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財務会計

財務会計は、簡単にいうと企業の財産の状況や業績に関する会計情報を企業外部に報告することを目的としています。

企業が経営活動を行うにあたり、株主と呼ばれる出資者から資金の提供を受けたり、銀行などの債権者から借入をしたりします。それらの資金を使って、製造業なら工場を建てるでしょうし、小売業なら店舗を買ったり賃借したりして、活動の拠点をつくります。活動の拠点が決まれば、製造業なら仕入先から材料を購入し、それを加工して製品を造り、販売します。小売業なら、商品を仕入れて店舗に陳列し、訪れたお客さんに販売します。

また、企業が経営活動の結果、得た利益に対しては、国や地方自治体が課税し、その一部が税金として納められます。

このように企業がその活動を行う場合、必ず外部の組織や人と関わりを持ちます。この企業と関係を持つ組織や人のことを外部利害関係者といいます。

これらの利害関係者にとって必要となる情報は、それぞれ異なっていますが、彼らの欲する情報は、企業が作成する財務諸表と呼ばれる文書に記載されることになります。

各利害関係者がどのような情報を求めているのかを以下で説明します。

株主

株主は、株式会社の出資者のことです。株式会社は、経済活動に必要な資金を複数の株主から提供してもらって設立されます。株主の出資の単位は、株式と呼ばれ、1,000株や10,000株など、株式会社が発行している株式数の範囲内で、自由に取得できるのが原則です。

株主は、出資の見返りとして、株式会社が儲けた利益を配当として受け取ることができます。また、出資の払い戻しには制限がありますが、売ることは原則自由となっていますので、他に株式を欲しいという人がいれば、売り渡すことができます。もちろん、現在、株主でない人が他人の持っている株式を譲り受けることで株主になることもできます。

株主が求める会計情報は、自分が出資している株式会社がどれだけの利益を獲得できたのかということ、そして、現在、どれだけの財産を保有しているのかということです。

株主は、経済的見返りを求めて出資をしているのですから、株式会社の利益からどれだけ自分に配当が支払われるのかといった情報を知りたいと思うのは当然のことです。

また、株式を他人に譲り渡す場合、いくらで売ることができるかは、その株式会社が保有している財産と関係があります。自分が出資している株式会社が、たくさんの財産を保有していれば、高値で株式を売ることができますが、保有財産が少なければ安くでしか株式を売ることができません。

このように株主は、出資の判断のために株式会社の財産の状況や獲得した利益の情報に関心を持っています。そのため、株主の出資の判断に役立つように株式会社の財産や利益の情報は、財務諸表に記載されることになります。

債権者

債権者は、企業にお金を貸している人のことで、その代表は銀行になります。

債権者にとって最も大切なことは、貸したお金がしっかりと返済されるかどうかということです。債権者が企業に貸付けをする際、その企業がどのような事業を行っているのか、その企業の社長が信用できる人なのかどうかといったことを確かめることは大切なことです。しかし、こういった情報を得ただけでは、必ず貸付金を回収できると判断することはできません。

貸付金の回収については、債務者である企業が、どれだけの財産を持っているのか、また、他にどれだけの借金を負っているのかということが重要になります。

多くの財産を保有していたとしても、それを上回る借金があれば、貸付金の回収は困難になるでしょう。逆に保有している財産が少なくても、借金がなければ、貸付金の回収可能性は高くなるでしょう。

そのため、銀行は、これから貸付けを行おうとする際、企業の財産と借金の状況に強い関心を持つのです。財務諸表には、企業がどれだけの財産を保有しており、また、どれだけの借金を負っているのかの状況が記載されるので、債権者は、貸し付けにあたって、企業が公表している財務諸表を参考にします。

また、債権者は、貸付金の回収の際、利息も受け取ります。利息は、債務者である企業が獲得した利益の一部から支払われるので、債権者は、財産と借金の状況だけでなく、その企業がどれだけの利益を獲得しているのかにも関心を持ちます。なので、財務諸表には、企業が獲得した利益も記載されることになります。

国・地方自治体

国や地方自治体は、個人に課税する他に企業にも課税して税収を得ています。

企業が国や地方自治体に納める税金には、様々な種類がありますが、会計情報を基にして課税される税金の代表に法人税があります。法人税は、企業が獲得した利益(税法では所得という)に応じて課税されます。

そのため、国や地方自治体は、企業が獲得した利益がどれだけあるのかといった情報が必要になります。企業が獲得した利益は、財務諸表に記載されるので、国や地方自治体にとって財務諸表は、税収を得るために欠くことのできない書類といえます。

なお、企業が獲得した利益と課税の基準となる所得は、似ていますが、課税の公平性という点から両者は異なっている部分があります。その異なっている部分を調整するために作成されるのが、法人税の申告書です。

取引先

企業は、その活動を行うにあたり、様々な取引先と関わります。生産に必要な材料や販売に必要な商品は仕入先から購入しますし、完成した製品や商品は、得意先に販売されます。

現在の企業間取引においては、商品の引き渡しと代金の受け取りが同時に行われることは少なく、一定期間に引き渡した商品の代金の合計を1ヶ月後や2ヶ月後にまとめて受け取ります。これを信用取引といいます。

販売した商品の代金を後払いで受け取るわけですから、販売した企業としては、得意先が代金を支払うことができるかどうかということに関心があります。得意先が多くの財産を持っていたり、借金が少なければ、代金回収の見込みがありますが、財産が少なかったり、借金が多ければ、代金の回収が危うくなります。そういった情報は財務諸表に記載されるので、得意先の財務諸表は、彼らに商品を販売する企業にとって重要な書類となります。

また、代金を後から受け取るとはいっても、無条件に代金後払いで、商品を得意先に販売するわけではありません。販売する企業は、得意先の財務諸表を見て、代金の回収が可能と判断した範囲内でしか後払いで商品を販売しません。場合によっては、得意先に保証金の差し入れを求め、その範囲でしか後払いで販売しないということもあります。

得意先からみても、仕入先の財務諸表は、事業継続にとって重要な情報となります。材料や部品を購入し、加工してできた製品を継続的に販売するためには、仕入先から安定して材料や部品を購入できなければなりません。しかし、仕入先の業績が不安定であれば、必要な材料や部品の調達もうまくいかなくなる場合があります。そのため、得意先にしても仕入先の財務諸表は、事業の安定のために必要な情報となり、仕入先の業績が悪い場合には、他から材料や部品の購入を検討することになります。

まとめ

このように企業を取り巻く利害関係者は、その企業の財産や借金の状況、業績に強い関心を持っており、それらの情報は、財務諸表という形で公表されます。

そして、どのような情報を財務諸表に記載すれば、企業外部の利害関係者の役に立つのかを研究する領域が、財務会計なのです。

外部利害関係者が利用する財務諸表は、各企業が独自の基準で作成していたのでは、その内容が理解しにくいものとなります。また、外部利害関係者は、ひとつの企業だけでなく、複数の企業と関係を有していることの方が多いのが通常です。もしも各企業がばらばらの基準で財務諸表を作成していた場合、利害関係者は、各企業の財務諸表を一定の基準で比較することができないということになってしまいます。

このような弊害をなくすために各企業が作成する財務諸表は、一般に公正妥当と認められた会計基準に準拠して作成されることになります。