標準直接原価計算における固定費調整(原価差異が多額の場合)
ここでは、原価差異が多額な場合に標準直接原価計算の利益から全部標準原価計算の利益に調整する固定費調整について、具体的な数値を用いて解説します。
計算の前提
甲社は、標準直接原価計算を採用しています。当期の損益計算書の作成に必要な資料は以下の通りです。
標準原価
当期の標準原価カードは、以下の通りです。なお、標準原価カードは前期から変更していません。
前期も当期も固定製造間接費予算額は、500,000円です。
また、前期も当期も直接作業時間を基準操業度としており、予算作業時間は500時間です。
当期の生産データ
当期の生産データは、以下の通りです。
当期の固定製造間接費実際発生額は、501,000円です。
生産数量
- 期首仕掛品数量=10個(加工進捗度40%)
- 当期投入数量=100個
- 当期完成品数量=90個
- 期末仕掛品数量=20個(加工進捗度50%)
当期の販売データ
当期の販売データは、以下の通りです。
- 期首製品数量=10個
- 当期完成品数量=90個
- 当期販売数量=95個
- 期末製品数量=5個
当期の製品の販売価格は、20,000円/個です。
販売費および一般管理費実際発生額
当期の販売費および一般管理費の実際発生額は以下の通りです。
販売費
- 変動販売費=81円/個
- 固定販売費=70,500円
変動販売費実際発生額は、予算額を95円上回りました。
一般管理費
一般管理費の実際発生額は、予算と同じ120,000円です。
原価差異
当期に発生した原価差異は多額だったため、売上原価と棚卸資産に科目別に配賦します。
なお、前期の原価差異は少額だったため、前期の損益として処理しています。また、期末の仕掛品と製品は、平均法で計算しています。
標準直接原価計算の損益計算書
当期の標準直接原価計算の損益計算書は以下の通りです。なお、標準変動製造原価差異の発生額が多額なため、当期製品製造原価と期末製品棚卸高は、原価差異配賦後の金額を表示しています。
固定費調整の計算
標準直接原価計算の利益から全部標準原価計算の利益に調整する計算式は以下の通りです。
- 全部標準原価計算の利益
=標準直接原価計算の利益+単位当たり標準固定製造原価×(期末棚卸資産数量-期首棚卸資産数量)
したがって、標準直接原価計算から全部標準原価計算の利益に調整するためには、まず、期首と期末の棚卸資産数量、単位当たり標準固定製造原価(固定製造間接費標準配賦率)を求めなければなりません。
期首と期末の棚卸資産数量
期首と期末の棚卸資産数量を把握するには、仕掛品と製品ごとに以下のようなT勘定を作成するのが便利です。なお、赤字は加工進捗度を加味した完成品換算量です。
固定製造間接費標準配賦率
固定製造間接費予算額は500,000円、基準操業度は500時間なので、固定製造間接費標準配賦率は1,000円/時間になります。
- 固定製造間接費標準配賦率
=500,000円/500時間=1,000円/時間
製品1個あたりの直接作業時間は5時間なので、製品1個あたりの固定製造間接費標準配賦率は5,000円/個になります。
- 製品1個あたりの固定製造間接費標準配賦率
=1,000円/時間×5時間/個=5,000円/個
固定費調整額
期首と期末の棚卸資産数量、製品1個あたりの固定製造間接費標準配賦率を求めた後は、固定費調整額を計算します。なお、期首と期末の仕掛品は完成品換算量を用いることに注意しなければなりません。
- 固定費調整額
=5,000円/個×{(10個+5個)-(4個+10個)}
=5,000円/個×(15個-14個)
=5,000円
また、以下の計算式でも固定費調整額を計算できます。
- 固定費調整額
=単位当たり標準固定製造原価×(当期生産数量-当期販売数量)
=5,000円/個×(96個-95個)
=5,000円
固定製造間接費差異の配賦
当期の固定製造間接費差異は、-21,000円(不利差異)です。
- 固定製造間接費差異
=5,000円/個×96個-501,000円=-21,000円(不利差異)
固定製造間接費差異は多額のため、これを売上原価と期末棚卸資産に科目別に配賦しなければなりません。なお、仕掛品も製品も、平均法で期末残高を計算しているので、固定製造間接費差異も平均法で配賦します。
当期完成品と期末仕掛品への配賦
当期完成品と期末仕掛品に配賦するための平均単価は210円/個です。
- 平均単価=21,000円/(4個+96個)=210円/個
したがって、当期完成品には18,900円、期末仕掛品には2,100円が配賦されます。
- 当期完成品=210円×90個=18,900円
- 期末仕掛品=210円×10個=2,100円
売上原価と期末製品への配賦
次に製品に配賦する際の平均単価を求めます。
- 平均単価=18,900円/(10個+90個)=189円/個
したがって、当期の売上原価には17,955円、期末製品には945円が配賦されます。
- 売上原価=189円×95個=17,955円
- 期末製品=189円×5個=945円
固定費調整額に含まれる固定製造間接費差異
期首の仕掛品と製品には固定製造間接費差異が含まれていないので、期末の仕掛品と製品に含まれる固定製造間接費差異を標準直接原価計算の利益に加算します。
- 期末の仕掛品と製品に含まれる固定製造間接費差異
=2,100円+945円=3,045円
したがって、固定製造間接費差異も含めた固定費調整額は、8,045円になります。
- 固定費調整額=5,000円+3,045円=8,045円
固定費調整後の損益計算書
以上より、固定費調整後の損益計算書は以下のようになります。
全部標準原価計算の損益計算書
固定費調整後の営業利益を通常の全部標準原価計算の損益計算書で表示すると以下のようになります。
- 期首製品棚卸高
=90,000円+5,000円×10個=140,000円 - 当期製品製造原価
=841,770円+5,000円×90個+18,900円=1,310,670円 - 期末製品棚卸高
=46,589円+5,000円×5個+945円=72,534円 - 販売費
=7,600円+95円+70,500円=78,195円