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受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理

個別財務諸表における処理

総額法の適用

受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、対象となる信託が、以下の要件をいずれも満たす場合には、企業は期末において総額法を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第10項および第5項)。


  1. 委託者が信託の変更をする権限を有している場合
  2. 企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合

従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引については、上記「1」の要件が含まれます。また、企業への労働サービスの提供の対価として従業員に信託財産である自社の株式が交付されることを考えると、企業に追加的に労働サービスが提供され、当該サービスを企業が消費することにより、信託財産の経済的効果が企業に帰属する側面もあると考えられることから、上記「2」の要件についても満たします(同取扱い第10項および第41項)。

自己株式処分差額の認識時点

信託による企業の株式の取得が、企業による自己株式の処分 により行われる場合、企業は、自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針第5項に従い、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第11項および第7項)。

これについては、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引では企業からの資金の拠出により行われることから、信託に対する自己株式の処分が経済的実態として行われているかどうか疑問が残るとの見解があります(同取扱い第43項)。

しかし、企業と同一の存在とはみなせない他益信託を利用することおよび自己株式の処分が法的に有効であることを前提としていることから、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引と同様に信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識することとしています(同取扱い44項)。

従業員へのポイントの割当等に関する会計処理

企業は、従業員に割り当てられたポイントに応じた株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として、費用およびこれに対応する引当金を計上します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第12項)。

上記のように会計処理するのは、以下の理由によります(同会計基準第48項)。


  1. 当該取引の自社の株式を用いたインセンティブ・プランとしての性質を踏まえた場合、取引の性質としてストック・オプションと類似性があると考えられるため、ストック・オプション等に関する会計基準と同様に、取引開始後の自社の株式の株価を反映しない処理とすべきである。

  2. 企業の負担は信託に資金を拠出した時点で確定しているため、当該費用総額を予定される交付株式数で配分することが適切である。

  3. 自己株式の処分を、「企業から信託へ自社の株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」とすることと整合的である。

なお、信託による自社の株式の取得が複数回にわたって行われる場合には、従業員に割り当てられたポイントに関する費用およびこれに対応する引当金は、平均法または先入先出法により算定します(同取扱い第12項)。

期末における総額法等の会計処理

企業は、期末における総額法の適用に際して、以下に留意する必要があります(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第14項)。


  1. 信託に残存する自社の株式(信託から従業員に交付していない株式)を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は下記「2」の信託に関する諸費用に含めることとする。

  2. 信託が保有する株式に対する企業からの配当金および信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上する。

  3. 企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式は、法的な保有者が異なるため、連結財務諸表における親会社が保有する自己株式と連結子会社が保有する親会社株式と同様に、それらの帳簿価額を通算しない(同取扱い第8項(4))。

  4. 企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引については、相殺消去を行わないものとする。


連結財務諸表における処理

受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引を実施する企業は、信託について子会社または関連会社に該当するか否かの判定を要しません(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第15項)。

これは、総額法により信託財産が企業の個別財務諸表において計上 される結果、実質的に信託財産がすべて連結財務諸表に反映されるからです(同取扱い第60項および第38項)。

なお、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、 そのまま引き継ぎます(同取扱い第15項なお書き)。