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確定給付制度における数理計算上の差異の会計処理

「退職給付に関する会計基準 第11項」では、数理計算上の差異について以下のように規定しています。

「数理計算上の差異」とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいう。なお、このうち当期純利益を構成する項目として費用処理(費用の減額処理又は費用を超過して減額した場合の利益処理を含む。以下同じ。)されていないものを「未認識数理計算上の差異」という

数理計算上の差異が発生する理由

退職給付債務や年金資産は、期首時点で期末の予定額を計算します。したがって、期末に退職給付債務や年金資産の実績と期首時点で計算したそれらの予定額との間に差異が生じることがあります。

また、退職給付債務の見積計算に用いる予定脱退率や予定昇給率、年金資産の見積計算に用いる長期期待運用収益率などの見積数値の変更を行った場合にも、見積数値の見直しの前後で差異が生じます。

これら見積数値と実績との差異、見積数値の変更等により発生した差異を数理計算上の差異といいます。

例えば、期首の退職給付債務が3,000千円、当期の勤務費用が200千円、利息費用が150千円だった場合、期末の退職給付債務の見積額は3,350千円となります。

期末の退職給付債務の見積額=3,000千円+200千円+150千円=3,350千円

しかし、期末に実績を調べてみると退職給付債務が3,400千円だったとします。この場合、実績と期首の見積との差額50千円が数理計算上の差異となります。

数理計算上の差異=3,400千円-3,350千円=50千円

数理計算上の差異の費用処理

数理計算上の差異は、実績と見積との差であるので、調整される必要があります。見積を実績に調整する方法として、数理計算上の差異を費用処理する方法が考えられます。

「退職給付に関する会計基準 第24項」では、数理計算上の差異は、原則として各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理すると規定されています。

ここで平均残存勤務期間とは、在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間を意味し、原則として退職率と死亡率を加味した年金数理計算上の脱退残存表を用いて算定しますが、それ以外の方法で計算することもできます。

費用処理年数の決定方法と費用処理方法の選択

数理計算上の差異の費用処理年数の決定方法には、以下の方法が考えられます。

  1. 発生年度に全額を費用処理する方法
  2. 平均残存勤務期間とする方法
  3. 平均残存勤務期間以内の一定の年数とする方法

上記「2」または「3」の方法で費用処理年数を決定した場合には、費用処理方法を選択しなければなりません。数理計算上の差異の費用処理方法には、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する定額法の他に未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する定率法も認められています。

なお、一度採用した費用処理方法は、正当な理由により変更する場合を除き、継続性の原則から途中で変更することはできません。

定額法

数理計算上の差異を定額法で費用処理する場合、発生年度ごとに数理計算上の差異を管理する必要があります。例えば、x1年に50千円、x2年に30千円の数理計算上の差異が発生した場合、各期の費用処理額は以下のようになります。なお、費用処理年数は10年とします。

x1年

費用処理額=50千円/10年=5千円

x2年

x1年分=50千円/10年=5千円
x2年分=30千円/10年=3千円

費用処理額=5千円+3千円=8千円

定率法

数理計算上の差異を定率法で費用処理する場合、発生年度ごとに数理計算上の差異を管理せず、未認識数理計算上の差異の残高に定率を乗じて費用処理額を計算します。

定率法の例を以下に示します。なお、数理計算上の差異の各期の発生額は定額法の場合と同じとし、費用処理年数10年の定率は0.206とします。

x1年

費用処理額=50千円×0.206=10千円

x2年

費用処理額=(50千円-10千円+30千円)×0.206=14千円