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不確実性下における意思決定の計算例

ここでは、不確実性下における意思決定について、具体的な計算例を用いて解説します。

計算の前提

丙社は、夏季に30日間、海水浴場に出店し、ソフトクリームを販売する予定です。

天気と販売量

ソフトクリームは、当日の天気によって、以下のように販売数量が変化します。

  1. 晴れ=1,000個
  2. 曇り=500個
  3. 雨=200個

なお、過去10年間における夏季30日間の天気は平均すると以下の通りで、今年もこの傾向通りになると予想しています。

  1. 晴れ=18日(60%)
  2. 曇り=9日(30%)
  3. 雨=3日(10%)

販売価格と変動売上原価

ソフトクリームの販売価格は200円、変動売上原価は140円です。

ソフトクリームは、毎日早朝に販売予定数量の全てを工場で生産し、海水浴場に運んでいるので、当日の天気の変化に応じて生産量を変更することはできません。

また、売れ残ったソフトクリームは、その日のうちに全て廃棄する必要があります。

このような条件の場合、毎日ソフトクリームを何個生産すると利益を最大化できるかを検討することにしました。

天気と利益の関係

ソフトクリームが、最も売れるのは晴れの日で、1,000個です。したがって、1,000個生産して1,000個販売できれば、利益が最も多くなります。

しかし、天気が雨の場合には200個しか売れません。もしも、1,000個生産していたなら、800個が売れ残るので、この分の原価が無駄になってしまいます。

それなら、雨の日を想定して、毎日200個だけを生産すれば、すべて売り切ることができます。しかし、生産量を200個に抑えると、曇りの日にはもう300個、晴れの日にはもう800個売ることができるのにそれらの売上を諦めなければなりません。そして、諦めた売上から得られるであろう利益は機会原価となります。

本事例のように将来起こる事象が不確実な状況では、ソフトクリームの廃棄による損失とソフトクリームを売り損ねたときの機会原価の合計が最も小さくなるように生産量を決定します。

今、天気の確率を無視して、1,000個、500個、200個を生産した場合に晴れの日、曇りの日、雨の日で、どれだけの利益が得られるかを以下のペイオフ表に記しました。

ペイオフ表

生産数量が1,000個の場合

生産数量が1,000個の場合、変動売上原価は、天気に関係なく140,000円です。

変動売上原価

  • 生産数量1,000個の場合の変動売上原価
    =140円×1,000個=140,000円

売上高

次に販売数量が、1,000個(晴れ)、500個(曇り)、200個(雨)の場合の売上高をそれぞれ計算します。

  • 晴れの場合の売上高
    =200円×1,000個=200,000円

  • 曇りの場合の売上高
    =200円×500個=100,000円

  • 雨の場合の売上高
    =200円×200個=40,000円

利益

最後に天気ごとの売上高から売上原価140,000円を差し引き、天気ごとの利益を計算します。

  • 晴れの場合の利益
    =200,000円-140,000円=60,000円

  • 曇りの場合の利益
    =100,000円-140,000円=-40,000円

  • 雨の場合の利益
    =40,000円-140,000円=-100,000円

生産数量が500個の場合

同様に生産数量が500個の場合の変動売上原価、売上高、利益を計算します。なお、生産数量500個を超えて販売できないことに注意する必要があります。

変動売上原価

  • 生産数量500個の場合の変動売上原価
    =140円×500個=70,000円

売上高

  • 晴れの場合の売上高
    =200円×500個=100,000円

  • 曇りの場合の売上高
    =200円×500個=100,000円

  • 雨の場合の売上高
    =200円×200個=40,000円

利益

  • 晴れの場合の利益
    =100,000円-70,000円=30,000円

  • 曇りの場合の利益
    =100,000円-70,000円=30,000円

  • 雨の場合の利益
    =40,000円-70,000円=-30,000円

生産数量が200個の場合

生産数量が200個の場合も同様に計算します。

変動売上原価

  • 生産数量200個の場合の変動売上原価
    =140円×200個=28,000円

売上高

  • 晴れの場合の売上高
    =200円×200個=40,000円

  • 曇りの場合の売上高
    =200円×200個=40,000円

  • 雨の場合の売上高
    =200円×200個=40,000円

利益

  • 晴れの場合の利益
    =40,000円-28,000円=12,000円

  • 曇りの場合の利益
    =40,000円-28,000円=12,000円

  • 雨の場合の利益
    =40,000円-28,000円=12,000円

天気ごとの期待値の計算

上のペイオフ表では、天気の確率が考慮されていません。

不確実性下における意思決定では生起確率を加味して、期待値を計算する必要があります。

期待値は、各生産量における晴れの場合、曇りの場合、雨の場合の利益にそれぞれの生起確率を乗じた金額の合計額です。

生起確率を加味したペイオフ表は以下の通りです。

生起確率を加味したペイオフ表

上のペイオフ表から、生産数量を500個にした場合の利益が24,000円と最大なので、毎日500個を生産すべきです。

生産数量1,000個の場合の期待値

  • 晴れの場合=60,000円×60%=36,000円
  • 曇りの場合=-40,000円×30%=-12,000円
  • 雨の場合=-100,000円×10%=-10,000円
  • 期待値=36,000円-12,000円-10,000円=14,000円

生産数量500個の場合の期待値

  • 晴れの場合=30,000円×60%=18,000円
  • 曇りの場合=30,000円×30%=9,000円
  • 雨の場合=-30,000円×10%=-3,000円
  • 期待値=18,000円+9,000円-3,000円=24,000円

生産数量200個の場合の期待値

  • 晴れの場合=12,000円×60%=7,200円
  • 曇りの場合=12,000円×30%=3,600円
  • 雨の場合=-12,000円×10%=1,200円
  • 期待値=7,200円+3,600円-1,200円=12,000円

将来の情報を入手できる場合

もしも、上記の条件に加えて将来の情報を入手できる場合は、どのような意思決定が行われるでしょうか。

本事例では、将来の天気が不確実な状況にありますが、100%的中する天気予報を利用できたとします。

その天気予報は、30日契約で800,000円です。

なお、夏季30日間の天気は以下のように予想されていますが、天気予報を利用しなければ、翌日の天気がどうなるかはわかりません。

  1. 晴れ=18日(60%)
  2. 曇り=9日(30%)
  3. 雨=3日(10%)

天気予報を利用しなかった場合の利益

天気予報を利用しなかった場合、毎日の生産数量を500個にすると期待値が24,000円になり、最も利益が多くなることがこれまでの計算でわかりました。

したがって、30日間だと720,000円の利益が期待できることになります。

  • 24,000円×30日=720,000円

天気予報を利用した場合の利益

では、天気予報を利用した場合の利益はどうなるでしょうか。

この場合、当日の天気が確実にわかることから、生産数量と販売数量が一致します。天気ごとの利益は、ペイオフ表から以下の通りです。

  • 晴れ=60,000円
  • 曇り=30,000円
  • 雨=12,000円

夏季は、晴れが18日、曇りが9日、雨が3日と予想されるので、30日間の利益の期待値は1,386,000円です。

  • 晴れ=60,000円×18日=1,080,000円
  • 曇り=30,000円×9日=270,000円
  • 雨=12,000円×3日=36,000円
  • 期待値=1,080,000円+270,000円+36,000円=1,386,000円

天気予報の利用料が800,000円なので、天気予報を利用した場合に期待できる利益は、586,000円となります。

  • 1,386,000円-800,000円=586,000円

結論

天気予報を利用した場合に利益が期待できるので、天気予報を利用すべきとの結論になりそうです。しかし、天気予報を利用した場合、天気予報を利用しなかった場合の利益が機会原価となるので、天気予報を利用した場合の利益と利用しなかった場合の利益を比較し、多い方を選択しなければなりません。

天気予報を利用しなかった場合、720,000円の利益が期待でき、天気予報を利用した場合よりも、利益が134,000円多くなります。

したがって、天気予報を利用すべきではありません。

補足

本事例では、天気予報を利用すべきではないとの結論となりました。

確かに天気予報を利用しない方が、利益は多くなります。しかし、毎日500個のソフトクリームを生産した場合、雨の日には200個しか売れないので、300個のソフトクリームを廃棄しなければなりません。

近年、食品を廃棄することに対して、消費者の目が厳しくなっています。短期的には天気予報を利用せず、ソフトクリームを廃棄することで利益を最大化できますが、長期的な視野で見た場合、食品ロスは企業ブランドを毀損する可能性があります。

業務的意思決定では、短期的な利益の追求が、長期的な利益の増大に必ず貢献するとは限らないことに留意しなければなりません。