#006まで完成したので、完成品原価は153,700円になります。
- #001=13,900円
- #002=11,850円
- #003=7,750円
- #004=31,400円
- #005=38,400円
- #006=50,400円
- 完成品原価=153,700円
期末仕掛品原価
当期末に指図書No.#007と#008が未完成なので、期末仕掛品原価は9,750円になります。
- #007=4,300円
- #008=5,540円
- 期末仕掛品原価=9,840円
部門費の計算
部門別計算では、製造間接費の実際発生額を計算するために以下のような部門費計算表を作成します。
部門共通費の配賦
部門共通費10,000円は、固定費として扱われ、第1部門に45%、第2部門に30%、修繕部門に25%の割合で配賦します。
- 第1部門=10,000円×45%=4,500円
- 第2部門=10,000円×30%=3,000円
- 修繕部門=10,000円×25%=2,500円
したがって、部門個別費と部門共通費を合計した各部門費の固定費と変動費は以下のようになります。
固定費
- 第1部門=12,000円+4,500円=16,500円
- 第2部門=8,000円+3,000円=11,000円
- 修繕部門=4,250円+2,500円=6,750円
変動費
- 第1部門=8,000円
- 第2部門=7,000円
- 修繕部門=750円
補助部門費の配賦
修繕部門費は、固定費は機械台数、変動費は修繕時間を基準に製造部門に配賦します。
固定費
- 配賦基準単価=6,750円/(8台+2台)=675円/台
- 第1部門への配賦額=675円×8台=5,400円
- 第2部門への配賦額=675円×2台=1,350円
変動費
- 配賦基準単価=750円/(550時間+200時間)=1円/時間
- 第1部門への配賦額=1円×550時間=550円
- 第2部門への配賦額=1円×200時間=200円
製造部門費
各製造部門費は、部門費個別費と共通費の合計額に補助部門費配賦額を加算した金額になります。
- 第1部門費=16,500円+8,000円+5,400円+550円=30,450円
- 第2部門費=11,000円+7,000円+1,350円+200円=19,550円
製造間接費配賦差異
製造間接費配賦差異は、各製造部門の予定配賦額と実際発生額との差として計算します。
- 第1部門費=31,590円-30,450円=1,140円(有利差異)
- 第2部門費=16,700円-19,550円=-2,850円(不利差異)