標準原価計算
標準原価計算とは、原価の流れのどこかで標準原価を組み入れ、標準原価と実際原価を比較して原価差異を計算・分析し、これを関係者に報告する会計システムです。
広義の標準原価計算には、標準原価分析と標準原価計算制度があります。
標準原価分析は、財務会計機構のらち外で、統計資料や原価管理目的だけに行われる原価分析です。
一方の標準原価計算制度は、財務会計機構と有機的に結びついた原価計算制度であり、一般に標準原価計算と言えば、標準原価計算制度を意味します。原価計算基準2では、標準原価計算制度を以下のように規定しています。
標準原価計算制度は、製品の標準原価を計算し、これを財務会計の主要帳簿に組み入れ、製品原価の計算と財務会計とが、標準原価をもって有機的に結合する原価計算制度である。標準原価計算制度は、必要な計算段階において実際原価を計算し、これと標準との差異を分析し、報告する計算体系である。
標準原価とは
標準原価は、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格または正常価格をもって計算した原価のことです。
標準原価と似た概念に予定原価があります。予定原価は、将来における財貨の予定(見積)消費量と予定(見積)価格とをもって計算した原価のことです。
標準原価が科学的、統計的に導き出された原価なのに対して、予定原価は将来の見積りである点で異なっています。
標準原価算定の目的
標準原価算定の目的としては、以下を挙げることができます。
原価管理
原価計算基準40(一)では、原価管理目的について以下のように記述されています。
原価管理を効果的にするための原価の標準として標準原価を設定する。これは標準原価を設定する最も重要な目的である。
実際原価は、財貨の実際消費量をもって計算した原価なので、不能率も含まれ、原価能率を判定する尺度として不十分です。
これに対して標準原価は、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、予定価格または正常価格をもって計算した原価なので、原価能率を判定する尺度として優れています。
財務諸表作成
原価計算基準40(二)では、財務諸表作成目的について以下のように記述されています。
標準原価は、真実の原価として仕掛品、製品等のたな卸資産価額および売上原価の算定基礎となる。
財務諸表作成に役立つ原価数値は、正常消費量が前提となっています。正常消費量の概念を最もよく発揮する原価数値は標準原価であり、真実の原価と考えられています。
しかし、一方で、標準原価は仮定上の原価であり客観性を有していないとして、実際原価を真実の原価とする立場もあります。
標準原価を真実の原価とする立場では、原価差異は全て期間原価として処理することになります。
これに対して、実際原価を真実の原価とする立場では、標準原価によって算定した売上原価や棚卸資産評価額を実際原価に修正すべきとします。具体的には、期末に原価差異を標準原価で算定した売上原価や棚卸資産評価額に加減して、実際原価に修正する処理が要求されます。
予算編成
原価計算基準40(三)では、予算編成目的について、以下のように記述されています。
標準原価は、予算とくに見積財務諸表の作成に、信頼しうる基礎を提供する。
予算編成のためには、科学的調査に基づかない予定(見積)原価を用いるよりも、標準原価を用いる方が信頼性の高い製造費用予算を編成できます。
また、経営意思決定においても、偶然的要因や操業度の季節的変動が排除された標準原価を用いる方が妥当です。
記帳の簡略化・迅速化
原価計算基準40(四)では、記帳の簡略化・迅速化目的について、以下のように記述されています。
標準原価は、これを勘定組織の中に組み入れることによって、記帳を簡略化、じん速化する。
標準原価計算制度は、標準原価の設定、標準原価の算定、差異分析、原価報告という流れであり、実際原価の算定と原価報告の流れしかない実際原価計算制度よりも記帳事務が煩雑になるように思われます。
しかし、標準原価計算制度では、実際生産量や実際販売量に単位当たり標準原価を乗ずることで、製品原価や売上原価を計算できるので、実際原価計算制度よりも記帳が迅速化します。
また、材料や製品の受払は数量のみを記帳すれば良いので、記帳も簡略化できます。