財務諸表の過去の誤謬の取扱い
過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、次の方法により修正再表示します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第21項)。
- 表示期間より前の期間に関する修正再表示による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債および純資産の額に反映する。
- 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。
過去の誤謬を修正再表示する理由
過去の誤謬を修正再表示することを要請する理由は以下の通りです(同会計基準第65項)。
- 誤謬を修正再表示するのは、期間比較が可能な情報を開示するという観点から有用であり、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図るという観点からも望ましい。
- 誤謬のある過去の財務諸表を修正再表示することは、会計方針の変更に関する遡及適用等とは性格が異なっており、当然の要請である。
重要性が乏しい誤謬の取扱い
過去の財務諸表における誤謬に重要性が乏しい場合には、過去の財務諸表を修正再表示せず、損益計算書上、その性質により、営業損益または営業外損益として認識する処理をすることになります(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第65項)。
企業会計原則注解(注12)では、過年度における引当金の過不足修正額や減価償却の過不足修正額等は、前期損益修正として特別損益項目に表示することになっていますが、会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の公表により、過去の財務諸表の誤謬は修正再表示されることになりました。
しかし、重要性の判断により、過去の財務諸表を修正再表示しない場合には、過去の誤謬の修正を当期の財務諸表で行うしかなく、当該誤謬の修正により生じる損益は、企業会計原則注解(注12)の前期損益修正項目と同様のものになると考えられます。
過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能な場合
会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では、過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いは設けられていません。
これは、過去の財務諸表に影響する誤謬を発見しつつも実務上不可能であるために修正しなかった場合には、当該期間の財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して作成されたと企業が表明することと首尾一貫していないからです(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第66項)。
しかし、実務では、誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性があります。その際には、可能な限り誤謬を訂正する必要があります。
例えば、どこまでが信頼性を確保できるかなど、その事実を明らかにするために、当該未訂正の誤謬の内容ならびに訂正済の誤謬に関する訂正期間および訂正方法を開示するなどの対応がなされるものと考えられています(同会計基準第67項)。
過去の誤謬に関する注記
過去の誤謬の修正再表示を行った場合には、次の事項を注記します(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第22項)。
- 過去の誤謬の内容
- 表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額および1株当たり情報に対する影響額
- 表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する修正再表示の累積的影響額
なお、その後の期間の財務諸表において過去の誤謬に関する注記を繰り返す必要はないと考えられています(同会計基準第68項)。
注記例
例えば、前事業年度に販売費及び一般管理費に計上していた減価償却費が1,000千円過大だったため、過去の誤謬の修正再表示を行った場合の注記は以下のようになります。
当社が前事業年度において損益計算書の販売費及び一般管理費に計上した減価償却費が1,000千円過大になっておりました。前事業年度の財務諸表は、この誤謬を訂正するために修正再表示しております。
修正再表示の結果、修正再表示を行う前と比べて、前事業年度の貸借対照表は、工具、器具及び備品、利益剰余金がそれぞれ1,000千円、700千円減少し、前事業年度の損益計算書は、減価償却費が1,000千円増加し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益がそれぞれ同額減少し、当期純利益が700千円減少しております。
前事業年度のキャッシュ・フロー計算書は、税引前当期純利益が1,000千円減少し、減価償却費が同額増加しております。
前事業年度の1株当たり純資産、1株当たり当期純利益および潜在株式調整後1株当たり当期純利益はそれぞれ XX円XX銭、X円XX銭、X円XX銭減少しております。