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直接原価計算の機能

製造原価を固定費と変動費に分解する直接原価計算は、内部経営管理(管理会計目的)と外部報告目的(財務会計目的)に役立ちます。

管理会計目的

直接原価計算が提供する情報は、利益計画、経営意思決定、原価管理といった内部経営管理に活用できます。

利益計画

利益計画では、一定期間の費用、収益、利益の関係において、目標利益をいかに獲得するかが計画の中心になります。

直接原価計算は、費用を固定費と変動費に区分するので、原価、操業度、利益(C-V-P)の関係を分析するのに役立つ情報を提供します。

経営意思決定

直接原価計算における変動費は、活動量に比例するので増分原価です。一方、固定費は活動量と関係なく、一定期間に一定額が発生するので、ほとんどが埋没原価です。直接原価計算は、活動量に応じて発生額が変動する費用と活動量に関係なく一定額が発生する費用を把握できることから、経営意思決定に有用であると考えられます。

すなわち、直接原価計算で表示される限界利益は、操業度政策、プロダクト・ミックス、価格決定など各種意思決定に資する情報を経営管理者に提供できます。

原価管理

直接原価計算では、製造原価が固定費と変動費に分解されているので、経営管理者に固定費管理に目を向けさせ、原価管理の意識を高めることが期待できます。

そのため、直接原価計算の採用は、変動予算の基礎を与えるので、責任会計制度にもとづく原価管理に役立ちます。

財務会計目的

直接原価計算を外部報告に利用する場合、以下のような利点があります。

  1. 全部原価計算では利益が売上高と対応しないのに対し、直接原価計算では利益が売上高と対応する。また、変動費は現金支出原価とみなせるので、資金との関係を大まかに把握できる。

  2. 全部原価計算では製造間接費の配賦計算に恣意性が介入するが、直接原価計算では製品に集計するのは直接原価だけなので恣意性が介入しにくい。

  3. 全部原価計算において棚卸資産に集計される製造固定費は、活動量に関係なく毎期一定額が発生する。しかし、棚卸資産には、将来発生する費用を節約できる能力を持っている原価、すなわち、直接材料費などの変動製造原価だけが集計されるべきである。直接原価計算は、変動製造原価だけを棚卸資産に集計するので、未来原価を回避できる原価のみで棚卸資産価額が構成される。

直接原価計算への批判

直接原価計算には、上記のような機能が認められます。しかし、直接原価計算には様々な批判もあり、制度会計上は直接原価計算は認められておらず、財務会計上は全部原価計算で製造原価を計算しなければなりません。

直接原価計算への批判には以下のようなものがあります。

  1. 全部原価計算では、生産・販売活動を通して利益が獲得されると解する。一方、直接原価計算は、販売活動だけから利益が獲得されると解しているので、期間損益計算を乱すと言える。

  2. 直接原価計算では、直接原価と期間原価の区分に恣意性が介入する余地がある。特に準変動費を変動費部分と固定費部分に区分する場合、恣意性を完全に排除できない。

  3. 資産の本質は、当該資産が持つサービス・ポテンシャル(用役潜在性)の未来収益獲得能力である。したがって、製品の製造に要した費用は、未来収益獲得能力を発生させるためのものであり、変動費であろうと固定費であろうと全て製品原価に集計すべきである。しかし、直接原価計算では棚卸資産に変動製造原価のみを集計するので、当該資産価額は、未来収益獲得能力を表していない。

  4. 直接原価による価格決定は、原価全体を回収できる十分な価格を設定し損なう危険がある。すなわち、販売部門が、直接原価を回収できるように価格設定すれば良いと誤解すると、固定費の回収ができなくなる。

  5. 長期的な視点で見れば、固定費を配分した製造原価の方が価格決定や政策決定に役立つ資料を提供する。