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従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する会計処理

個別財務諸表における処理

総額法の適用

従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、対象となる信託が、以下の要件をいずれも満たす場合には、企業は期末において総額法を適用し、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第5項)。


  1. 委託者が信託の変更をする権限を有している場合
  2. 企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合

従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引については、上記「1」の要件が含まれますが、信託の借入金に企業が債務保証を行っていることから上記「2」の要件についても満たすものとします(同取扱い第6項および第29項)。

自己株式処分差額の認識時点

信託による企業の株式の取得が、企業による自己株式の処分 により行われる場合、企業は、自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針第5項に従い、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第7項)。

自己株式の処分を信託から従業員持株会へ株式を売却した時点で、企業において処分差額を認識する方法も考えられますが、以下の理由から信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識することとしています(同取扱い第32項)。


  1. 自己株式の処分を株主との間の資本取引であり資本の払込の性格を有すると位置づければ、会社法上、募集株式の発行等の手続による自己株式の処分の効力が生じるのが払込期日とされている取扱いと整合性がある。

  2. 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱いは、従業員を受益者とする他益信託を対象としており企業と当該信託を同一の存在とみなすことは必ずしも適切ではないと考えられる。そして、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することは、この考え方と整合的である。

期末における総額法等の会計処理

一般的に、総額法は、信託の資産および負債を企業の資産および負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上することを意味します(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い脚注6)。

ただし、信託における損益が最終的に従業員に帰属する点を考慮し、企業は、期末における総額法等の適用に際して、以下に留意する必要があります(同取扱い第8項および脚注6ただし書き)。


  1. 信託に残存する自社の株式(信託から従業員持株会に交付していない株式)を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は下記「2」の信託に関する諸費用に含める。

  2. 信託から従業員持株会に売却された株式に係る売却差損益、信託が保有する株式に対する企業からの配当金および信託に関する諸費用の純額が、正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に、それぞれ適当な科目を用いて計上する。

  3. 信託の終了時に、信託において借入金の返済や信託に関する諸費用を支払うための資金が不足する場合、債務保証の履行により企業が不足額を負担することとなる。信託終了時に企業が信託の資金不足を負担する可能性がある場合には、企業会計原則注解(注18)に従い、負債性の引当金の計上の要否を判断する。

  4. 自己株式の処分および消却時の帳簿価額は、株式の種類ごとに算定する(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第13項および第48項)が、企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式は法的な保有者が異なるため、連結財務諸表における親会社が保有する自己株式と連結子会社が保有する親会社株式と同様に、それらの帳簿価額を通算しない

  5. 企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないものとする。

連結財務諸表における処理

従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引を実施する企業は、信託について子会社または関連会社に該当するか否かの判定を要しません(従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い第9項)。

これは、総額法により信託財産が企業の個別財務諸表において計上される結果、実質的に信託財産がすべて連結財務諸表に反映されるからです(同取扱い第38項)。

なお、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表作成上、そのまま引き継ぎます(同取扱い第9項なお書き)。