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未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の会計処理

「退職給付に関する会計基準 第15項」では、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用について以下のように会計処理すべきことが規定されています。

数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上する。その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行う

数理計算上の差異及び過去勤務費用の会計処理の考え方

現行の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異及び過去勤務費用については、発生年度に一時の費用とはせず、平均残存勤務期間以内の一定の年数にわたって費用処理することを規定しています。

過去勤務費用については、その発生原因である給付水準の改定等が従業員の勤労意欲を将来にわたって向上させるという期待のもとに行われる面があるので、これを一時の費用とするのは、必ずしも妥当な会計処理とは言えません。

また、数理計算上の差異についても、その発生が予測と実績の乖離だけではなく、予測数値の修正も反映されることから、過去勤務費用と同様に一時の費用として扱うことは、必ずしもその性格を表したものとは言えません。

上記の理由から、数理計算上の差異及び過去勤務費用については、一定の年数での規則的処理を採用しています。なお、数理計算上の差異については、発生年度に全額費用処理する方法を継続適用することも、一定の年数での規則的処理に該当します。

回廊基準と重要性基準

数理計算上の差異の取り扱いについては、回廊基準の適用も考えられます。

回廊基準とは、退職給付債務の数値を毎期末時点において厳密に計算し、その結果生じた数理計算上の差異に一定の許容範囲を設けて、その範囲内にある場合には、直ちに費用処理しない考え方です。

毎期末に退職給付債務を計算して発生する数理計算上の差異は、その年度によって、利益(純資産)に対して有利な場合もあれば不利な場合もあります。そのため、毎期発生する数理計算上の差異に相殺効果が期待できるので、一定の範囲内であれば、費用処理しないことが許容されます。

しかし、回廊基準は、長期にわたって数理計算上の差異が、財務諸表に反映されないといった問題があります。

我が国では、回廊基準ではなく重要性基準が採用されています。

重要性基準は、割引率など基礎率等の計算基礎に重要な変動が生じない場合には計算基礎を変更しない等計算基礎の決定にあたって合理的な範囲で重要性による判断を認める方法です。

退職給付費用は、長期的な見積計算であるため、重要性の判断を認めることが妥当と考えられます。なお、「退職給付に関する会計基準注解(注8)」では、「割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる」と規定されています。これは、重要性基準の考え方を採用したものです。

未認識項目の取扱い

当期に発生し、費用処理されなかった未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、その他の包括利益に含めて計上します。

また、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用については、税効果を調整の上、純資産の部におけるその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」等の適当な科目をもって計上します。

その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。

上記の取扱いは、平成24年改正基準からであり、当面の間は連結財務諸表に適用され、個別財務諸表では適用されません。

平成24年改正基準での個別財務諸表における当面の取扱い

個別財務諸表上は、当面の間、以下のように取り扱われます。

  1. 個別貸借対照表上は、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を負債として計上します。ただし、年金資産が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、資産として計上します。
  2. 連結貸借対照表上、「退職給付に係る負債」と表示されている科目は、個別財務諸表上は、「退職給付引当金」として固定負債に計上します。また、連結貸借対照表上、「退職給付に係る資産」と表示されている科目は、個別貸借対照表上は、「前払年金費用」等の適当な科目をもって固定資産に計上します。