加重平均標準賃率を用いた人員構成差異と作業能率差異の分析
作業時間差異を人員構成差異と作業能率差異に分析する場合、通常の分析方法では、人員構成差異について、平均賃率の低い作業グループの作業時間割合が高くなると不利差異が計算されるという問題点があります。
これは、直接材料費の数量差異を配合差異と歩留差異に分析する場合にも指摘されます。この問題点は、配合差異と歩留差異を加重平均標準価格を用いて分析することで解消されます。
同じように人員構成差異と作業能率差異も、加重平均標準賃率を用いて分析すれば、当該問題点を解消できます。
加重平均標準賃率を用いた分析方法
加重平均標準賃率を用いて作業時間差異を人員構成差異と作業能率差異に細分析する場合、以下のように計算します。
- 人員構成差異
=(標準賃率-加重平均標準賃率)×(標準作業時間-実際作業時間) - 作業能率差異
=加重平均標準賃率×(標準作業時間-実際作業時間)
上記計算式を図示すると以下のようになります。
計算例
甲社は標準原価計算を採用しています。
製造作業は、工員を第1グループと第2グループに分けて行っており、両グループで異なる賃率を適用しています。
作業時間差異は、加重平均標準賃率を用いて人員構成差異と作業能率差異に分析します。
直接労務費の原価標準
標準作業時間
製品1単位あたりの標準直接作業時間は以下の通りです。
- 第1グループ=3時間
- 第2グループ=2時間
- 合計=5時間
標準賃率
各グループの標準賃率は以下の通りです。
- 第1グループ=1,200円/時間
- 第2グループ=1,000円/時間
実際の生産データ
実際作業時間と完成品数量
当期の実際作業時間と完成品数量は以下の通りです。
- 第1グループ=3,800時間
- 第2グループ=2,350時間
- 合計=6,150時間
- 完成品数量=1,200単位
実際賃率
各グループの実際賃率は以下の通りです。
- 第1グループ=1,230円/時間
- 第2グループ=1,020円/時間
加重平均標準賃率の計算
加重平均標準賃率は、以下の計算式で算定します。
- 加重平均標準賃率=Σ(標準賃率×標準作業時間)/Σ(標準作業時間)
したがって、加重平均標準賃率は1,120円になります。
- 加重平均標準賃率
=(1,200円×3時間+1,000円×2時間)/(3時間+2時間)
=1,120円/時間
第1グループの差異分析
第1グループの差異分析を行うためには、実際完成品数量における標準作業時間を算定しなければなりません。
- 標準作業時間
=実際完成品数量×標準作業時間合計×(各グループの標準作業時間/標準作業時間合計)
=1,200単位×5時間×(3時間/5時間)=3,600時間
標準作業時間を求めた後は、以下の図を作成し、差異分析を行います。
第1グループの差異合計
第1グループの差異合計は、標準原価と実際原価の差として求めます。
- 第1グループの差異合計
=1,200円×3,600時間-1,230円×3,800時間
=-354,000円(不利差異)
作業能率差異
作業能率差異は、加重平均標準賃率を標準作業時間と実際作業時間との差に乗じて計算します。
- 作業能率差異
=1,120円×(3,600時間-3,8000時間)
=-224,000円(不利差異)
人員構成差異
人員構成差異は、標準賃率と加重平均標準賃率との差を標準作業時間と実際作業時間との差にを乗じて計算します。
- 人員構成差異
=(1,200円-1,120円)×(3,600時間-3,800時間)
=-16,000円(不利差異)
賃率差異
- 賃率差異
=(1,200円-1,230円)×3,800時間=-114,000円(不利差異)
第2グループの差異分析
第2グループも第1グループと同じ方法で差異分析を行います。
- 標準作業時間
=1,200単位×5時間×(2時間/5時間)=2,400時間
標準作業時間を求めた後は、以下の図を作成し、差異分析を行います。
第2グループの差異合計
第2グループの差異合計は、標準原価と実際原価の差として求めます。
- 第2グループの差異合計
=1,000円×2,400時間-1,020円×2,350時間
=3,000円(有利差異)
作業能率差異
作業能率差異は、加重平均標準賃率を標準作業時間と実際作業時間との差に乗じて計算します。
- 作業能率差異
=1,120円×(2,400時間-2,350時間)
=56,000円(有利差異)
人員構成差異
人員構成差異は、標準賃率と加重平均標準賃率との差を標準作業時間と実際作業時間との差にを乗じて計算します。
- 人員構成差異
=(1,000円-1,120円)×(2,400時間-2,350時間)
=-6,000円(不利差異)
賃率差異
- 賃率差異
=(1,000円-1,020円)×2,350時間=-47,000円(不利差異)
直接労務費の差異合計
以上より、第1グループと第2グループの差異を合計した直接労務費差異は以下の通りです。
- 直接労務費差異
=-354,000円+3,000円=-351,000円(不利差異) - 作業能率差異
=-224,000円+56,000円=-168,000円(不利差異) - 人員構成差異
=-16,000円+(-6,000円)=-22,000円(不利差異) - 賃率差異
=-114,000円+(-47,000円)=-161,000円(不利差異)
加重平均標準賃率を用いた差異分析では、各作業グループの作業能率差異と人員構成差異は、通常の分析方法と計算結果が異なります。
しかし、作業能率差異と人員構成差異の合計は通常の分析方法と一致します。
上記の計算例は、通常の分析方法の計算例と計算の前提は同じなので、両者の違いを確認してください。