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会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

いったん公表した財務諸表は、商法の制約により、過去にさかのぼって処理することはできないと考えられていました。

一方で国際的な会計基準では、企業が自発的に会計方針の変更を行った場合や財務諸表の表示方法を変更した場合には、過去の財務諸表を新たに採用した方法で遡及処理し、これを表示することが求められていました。

ここで遡及処理とは、遡及適用、財務諸表の組替えまたは修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することを意味します。

このような中、2006年5月に施行された会社計算規則により、これまでの商法では明示されていなかった過年度事項の修正を前提とした計算書類の作成および修正後の過年度事項の参考情報としての提供が妨げられないことが明確化されました。そして、2009年12月に「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準」が公表されました。

さらに2020年3月には、会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則および手続に係る注記情報の充実のための改正が行われ、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表されました。

範囲

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準は、以下について適用されます(同会計基準第3項)。


  1. 会計方針の開示
  2. 会計上の変更
  3. 過去の誤謬の訂正に関する会計処理および開示

なお、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則および手続に係る注記情報の充実を図るに際しては、関連する会計基準等の定めが明らかな場合におけるこれまでの実務に影響を及ぼさないために、企業会計原則注解(注1-2)の定めを引き継ぐ こととされました(同会計基準第28-2項なお書き)。

企業会計原則注解(注1-2)

財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。
会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。
会計方針の例としては、次のようなものがある。
イ 有価証券の評価基準及び評価方法
ロ たな卸資産の評価基準及び評価方法
ハ 固定資産の減価償却方法
ニ 繰延資産の処理方法
ホ 外貨建資産・負債の本邦通過への換算基準
ヘ 引当金の計上基準
ト 費用・収益の計上基準
代替的な会計基準が認められていない場合には、会計方針の注記を省略することができる。

重要性の判断

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮されます(同会計基準第35項)。

重要性の判断は、財務諸表に及ぼす金額的な面質的な面の双方を考慮する必要があります。

金額的重要性は、企業の個々の状況によって具体的な判断基準は異なりますが、以下の観点から重要性を判断することが考えられます。


  1. 損益への影響額または累積的影響額が重要であるかどうか
  2. 損益の趨勢に重要な影響を与えているかどうか
  3. 財務諸表項目への影響が重要であるかどうか

また、質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、または誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられます。

用語の定義

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では、以下の用語の定義を定めています(同会計基準第4項)。


  1. 会計方針
  2. 表示方法
  3. 会計上の見積り
  4. 会計上の変更
  5. 会計方針の変更
  6. 表示方法の変更
  7. 会計上の見積りの変更
  8. 誤謬
  9. 遡及適用
  10. 財務諸表の組換え
  11. 修正再表示

会計方針

「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則および手続をいいます。

表示方法

「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列および報告様式が含まれます。

会計上の見積り

「会計上の見積り」とは、資産および負債収益および費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいいます。

会計上の変更

「会計上の変更」とは、会計方針の変更、表示方法の変更および会計上の見積りの変更をいいます。過去の財務諸表における誤謬の訂正は、会計上の変更には該当しません。

会計方針の変更

「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいいます。

会計方針の変更に当てはまらない変更

上記の会計方針の変更の定義から、以下の場合は、会計方針の変更に当たりません。


  1. 一般に公正妥当と認められた会計方針から、一般に公正妥当と認められない会計方針への変更
  2. 一般に公正妥当と認められない会計方針から、一般に公正妥当と認められた会計方針への変更
  3. 一般に公正妥当と認められない会計方針から、一般に公正妥当と認められない会計方針への変更

「1」については、一般に公正妥当と認められない会計方針への変更であり、そもそも、このような変更を行うことはできません。

「2」については、一般に公正妥当と認められる会計方針への変更ですが、もともと採用していた会計方針が一般に公正妥当と認められないことから当然の変更であり、会計方針の変更には当たりません。

「3」については、変更前も変更後も一般に公正妥当と認められない会計方針なので、どちらも採用することはできず、会計方針の変更に当たりません。

表示方法の変更

「表示方法の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいいます。

表示方法の変更に当てはまらない変更

上記の表示方法の変更の定義から、以下の場合は、表示方法の変更に当たりません。


  1. 一般に公正妥当と認められた表示方法から、一般に公正妥当と認められない表示方法への変更
  2. 一般に公正妥当と認められない表示方法から、一般に公正妥当と認められた表示方法への変更
  3. 一般に公正妥当と認められない表示方法から、一般に公正妥当と認められない表示方法への変更

「1」については、一般に公正妥当と認められない表示方法への変更であり、そもそも、このような変更を行うことはできません。

「2」については、一般に公正妥当と認められる表示方法への変更ですが、もともと採用していた表示方法が一般に公正妥当と認められないことから当然の変更であり、表示方法の変更には当たりません。

「3」については、変更前も変更後も一般に公正妥当と認められない表示方法なので、どちらも採用することはできず、表示方法の変更に当たりません。

会計上の見積りの変更

「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいいます。

誤謬

「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、またはこれを誤用したことによる、次のような誤りをいいます。


  1. 財務諸表の基礎となるデータの収集または処理上の誤り
  2. 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
  3. 会計方針の適用の誤りまたは表示方法の誤り

遡及適用

「遡及適用」とは、新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することをいいます。

財務諸表の組換え

「財務諸表の組替え」とは、新たな表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更することをいいます。

修正再表示

「修正再表示」とは、過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することをいいます。

企業会計原則における会計方針の範囲との違い

企業会計原則では、会計方針に表示方法も含まれています。

一方、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では、会計方針と表示方法は別々に定義されています。

国際財務報告基準では、IAS第8号において、会計方針とは、企業が財務諸表を作成および表示するにあたって適用する特定の原則、基礎、慣行、規則およびび実務をいうとされています。また、米国会計基準では、FASB-ASCのTopic235「財務諸表に対する注記」において、会計方針とは、一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して、企業の財政状態、キャッシュ・フローおよび経営成績の真実な表示を行うために最も適切であると経営者が判断し、それゆえ財務諸表を作成するために採用された特定の会計原則および当該会計原則の適用方法をいうとされています(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第36項)。

このように国際財務報告基準と米国会計基準の定義からは、会計方針に表示方法が包括的に含まれているわけではないと考えられます。

そのため、我が国の会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準でも、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた遡及処理の考え方を導入するにあたり、会計方針の定義について、国際的な会計基準を参考に、表示方法を切り離して会計上の取扱いが異なるものは、別々に定義することが適当であるとされました。そこで、会計方針と表示方法を別々に定義した上で、それぞれについての取扱いを定めることとしました(同会計基準第37項)。