転換負債が存在する場合の潜在株式調整後1株当たり当期純利益の計算
ここでは、転換負債が存在する場合の潜在株式調整後1株当たり当期純利益の計算について、具体例を用いて解説します。
前提条件
- 甲社(3月決算会社)のx1年4月1日からx2年3月31日までの当期純利益は、200,000,000円です。
- x1年8月1日に転換社債型新株予約権付社債を発行し、一括法で処理しています。
- 転換社債型新株予約権付社債の発行額(額面)は100,000,000円、転換価格は500円です。すべて転換されたと仮定した場合の普通株式の発行数は200,000株です。
- x1年12月1日に転換により普通株式を50,000株発行しています。
- 普通株式の発行済株式数の状況は以下の通りです。
期首残高=5,000,000株
x1年12月1日の転換社債型新株予約権付社債の転換=50,000株
期末残高=5,050,000株 - x1年度に計上した転換社債型新株予約権付社債の支払利息は1,800,000円です。
- 転換社債型新株予約権付社債の転換を含む新株の効力発生日を払込期日としています。
- 法人税等の法定実効税率は30%とします。
1株当たり当期純利益の計算
1株当たり当期純利益は、普通株主に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で除して計算します。
普通株式の期中平均株式数
期首の普通株式の発行済株式数は5,000,000株ですが、x1年12月1日に転換社債型新株予約権付社債が転換され50,000株が新たに発行されたので、期末の発行済株式数は5,050,000株になっています。
普通株式の発行済株式数の状況を図示すると以下のようになります。
期首の発行済株式数5,000,000株は、期末においても5,000,000株のままなので、期中平均株式数は5,000,000株です。
x1年12月1日に転換社債型新株予約権付社債が転換され発行された普通株式50,000株は、x2年3月31日までの121日間が発行後の期間となるので、期中平均株式数は、以下の計算より16,575株になります。
- 50,000株の期中平均株式数
=50,000株×121日/365日
=16,575株
したがって、普通株式の期中平均株式数は5,016,575株になります。
- 普通株式の期中平均株式数
=5,000,000株+16,575株
=5,016,575株
1株当たり当期純利益
以下の計算より、1株当たり当期純利益は39.87円です。
- 1株当たり当期純利益
=200,000,000円/5,016,575株
=39.87円
潜在株式調整後1株当たり当期純利益の計算
1株当たり当期純利益が、増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額を上回る場合、転換社債型新株予約権付社債がすべて転換されたと仮定することにより算定した潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、1株当たり当期純利益を下回るため、希薄化効果を有することとなります(1株当たり当期純利益に関する会計基準第27項)。
したがって、潜在株式調整後1株当たり当期純利益を計算する前に増加普通株式1株当たりの当期純利益を計算し、転換社債型新株予約権付社債がすべて転換されたと仮定した場合に希薄化効果があるかどうかを確かめなければなりません。
当期純利益調整額
当期純利益調整額は、以下の合計額から当該金額に課税されたと仮定した場合の税額相当額を控除して計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準第29項(1))。
- 転換負債に係る当期の支払利息の金額
- 社債金額よりも低い価額または高い価額で発行した場合における当該差額に係る当期償却額
- 利払いに係る事務手数料等
本事例では、支払利息1,800,000円だけが該当するので、ここから税額相当額(法定実効税率は30%)を控除した1,260,000円が当期純利益調整額になります。
- 当期純利益調整額
=費用の合計額×(1-法定実効税率)
=1,800,000円×(1-0.3)
=1,260,000円
転換負債が存在する場合、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は転換負債の発行時または期首にすべて転換されたと仮定して算定します(同会計基準第30項)。
したがって、当期には転換負債が存在しなかったものとして扱うので、転換負債に関する費用は一切発生しなかったと仮定しなければなりません。よって、潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算定する際は、損益計算書上の当期純利益から差し引かれている当期純利益調整額1,260,000円を当期純利益に加算する必要があります。
なお、上記の当期純利益調整額の計算で、費用の合計額に(1-法定実効税率)を乗じているのは、当期純利益が税引後のため、当期純利益調整額も税引後の金額とする必要があるからです。
普通株式増加数
普通株式増加数を計算する前提として、転換証券が期首または発行時においてすべて転換されたと仮定します(1株当たり当期純利益に関する会計基準第30項)。
期末まで転換されていない転換社債型新株予約権付社債(150,000株)の普通株式増加数
期末まで転換されなかった転換社債型新株予約権付社債(150,000株)が、発行時(x1年8月1日)にすべて転換されたと仮定した場合、150,000株(200,000株-50,000株)が株主に交付されます。
150,000株につき、x1年8月1日からx2年3月31日までの243日間に応じた普通株式増加数を計算します。
- 期間に応じた普通株式増加数
=150,000株×243日/365日
=99,863株
x1年12月1日に転換された転換社債型新株予約権付社債(50,000株)の普通株式増加数
x1年12月1日に転換された転換社債型新株予約権付社債(50,000株)が発行時(x1年8月1日)に転換されたと仮定した場合、50,000株が株主に交付されます。
50,000株につき、x1年8月1日からx1年11月30日までの122日間に応じた普通株式増加数を計算します。
- 期間に応じた普通株式増加数
=50,000株×122日/365日
=16,712株
転換社債型新株予約権付社債(200,000株)の普通株式増加数
以上より、転換社債型新株予約権付社債(200,000株)の普通株式増加数は116,575株になります。
- 転換社債型新株予約権付社債の普通株式増加数
=99,863株+16,712株
=116,575株
普通株式増加数の計算の流れを時系列で示すと以下の図のようになります。
希薄化の検討
転換社債型新株予約権付社債が発行時にすべて転換されたと仮定した場合、希薄化効果があるかどうかを検討します。1株当たり当期純利益と増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額との関係が以下の場合、当該転換社債型新株予約権付社債は希薄化効果を有していることになります。
1株当たり当期純利益 > 増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額
以下の計算より、増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額は10.81円になります。
- 増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額
=当期純利益調整額/普通株式増加数
=1,260,000円/116,575株
=10.81円
1株当たり当期純利益は39.87円であり、増加普通株式1株当たりの当期純利益調整額10.81円を上回るため、当該転換社債型新株予約権付社債がすべて転換されたと仮定した場合、希薄化効果が認められます。
よって、潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算定し開示しなければなりません。
潜在株式調整後1株当たり当期純利益
潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、以下の計算式で算定します。
したがって、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は39.21円になります。
- 潜在株式調整後1株当たり当期純利益
=(200,000,000円+1,260,000円)/(5,016,575株+116,575株)
=201,260,000円/5,133,150株
=39.21円