ストック・オプションに関する会計処理
ストック・オプションの会計処理は、権利確定日以前と権利確定日後に大きく分けることができます。
権利確定日以前の会計処理
ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使または失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します(ストック・オプション等に関する会計基準第4項)。
各会計期間における費用計上額
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額です。ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定します(ストック・オプション等に関する会計基準第5項)。
公正な評価単価の算定
ストック・オプションの公正な評価単価は、以下のように算定します(ストック・オプション等に関する会計基準第6項)。
- 付与日現在で算定し、ストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価を上回る場合の条件変更(同会計基準第10項(1))を除き、その後は見直さない。
- ストック・オプションは、通常、市場価格を観察することができないため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法を利用する。算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える。ただし、失効の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない。
ストック・オプションの公正な評価単価の算定技法が満たすべき要件
ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用いる算定技法は、次の要件を満たさなければなりません(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第5項)。
- 確立された理論を基礎としており、実務で広く適用されていること
- 権利確定の見込数(ストック・オプションの付与数から失効の見込数を控除した数)に関するものを除き、算定の対象となるストック・オプションの主要な特性をすべて反映していること
「2」のストック・オプションの特性は、次のように整理できます。
- 株式オプションに共通する特性
- ストック・オプションに共通する特性
- 算定対象である個々のストック・オプションに固有の特性
同適用指針第2項では、株式オプション価値の算定技法として、離散時間型モデルと連続時間型モデルを定義しています。
離散時間型モデル
離散時間型モデルとは、株式オプション価格算定モデル等の株式オプション価値の算定技法のうち、将来の株価の変動が、一定間隔の時点において一定の確率に基づいて生じると仮定する方法をいいます。離散時間型モデルの典型例として、1期間後の株価が一定の確率に基づいて上昇するか下落するかの2つのケースのみを想定する二項モデルがあります。
連続時間型モデル
連続時間型モデルとは、株式オプション価格算定モデル等の株式オプション価値の算定技法のうち、将来の株価の変動が、一定の確率的な分布に基づいて常時連続的に生じると仮定する方法をいいます。連続時間型モデルの典型例として、ブラック・ショールズ式があります。
算定技法の変更
算定技法の変更が認められるのは、原則として次の場合に限られます(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第8項)。
- 従来付与したストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションを付与し、その特性を反映するために必要な場合
- 新たにより優れた算定技法が開発され、これを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる場合
ストック・オプション数の算定および見直し
ストック・オプション数の算定および見直しは、以下のように行います(ストック・オプション等に関する会計基準第7項)。
- 付与されたストック・オプション数(付与数)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する。
- 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、ストック・オプション数を変動させる条件変更(同会計基準第11項)を除き、これに応じてストック・オプション数を見直す。ストック・オプション数を見直した場合には、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を見直した期の損益として計上する。
- 権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(権利確定数)と一致させる。オプション数を修正した場合には、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上する。
権利確定日の判定
ストック・オプションの権利確定日は、次のように判定します(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第17項)。
- 勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日。
- 勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。
- 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日。
権利確定条件が付されていない場合
権利確定条件が付されていない場合(付与日にすでに権利が確定している場合)には、対象勤務期間はなく、付与日に一時に費用を計上します(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第18項)。
条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合において、株価条件が付されている等、権利確定日を合理的に予測することが困難なため、予測を行わないときには、対象勤務期間はないものとみなし、付与日に一時に費用を計上します。
複数の権利確定条件が付されている場合
複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は次のように判定します(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第19項)。
- それらのうち、いずれか1つを満たせばストック・オプションの権利が確定する場合には、最も早期に達成される条件が満たされる日
- それらすべてを満たさなければストック・オプションの権利が確定しない場合には、達成に最も長期を要する条件が満たされる日
ストック・オプションの権利が確定するために、ともに満たすべき複数の条件と、いずれか1つを満たせば足りる複数の条件とが混在している場合には、上記「1」と「2」を組み合わせて判定します。
株価条件等、条件の達成に要する期間が固定的でなく、かつ、その権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件が付されているため、予測を行わない場合については、当該権利確定条件は付されていないものとみなします。
- ストック・オプションの権利確定条件として勤務条件と業績条件が付されており、いずれかを達成すれば権利が確定する場合の会計処理
- ストック・オプションの権利確定条件として勤務条件と業績条件が付されており、両条件を達成すれば権利が確定する場合の会計処理
- ストック・オプションの権利確定条件として株価条件と業績条件が付されており、いずれかを達成すれば権利が確定する場合の会計処理
段階的に権利行使が可能となるストック・オプション
付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに段階的に権利行使が可能となる場合には、原則として、権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理を行います(ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針第20項)。
付与された単位でまとめて会計処理を行うこともできます(同適用指針第20項ただし書き)。
権利確定日後の会計処理
ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます(ストック・オプション等に関する会計基準第8項)。
新株予約権の行使に伴い、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額および権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額として処理します(同会計基準第8項なお書き)。
自己株式処分差額は、以下のように処理します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第9項、第10項、第12項)。
- 自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上する。
- 自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額する。
- 自己株式処分差損をその他資本剰余金から減額しきれなかった場合は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する。
権利不行使による失効
権利不行使による失効が生じた場合には、当該失効が確定した期に、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します(ストック・オプション等に関する会計基準第9項)。
なお、連結財務諸表においては、失効したストック・オプションのうち非支配株主に帰属する部分は、非支配株主に帰属する当期純利益に計上することになります(同会計基準第46項)。
ストック・オプションの失効における利益は、原則として特別利益に計上し、「新株予約権戻入益」等の科目名称を用いることが適当と考えられます(同会計基準第47項)。