減損会計
固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書三 3.)。
事業用の固定資産は、土地のような非償却性資産を除き、減価償却によって各会計期間に取得原価が費用配分されます。そして、その評価額は、取得原価から減価償却費(減価償却累計額)を控除した金額であり、当該評価額が貸借対照表に計上されます。
しかし、事業用の固定資産は、減価償却のみによって帳簿価額が減額されるわけではありません。天災や事故などの偶発的事象によって発生した損害額分だけ評価額を切り下げる臨時損失、耐用年数や残存価額が予見することのできなかった事象により著しく不合理となった場合に耐用年数の短縮や残存価額の修正に基づいて一時に減価償却累計額を修正する臨時償却によっても、帳簿価額は減額されます。
このように事業用の固定資産は、減価償却、臨時損失、臨時償却により帳簿価額が減額されますが、その収益性が当初の予想よりも低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合にも帳簿価額の引き下げを行う必要性が認められます。そこで、収益性が低下している事業用の固定生産については、将来に損失を繰り延べないために減損処理が要求されます。
このような減損処理の性格から、減損は、金融商品に適用される時価評価とは異なり、資産価値の変動によって利益を測定することや、決算日における資産価値を貸借対照表に表示することを目的とするものではなく、取得原価基準の下で行われる帳簿価額の臨時的な減額であると考えられます(同意見書三 1.)。
減損処理は、投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を評価し、投資額の回収が見込めなくなった時点で、将来に損失を繰り延べないために帳簿価額を減額する会計処理と考えられるので、単に期末の帳簿価額を将来の回収可能性に照らして見直すだけでは、収益性の低下による減損損失を正しく認識することはできません。なぜなら、帳簿価額の回収が見込めない場合であっても、過年度の回収額を考慮すれば投資期間全体を通じて投資額の回収が見込める場合もあり、また、過年度の減価償却などを修正したときには、修正後の帳簿価額の回収が見込める場合もあり得るからです(同意見書三 3.)。
対象資産
固定資産の減損に係る会計基準および固定資産の減損に係る会計基準の適用指針は、固定資産を対象に適用されます。固定資産には、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産が含まれます。
なお、以下の資産は、対象資産から除かれます(固定資産の減損に係る会計基準一および固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第6項)。
- 「金融商品に関する会計基準」における金融資産
- 「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産
- 「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェア
- 退職給付に係る資産(前払年金費用)
- 長期前払利息など財務活動から生ずる損益に関する経過勘定項目
用語の定義
固定資産の減損に係る会計基準注解(注1)では、以下の用語の定義を定めています。
回収可能価額
回収可能価額とは、資産または資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいいます。
正味売却価額
正味売却価額とは、資産または資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額をいいます。
時価
時価とは、公正な評価額をいいます。通常、公正な評価額は観察可能な市場価格をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいいます。
使用価値
使用価値とは、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいいます。
共用資産
共用資産とは、複数の資産または資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産をいい、のれんを除きます。