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厚生年金基金の代行返上(将来分返上認可を受けた年度)の会計処理

ここでは、厚生年金基金制度の将来分返上認可を受けた年度の代行返上の会計処理を具体的な数値を用いて解説します。

具体例

ワークシート作成に当たっての前提は以下の通りです。

  1. 数理計算上の差異は発生年度の翌期から定率法(10年、償却率0.206)で費用処理する。
  2. 過去勤務費用は発生年度別に10年間にわたり定額法で費用処理する。
  3. 税効果については考慮しない。
  4. ワークシート上で用いる記号は次の通りである。
    S=勤務費用、I=利息費用、R=期待運用収益
    PSC=過去勤務費用の発生額、AGL=数理計算上の差異の発生額
    A=過去勤務費用及び数理計算上の差異の費用処理額
    P=年金または退職金支払額、C=事業主による掛金拠出部分
    EC=従業員による掛金拠出部分

x2年度の会計処理

x2年度の退職給付に関する内容は以下の通りです。

  1. x2年7月31日に厚生年金基金の代議員会において、将来分支給義務の免除の認可の申請に関して議決が行われた。
  2. x2年11月1日(将来分返上認可の日)における代行部分に係る退職給付債務は、当該認可の直前の退職給付債務が1,000、将来分支給義務免除を反映した退職給付債務が950であった。
  3. 期首時点(x2年4月1日)の退職給付債務は1,600、年金資産は1,200、未認識数理計算上の差異は200であった。
  4. 年間の勤務費用は120、割引率は4.0%である。
  5. 長期期待運用収益率は5.0%
  6. 年金掛金は60であった。
  7. 掛金拠出額のうち12は従業員からの拠出である。
  8. 将来分返上認可の日までの年金給付額は40であった。
  9. 将来分返上認可の日後の年金給付額は10であった。
  10. 期末(x3年3月31日)の退職給付債務は1,600、年金資産の時価は1,250であった。

x2年4月1日から10月31日までのワークシートを作成すると以下のようになります。

将来分返上認可のワークシート(将来分返上前まで)
  1. 退職給付費用(7ヶ月)の「S」には、年間勤務費用120の7ヶ月分の70が入ります。
    S=120/12ヶ月×7ヶ月=70
  2. 退職給付費用(7ヶ月)の「I」には、期首退職給付債務に割引率を乗じた利息費用の7ヶ月分が入ります。
    I=1,600×4.0%/12ヶ月×7ヶ月=37
  3. 退職給付費用(7ヶ月)の「R」には、期首年金資産に長期期待運用収益率を乗じた期待運用収益の7ヶ月分が入ります。
    R=1,200×5.0%/12ヶ月×7ヶ月=35
  4. 退職給付費用(7ヶ月)の「A」には、数理計算上の差異の費用処理額7ヶ月分が入ります。
    A=200×0.206/12ヶ月×7ヶ月=24
  5. 年金/掛金支払額(7ヶ月)の「P」には、将来分返上認可の日までの年金給付額40が入ります。
  6. 年金/掛金支払額(7ヶ月)の「C」には、年間の年金掛金60から従業員拠出12を差し引いた48の7ヶ月分28が入ります。
    C=(60-12)/12ヶ月×7ヶ月=28
  7. 年金/掛金支払額(7ヶ月)の「EC」には、年間の従業員拠出12の7ヶ月分7が入ります。
    C=12/12ヶ月×7ヶ月=7

代行返上の認可の日(x2年11月1日)までのワークシートを作成すると以下のようになります。

将来分返上認可のワークシート(将来分返上認可の日まで)
  1. 代行返上認可の日の直前の退職給付債務1,000から将来分支給義務免除を反映した退職給付債務950を差し引いた50が過去勤務費用(PSC)として認識されます。
  2. x2年11月1日時点の退職給付債務は、10月31日の退職給付債務1,667から過去勤務費用50を差し引いた1,617となります。

代行返上認可の日から期末予測までのワークシートを作成すると以下のようになります。

将来分返上認可のワークシート(期末予測まで)
  1. 退職給付費用(5ヶ月)の勤務費用「S」には、代行返上がなければ、年間勤務費用120の5ヶ月分である50が入るところですが、代行部分の将来分支給義務が免除されたため減少します。ワークシートでは便宜上、勤務費用は47としています。
  2. 退職給付費用(5ヶ月)の利息費用「I」には、x2年11月1日の退職給付債務に割引率を乗じた金額の5ヶ月分27が入ります。
    I=1,617×4.0%/12ヶ月×5ヶ月=27
  3. 退職給付費用(5ヶ月)の期待運用収益「R」には、x2年11月1日の年金資産に長期期待運用収益率を乗じた金額の5ヶ月分26が入ります。
    R=1,230×5.0%/12ヶ月×5ヶ月=26
  4. 退職給付費用(5ヶ月)の数理計算上の差異の費用処理額「A」には、期首の未認識数理計算上の差異に償却率を乗じた金額の5ヶ月分が入ります。
    数理計算上の差異の費用処理額「A」=300×0.206/12ヶ月×5ヶ月=17
  5. 退職給付費用(5ヶ月)の過去勤務費用の費用処理額「A」には、x2年11月1日の未認識過去勤務費用に10年の定額法で計算した金額の5ヶ月分が入ります。
    過去勤務費用の費用処理額「A」=50/10年/12ヶ月×5ヶ月=2
  6. 年金/掛金支払額(5ヶ月)の「P」には将来分返上認可の日後の年金給付額10が入ります。なお、将来分返上認可の日以降の給付額は、将来分支給義務が免除されたため減少します。
  7. 年金/掛金支払額(5ヶ月)の「C」には将来分返上認可の日後の年金掛金支払額が入ります。なお、将来分返上認可の日以降の掛金は、加算部分のみ厚生年金基金に支払われます。なお、便宜上、ここでは「C」の金額を15としています。

期末実際までのワークシートを作成すると以下のようになります。

将来分返上認可のワークシート(期末実際まで)
  1. 退職給付債務の数理計算上の差異「AGL」は、期末実際と期末予測との差として計算された81となります。
    退職給付債務の数理計算上の差異=1,681-1,600=81
  2. 年金資産の数理計算上の差異「AGL」は、期末予測と期末実際との差として計算された11となります。
    年金資産の数理計算上の差異=1,261-1,250=11

上記の厚生年金基金の将来分返上認可を受けた年度の会計処理の全仕訳を示すと以下のようになります。

将来分返上認可の全仕訳