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法人税、住民税及び事業税等の会計処理

当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等については、法令にしたがい算定した額(税務上の欠損金の繰戻しにより還付を請求する法人税額および地方法人税額を含む。)を損益に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5項)。

損益以外に計上する法人税、住民税及び事業税等

以下の場合には、損益以外の区分に法人税、住民税及び事業税等を計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5項(1)および(2))。


  1. 企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引のうち、損益に反映されないものに対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等

  2. 資産または負債の評価替えにより生じた評価差額等(評価差額等)に対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等

企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引のうち、損益に反映されないものに対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等

純資産の部の株主資本の区分に計上します。具体的には、当該法人税、住民税及び事業税等を株主資本の対応する内訳項目から控除します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-2項(1))。

株主資本に対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を純資産の部の株主資本の区分に計上する場合としては、次のようなものが考えられます(同会計基準第29-4項)。


  1. 子会社等が保有する親会社株式等を企業集団外部の第三者に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い(自己 株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針第16項)

  2. 子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い(税効果会計に係る会計基準の適用指針第40項)

  3. 子会社に対する投資の一部売却後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合における親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額についての売却時の取扱い(税効果会計に係る会計基準の適用指針第28項)

資産または負債の評価替えにより生じた評価差額等(評価差額等)に対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等

評価差額等に対して課される当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等については、以下の区分に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-2(2))。


  1. 個別財務諸表
    純資産の部の評価・換算差額等の区分に計上します。具体的には、当該法人税、住民税及び事業税等を、評価・換算差額等の対応する内訳項目から控除します。

  2. 連結財務諸表
    その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額の区分に計上します。具体的には、当該法人税、住民税及び事業税等を、その他の包括利益の対応する内訳項目から控除します。

適用する税率

損益以外の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等については、課税の対象となった取引等について、株主資本、評価・換算差額等またはその他の包括利益に計上した額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-4項)。

この場合、損益に計上する法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した額から、法定実効税率に基づいて算定した株主資本、評価・換算差額等またはその他の包括利益に計上する法人税、住民税及び事業税等の額を控除した額となります。

個別損益計算書に計上する法人税、住民税及び事業税等


  • 損益に計上する法人税、住民税及び事業税等
    =法令に従い算定した額-法定実効税率に基づいて算定した株主資本、評価・換算差額等に計上する法人税、住民税及び事業税等の額

連結損益計算書に計上する法人税、住民税及び事業税等


  • 損益に計上する法人税、住民税及び事業税等
    =法令に従い算定した額-法定実効税率に基づいて算定した株主資本、その他の包括利益に計上する法人税、住民税及び事業税等の額

なお、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合には、損益以外に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができます(同会計基準第5-4項ただし書き)。

損益への計上時期

株主資本、評価・換算差額等またはその他の包括利益に計上した法人税、住民税及び事業税等については、過年度に計上された資産または負債の評価替えにより生じた評価差額等を損益に計上した時点で、これに対応する税額を損益に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-5項)。

当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等をその他の包括利益累計額または評価・換算差額等に計上した後に税法の改正にともない税率が変更された場合には、税法の改正時に税率の変更に係る差額を組替調整(リサイクリング)する必要はありません(同会計基準第29-10項)。

したがって、過年度に計上された資産または負債の評価替えにより生じた評価差額等を損益に計上した時点のみにおいて、リサイクリングが求められます。

重要性が乏しい場合

損益以外に計上すべき法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、損益に計上することができます(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-3項(1))。

当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、損益、株主資本およびその他の包括利益に区分して計上する取扱いを一律に求める場合、コストが便益に見合わないこともあります。そのため、損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができるものとしています(同会計基準第29-5項)。

複数の区分に関連することにより、株主資本またはその他の包括利益に計上する金額を算定することが困難な場合

以下の2つの要件を満たす場合、損益以外に計上すべき法人税、住民税及び事業税等を損益に計上することができます(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第5-3項(2))。


  1. 課税の対象となった取引や事象(取引等)が、損益に加えて、損益以外の区分に関連していること
  2. 損益に計上されない法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難であること

上記に該当する場合として、退職給付に関する取引が想定されています(同会計基準第29-7項)。

確定給付企業年金では、支出した掛金等の額は、税務上、支出の時点で損金の額に算入されます。一方、会計上は、掛金等の額は退職給付に係る負債の減額として扱われ、当該退職給付に係る負債は連結財務諸表上、その他の包括利益として計上した未認識数理計算上の差異等を含みます。

そこで、その他の包括利益に対して課税されているかどうかが問題となります。

掛金等の額は確定給付企業年金制度等に基づいて計算されていますが、当該計算と会計上の退職給付計算は、その方法や基礎が異なることから、掛金等の額を数理計算上の差異等と紐づけることは困難であり、掛金等の額に数理計算上の差異等に対応する部分が含まれるか否かは一概には決定できません。また、そのような金額の算定は困難であると考えられます。

これに対しては、何らかの仮定に基づいて、その他の包括利益に対する課税額を算定することも想定されますが、そのような仮定に基づいて会計処理された情報の有用性は限定的と考えられます。

そのため、退職給付に関しては、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、損益、株主資本およびその他の包括利益に区分して計上する取扱いに対する例外としています(同会計基準第29-6項)。

更正等による追徴および還付

追徴税額

過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追加で徴収される可能性が高く、当該追徴税額を合理的に見積ることができる場合、原則として、当該追徴税額を損益に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第6項)。

なお、更正等による追徴に伴う延滞税、加算税、延滞金および加算金については、当該追徴税額に含めて処理します(同会計基準第6項なお書き)。

ただし、追徴税額が、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第4項(8)に定める誤謬に該当するときは、当該会計基準にしたがいます。

還付税額

過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、当該還付税額を損益に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第7項)。

ただし、還付税額が、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第4項(8)に定める誤謬に該当するときは、当該会計基準にしたがいます。

追徴税額が還付される場合

過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により追徴税額を納付したが、当該追徴の内容を不服として法的手段を取る場合において、還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、当該還付税額を損益に計上します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第8項)。

ただし、還付税額が、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第4項(8)に定める誤謬に該当するときは、当該会計基準にしたがいます。

損益に計上されない法人税、住民税及び事業税等に関する追徴税額および還付税額

損益に計上されない法人税、住民税及び事業税等に関する追徴税額および還付税額(過年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等)については、損益以外に計上する法人税、住民税及び事業税等の定めに準じて処理します(法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準第8-2項)。