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小規模企業等における簡便法の会計処理

「退職給付に関する会計基準 第26項」では、小規模企業等のように原則的な退職給付の計算が困難な場合に簡便法の適用を認めています。

従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性を持って数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができる。

簡便法を認めている理由と適用範囲

小規模な企業の場合、従業員の年齢や勤続期間に偏りがあることなどにより数理計算結果に一定の高い水準の信頼性を得られないことがあります。

そのため、費用対効果の観点に基づいて簡便法を容認する必要性があります。

「退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項」では、簡便法の適用が認められる小規模企業等は、原則として従業員数300人未満の企業と規定されています。従業員数が300人以上であっても年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます。

なお、ここでいう従業員数とは、退職給付債務の計算の対象となる従業員数を意味しています。そのため、複数の退職給付制度を有する企業は、制度ごとに簡便法を適用するかどうかを判断しなければなりません。

簡便法による退職給付債務の計算

「退職給付に関する会計基準の適用指針 第50項」では、退職一時金制度と企業年金制度に分けて、簡便法での退職給付債務の計算方法を規定しています。なお、企業はいったん選択した簡便法を継続適用しなければなりません。

退職一時金制度

退職一時金制度の簡便法は以下の3通りの方法があります。

  1. 比較指数を用いる方法
    「退職給付に関する会計基準」の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算し、当該退職給付債務の額と自己都合要支給額との比(比較指数)を求め、期末時点の自己都合要支給額に比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする方法

  2. 期末自己都合要支給額に係数を乗じる方法
    退職給付に係る期末自己都合要支給額に「退職給付に関する会計基準の適用指針」で示されている昇給率と割引率の係数表から、平均残存勤務期間に対応する昇給率と割引率の各係数を乗じた額を退職給付債務とする方法

  3. 期末自己都合要支給額を計上する方法
    退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法

企業年金制度

企業年金制度の簡便法は以下の3通りの方法があります。

  1. 比較指数を用いる方法
    「退職給付に関する会計基準」の適用初年度の期首における退職給付債務の額を原則法に基づき計算し、当該退職給付債務の額と年金財政計算上の数理債務との比(比較指数)を求め、直近の年金財政計算における数理債務の額に比較指数を乗じた金額を退職給付債務とする方法

  2. 在籍従業員と年金受給者及び待期者を区分計算する方法
    在籍する従業員については退職一時金制度の「2」または「3」の方法により計算した金額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする方法

  3. 年金財政計算上の数理債務を計上する方法
    直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とする方法

退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合

退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合には、以下の2通りの方法のいずれかを選択適用します。

  1. 退職一時金と企業年金を別々に計算する方法
    退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を退職一時金制度、企業年金制度のそれぞれについて簡便法で計算する方法

  2. 退職給付制度全体を退職一時金制度に戻して計算する方法
    在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする方法

簡便法による退職給付に係る負債の計算

簡便法を適用した場合の退職給付に係る負債(又は退職給付に係る資産)は、以下の金額となります。

  1. 非積立型の退職給付制度については、「簡便法による退職給付債務の計算」によって計算された退職給付債務の額

  2. 積立型の退職給付制度については、上記「1」の金額から年金資産の額を控除した金額

簡便法による退職給付費用の計算

簡便法を適用した場合、次の差額を当年度の退職給付費用とします。

  1. 非積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期退職給付の支払額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債との差額

  2. 積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期拠出額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債との差額

簡単にいうと、期首と期末の退職給付債務の差額が退職給付費用となります。そのため、原則法で計算する場合のように数理計算上の差異過去勤務費用は把握されません。