退職給付信託の設定に関する会計処理
ここでは、退職給付信託の設定に関する会計処理を具体的な数値を用いて解説します。なお、計算の前提は以下の通りです。
- D社は確定給付企業年金制度を採用している。
- 数理計算上の差異は発生年度の翌期から定率法(10年、償却率0.206)で費用処理する。
- 過去勤務費用は発生年度別に10年間にわたり定額法で費用処理する。
- 税効果については、その他の包括利益(退職給付に係る調整額)に関連するものだけを示す。法定実効税率は40%、繰延税金資産の回収可能性は常にあるものとする。
- ワークシート上で用いる記号は次の通りである。
S=勤務費用、I=利息費用、R=期待運用収益
PSC=過去勤務費用の発生額、AGL=数理計算上の差異の発生額
A=過去勤務費用及び数理計算上の差異の費用処理額
P=年金または退職金支払額、C=掛金拠出額
会計処理
D社のx1年度の確定給付企業年金制度に関する内容は以下の通りです。
- 期首時点(x1年4月1日)の退職給付債務は2,000、年金資産は1,200。
- x1年4月1日に、保有株式(簿価500)を退職給付信託に拠出した(信託財産)。同日の時価は650であった。
- 当期の勤務費用は100、利息費用は80(割引率は4.0%)であった。
- 当期の年金資産に係る期待運用収益は60(長期期待運用収益率5.0%)と計算された。また、信託財産に係る期待運用収益は22(長期期待運用収益率3.4%)と計算された。
- 当期の年金給付支払額は50、掛金拠出額は90であった。
- 期末(x2年3月31日)の退職給付債務は2,130と計算され、年金資産の時価は1,400、信託財産の時価は700であった。
x1年度のD社の確定給付企業年金制度に関するワークシートを期末予測まで作成すると以下のようになります。
- 「退職給付信託設定」には、信託した有価証券の時価650が入ります。なお、簿価と時価の差額150は、退職給付信託設定益に計上されます。
退職給付信託設定益=650-500=150 - 「退職給付費用」の「S」には、勤務費用100が入ります。
- 「退職給付費用」の「I」には、期首退職給付債務に割引率を乗じた利息費用80が入ります。
利息費用=2,000×4.0% - 「退職給付費用」の年金資産の「R」には、期首年金資産に長期期待運用収益率を乗じた期待運用収益60が入ります。
年金資産の期待運用収益=1,200×5.0% - 「退職給付費用」の信託財産の「R」には、信託財産に長期期待運用収益率を乗じた期待運用収益22が入ります。
信託財産の期待運用収益=650×3.4% - 「年金/掛金支払額」の「P」には、当期の年金給付支払額50が入ります。退職給付債務と年金資産は、年金給付支払額50だけ減少します。
- 「年金/掛金支払額」の「C」には、掛金拠出額90が入ります。
- 退職給付債務の「期末予測」には、期首退職給付債務に「退職給付費用」と「年金/掛金支払額」を加減算した金額2,130が入ります。年金資産の「期末予測」には、期首年金資産に「退職給付費用」と「年金/掛金支払額」を加減算した金額1,300が入ります。信託財産の「期末予測」には、当期に信託した650に「退職給付費用」を加算した672が入ります。
「期末予測」から「期末実際」までのワークシートは以下のようになります。
- 退職給付債務の「期末実際」には、期末に計算された退職給付債務2,130が入ります。年金資産の「期末実際」には、期末の年金資産の時価1,400が入ります。信託財産の「期末実際」には信託財産の時価700が入ります。
- 「数理計算上の差異」の年金資産の「AGL」には、年金資産の期末予測と期末実際との差として計算された100が入ります。
- 「数理計算上の差異」の信託財産の「AGL」には、信託財産の期末予測と期末実際との差として計算された28が入ります。
- 未認識数理計算上の差異は、税効果(実効税率40%)を調整した上で、77が退職給付に係る調整額となり、51が繰延税金資産に計上されます。ただし、年金資産から発生した数理計算上の差異は、貸方差異なので、退職給付に係る調整額は借方、繰延税金資産は貸方に計上されることになります。
退職給付信託の設定の仕訳
D社の退職給付信託の設定に関する全仕訳を示すと以下のようになります。