資本金および準備金の額の減少の会計処理
資本金、資本準備金、利益準備金の額を減少した場合、剰余金が生ずることがあります。
資本金および資本準備金の減少によって生ずる剰余金
資本金および資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生したとき(会社法第447条から第449条)に、その他資本剰余金に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第20項)。
資本金および資本準備金の額の減少によって剰余金が生じたとしても、当該剰余金の持つ会計上の性格は、減額前の資本金および資本準備金の持っていた会計上の性格と変わるものではありません。そのため、資本金および資本準備金の額の減少によって生じた剰余金は、資本剰余金であることを明確にした科目に表示することが適切と考えられます(同会計基準第59項)。
利益剰余金の額の減少によって生ずる剰余金
利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生したとき(会社法第448条および第449条)に、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第21項)。
利益準備金はもともと留保利益を原資とするものであり、利益性の剰余金の性格を有するため、利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)の増額項目とすることが適切であると考えられます(同会計基準第63項)。
資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止
資本剰余金の各項目は、利益剰余金の各項目と混同してはなりません。したがって、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められません(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第19項)。
資本性の剰余金と利益性の剰余金は、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分する考えから、会計上は、原則的に混同しないようにされてきました(資本取引・損益取引区分の原則)。
一方で、会社法では、資本金および資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は分配可能額に含まれます。しかし、会社法の定めは、資本剰余金と利益剰余金の混同を禁止する企業会計の原則を変えるものではないと考えられます。その理由は以下の通りです(同会計基準第60項)。
- 資本金および資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることを無制限に認めると、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になる。
- 資本金および資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に区分する意味がなくなる。
利益剰余金が負の残高になった場合
利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補てんするのは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたりません。
払込資本と留保利益の区分が問題になるのは、同じ時点で両者が正の値であるときに、両者の間で残高の一部または全部を振り替えたり、一方に負担させるべき分を他方に負担させるような場合です。
このような趣旨からすると、負の残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられます(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第61項)。
なお、会社法では、株主総会の決議により、剰余金の処分として、剰余金の計数の変更ができますが(会社法第452条)、会計上、その他資本剰余金による補てんの対象となる利益剰余金は、年度決算時の負の残高に限られます。これは、期中において発生した利益剰余金の負の値を、その都度資本剰余金で補てんすることは、年度決算単位でみた場合、資本剰余金と利益剰余金の混同になることがあるからです(同会計基準第61項なお書き)。
剰余金の額を減少させて準備金の額を増加させる場合
会社法では、剰余金の額を減少させて、準備金の額を増加させることができます(会社法第451条)。
この場合でも、資本剰余金と利益剰余金の混同を禁止する企業会計の原則を変えるものではなく、減少させる剰余金と同一区分の準備金の額を増加させることが適切と考えられます。
したがって、その他資本剰余金を原資として準備金の額を増加させる場合には、資本準備金の額を増加させることになります(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第62項)。