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棚卸資産の評価に関する会計基準

これまで、我が国の企業会計原則では、棚卸資産の期末評価額は取得原価とされており(原価法)、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定すること(低価法)ができるものとされてきました。

そのため、棚卸資産の貸借対照表価額に関しては、原価法と低価法の選択適用が認められてきたため、会計方針として、棚卸資産の評価基準および評価方法を記載するものとされてきました。

また、原価法を適用している場合でも、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とする(強制評価減)ものとされてきました。

平成13年(2001年)11月のテーマ協議会において、棚卸資産の評価基準は、レベル2の重要性(比較的優先順位の高いグループであるレベル1以外のグループ)とした提言がなされました。これは、会計処理の継続性が求められるものの、企業により原価法と低価法の選択適用が認められていることに対する是非や、国際的な会計基準との調和の観点から行われた提言と考えられます(棚卸資産の評価に関する会計基準第23項)。

これを受け、平成18年に企業会計基準委員会により棚卸資産の評価に関する会計基準が公表されることになりました。

棚卸資産の評価に関する会計基準は、棚卸資産の評価方法、評価基準および開示について定めることを目的としています(同会計基準第1項)。また、棚卸資産の評価方法、評価基準および開示に関しては、企業会計原則と原価計算基準に定めがありますが、これらより、棚卸資産の評価に関する会計基準が優先されます(同会計基準第2項)。

範囲

棚卸資産の評価に関する会計基準は、すべての企業における棚卸資産の評価方法、評価基準および開示について適用されます(同会計基準第3項)。

なお、棚卸資産の範囲は、以下の4項目のいずれかに該当する財貨または用役とされます(同会計基準第28項)。


  1. 通常の営業過程において販売するために保有する財貨または用役(商品、製品など)
  2. 販売を目的として現に製造中の財貨または用役(半製品、仕掛品)
  3. 販売目的の財貨または用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨(原材料)
  4. 販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨(事務用消耗品など)

上記の棚卸資産の範囲は、連続意見書第四の棚卸資産の分類と同じです。

「4」の販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨は、国際的な会計基準と必ずしも同じではありませんが、製造用以外のものであっても、短期間に消費される点や実務上の便宜が考慮され、棚卸資産に含めても重要性が乏しいと考えられることから、棚卸資産の範囲に含められています(同会計基準第29項)。

このように棚卸資産は、大きく、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産販売活動および一般管理活動において短期間に消費される資産に分類されます。

なお、売却には、通常の販売のほか、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的とするトレーディングを含みます(同会計基準第3項なお書き)。

また、販売用不動産や開発事業等支出金についても、棚卸資産の範囲に含まれます(同会計基準第32項)。

対象から除外される範囲

棚卸資産の評価に関する会計基準は、すべての企業における棚卸資産に適用されます。

ただし、棚卸資産であっても、他の会計処理により収益性の低下が適切に反映されている場合には、同会計基準の評価基準の定めを適用する必要はありません。また、金融商品に関する会計基準に定める売買目的有価証券や研究開発費等に係る会計基準に定める市場販売目的のソフトウェアのように、他の会計基準において取扱いが示されているものについては、該当する他の会計基準の定めに従います(棚卸資産の評価に関する会計基準第27項)。

用語の定義

棚卸資産の評価に関する会計基準第4項から第6項では、以下の用語の定義を定めています。

時価

「時価」とは、公正な評価額をいい、市場価格に基づく価額をいいます。市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とします。

ただし、トレーディング目的で保有する棚卸資産の「時価」の定義は、時価の算定に関する会計基準第5項に従い、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格とします。

正味売却価額

「正味売却価額」とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいいます。

なお、「購買市場」とは当該資産を購入する場合に企業が参加する市場をいい、「売却市場」とは当該資産を売却する場合に企業が参加する市場をいいます。

再調達原価

「再調達原価」とは、購買市場と売却市場とが区別される場合における購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいいます。