原価比較法による設備投資の経済計算
原価比較法は、2つ以上の代替案の原価を比較し、投資案を評価する方法です。年額原価法とも呼ばれます。
原価比較法では、一定の等価値の年額原価を計算し、年額原価が小さい投資案を有利と評価します。なお、年額原価は、以下の計算式で求めます。
年額原価=資本回収費+操業費
資本回収費の計算には、利子率を考慮せず、減価償却費をもって資本回収費とする方法があります。しかし、これでは、利子要素が考慮されません。そのため、資本回収費は、以下の計算式で求めるのが理論的と考えられます。
資本回収費=資本回収係数×投下資本
ここで、資本回収係数は、年金現価計数の逆数であり、以下の計算式で求めます。
操業費は、労務費、動力費、維持費など、機械設備を運転するのに必要な原価のことで、運転費とも呼ばれます。
計算例
ここでは、原価比較法による設備投資の経済計算について、具体的な例を用いて解説します。
計算の前提
甲社では、主力製品の生産の大部分を手作業で行っています。
現在の操業費は、以下の通りです。
現在の操業費
- 労務費=2,000,000円
- 動力費=500,000円
- 維持費=300,000円
- 操業費合計=2,800,000円
今、手作業の一部をオートメーション化する投資案が検討されており、仮にこの投資案が採用された場合、1,200,000円の追加投資が必要となりますが、操業費はこれまでよりも少なくなり以下のように見積もられています。
新投資案の操業費
- 労務費=800,000円
- 動力費=1,000,000円
- 維持費=600,000円
- 固定資産税=100,000円
- 操業費合計=2,500,000円
機械設備の情報
機械設備の経済命数は5年で、減価償却は定額法で行います。
経済命数経過後の処分価値はゼロと見積もられています。
資本コストと資本回収係数
甲社の資本コストは10%であり、その場合の資本回収係数は、1/3.7908です。
資本回収費を減価償却費とする場合
新投資案の資本回収費を減価償却費とする場合、機械設備の取得原価1,200,000円を5年で除した240,000円が資本回収費となります。
- 減価償却費=1,200,000円/5年=240,000円
したがって、新投資案の年額原価は2,740,000円になります。
- 新投資案の年額原価
=資本回収費+操業費
=240,000円+2,500,000円=2,740,000円
よって、手作業の場合の費用2,800,000円よりも、新投資案の年額原価が60,000円少ないので、新投資案を採用すべきです。
資本回収係数を用いて資本回収費を計算する場合
新投資案の資本回収費を資本回収係数を用いて計算すると316,556円になります。
- 資本回収費
=資本回収係数×投下資本
=1/3.7908×1,200,000円=316,556円
したがって、新投資案の年額原価は2,816,556円になります。
- 新投資案の年額原価
=資本回収費+操業費
=316,556円+2,500,000円=2,816,556円
よって、手作業の場合の費用2,800,000円よりも、新投資案の年額原価が16,556円多いので、新投資案を採用すべきではありません。
このように資本コストを考慮した場合、資本コストを考慮しない場合よりも年額原価が大きくなります。同じ投資案でも、資本コストを考慮するかしないかで結論が異なる場合があることに留意しなければなりません。
原価比較法の長所と短所
原価比較法には、計算が簡単で理解しやすいといった長所があります。
一方、原価だけを比較するため、投資案が収益にも影響を及ぼす場合に妥当性を欠くといった短所を持っています。