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会計上の見積りの変更の取扱い

会計上の見積りの変更は、当該変更が変更期間のみに影響する場合には、当該変更期間に会計処理を行い、当該変更が将来の期間にも影響する場合には、将来にわたり会計処理を行います(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第17項)。

例えば、回収不能債権に対する貸倒見積額の見積りの変更は、当期の損益資産の額に影響を与えるので、当該影響は、会計上の見積りの変更を行った期間にのみ影響を与えます(同会計基準第56項)。したがって、この場合には、会計上の見積りの変更の影響を当期の損益で認識します。

一方、有形固定資産の耐用年数の見積りの変更は、当期およびその資産の残存耐用年数にわたる将来の各期間の減価償却費に影響を与えます(同会計基準第56項)。したがって、この場合には、会計上の見積りの変更の影響を当期および将来の期間の損益で認識します。

会計上の見積りを変更した場合の会計処理

過年度における引当金過不足修正など、会計上の見積りを変更した場合、当該変更が計上時の見積り誤りかどうかによって処理方法が異なります。

計上時の見積りに誤りがあった場合

会計上の見積りの変更が、過年度の計上時の見積り誤りに起因する場合には、過去の誤謬に該当するため、過年度の財務諸表について修正再表示を行います(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第55項)。

例えば、過去に定めた耐用年数がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には、過去の誤謬の訂正に該当します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第55項)。

計上時に最善の見積りを行った場合

過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、当期中における状況の変化により会計上の見積りの変更を行ったときの差額、または実績が確定したときの見積金額との差額は、その変更のあった期、または実績が確定した期に、その性質により、営業損益または営業外損益として認識します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第55項)。

過去の見積りの方法がその見積りの時点で合理的なものであり、それ以降の見積りの変更も合理的な方法に基づく場合、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当せず、会計上の見積りの変更に該当します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針第12項)。

臨時償却の廃止

従来の我が国の取扱いでは、固定資産の耐用年数の変更等があった場合に臨時償却が行われてきました。

臨時償却は、耐用年数の変更等に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法(キャッチ・アップ方式)です。これまでは、キャッチ・アップ方式により、見積りの変更の実態により適合した会計処理が可能になる場合があると考えられていました。しかし、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では、以下の理由から臨時償却を廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法(プロスペクティブ方式)のみを認めることにしました(同会計基準第57項)。


  1. 実質的に過去の期間への遡及適用と同様の効果をもたらす処理となることから、新たな事実の発生に伴う見積りの変更に関する会計処理としては、適切な方法ではない。

  2. 国際的な会計基準では、キャッチ・アップ方式は認められていないと解釈されている。

  3. キャッチ・アップ方式による処理が適切と思われる状況があったとしても、その場合には耐用年数の短縮に収益性の低下を伴うことが多く、減損処理の中で両方の影響を含めて処理できる。

  4. 臨時償却として処理されている事例の多くが、将来に生じる除却損の前倒し的な意味合いが強い。

会計上の見積りの変更に関する注記

会計上の見積りの変更を行った場合には、次の事項を注記します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第18項)。


  1. 会計上の見積りの変更の内容
  2. 会計上の見積りの変更が、当期に影響を及ぼす場合は当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積ることができるときには、当該影響額。ただし、将来への影響額を合理的に見積ることが困難な場合には、その旨


会計方針の変更か会計上の見積りの変更か

会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行いません(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第19項)。

ただし、注記については、以下の記載を行います。


  1. 会計方針の変更の内容
  2. 会計方針の変更を行った正当な理由
  3. 会計上の見積りの変更が、当期に影響を及ぼす場合は当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積ることができるときには、当該影響額。ただし、将来への影響額を合理的に見積ることが困難な場合には、その旨

有形固定資産等の減価償却方法および無形固定資産の償却方法の変更

有形固定資産等の減価償却方法および無形固定資産の償却方法は、会計方針に該当しますが、会計上の見積りの変更と同様に扱います(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第20項)。

ただし、有形固定資産等の減価償却方法も無形固定資産の償却方法も会計方針であることから、変更にあたっては正当な理由が求められます(同会計基準第62項ただし書き)。

減価償却方法の変更は会計方針の変更か会計上の見積りの変更か

減価償却方法として実際に用いられている方法は、定率法、定額法、生産高比例法などの計画的・規則的な償却方法に限られています。もしも、減価償却方法を会計方針ではなく会計上の見積りと捉えると、有形固定資産の減価は、経済的便益に関する消費のパターンに合致した減価償却方法を採用することになりますが、このような考え方は、現実に用いられている減価償却方法がいくつかの方法に限られている実態と整合しません(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第61項)。

また、固定資産の消費のパターンに合致させて、その減価を見積ることができれば、計画的・規則的な償却方法は必要なく、減価の態様を反映した費用配分を行うべきですが、そのような費用配分は現実的に不可能です。

したがって、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更とは言えず、会計方針の変更と捉えるべきと考えられます。

一方、減価償却方法の変更にあたっては、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに照らし、計画的・規則的な償却方法の中から最も適合的な方法を選択することは可能なので、当該変更は会計上の見積りの変更と捉えるべきだとも考えられます。また、我が国においても、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに変動があったことを減価償却方法の変更の理由としている実務もみられます(同会計基準第61項)。

このような理由からは、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と捉えるべきと考えられます。

以上のように減価償却方法の変更は、計画的・規則的な償却方法の中での変更であることから、その変更は会計方針の変更ではあるものの、その変更の場面においては固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられます。

そのため、減価償却方法については、これまでどおり会計方針として位置付けることとする一方、減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するものとし、会計上の見積りの変更と同様に会計処理を行い、その遡及適用は求めないこととしています(同会計基準第62項)。

同様に無形固定資産の償却方法の変更についても、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するものとしています。