非度外視法による正常仕損費の計算例(先入先出法)
ここでは、製品原価の計算に総合原価計算を採用している場合に非度外視法で正常仕損費を処理する方法を計算例を用いて解説します。
なお、完成品総合原価と期末仕掛品原価は先入先出法で計算しています。
目次
正常仕損費を完成品と期末仕掛品原価に負担させる場合
甲社は、総合原価計算を採用しており、完成品と期末仕掛品原価は先入先出法で算定しています。
期首仕掛品数量は30個、加工進捗度は30%です。期首仕掛品に含まれる直接材料費は500円、加工費は400円です。
当期投入数量は500個で、直接材料費は7,540円、加工費は19,845円です。
当期の完成品数量は430個です。
期末仕掛品数量は40個、加工進捗度は50%です。
材料は工程の始点で投入します。
仕損は工程の40%の地点で60個発生し、評価額は60円です。仕損はすべて正常であり、完成品と期末仕掛品の両方に非度外視法で負担させます。なお、仕損は、当期投入分から発生したものとします。
数量関係の把握
総合原価計算では、T勘定を作成して数量関係を把握するのが便利です。T勘定の作成では、まず貸方の数量を記入し、その後に借方の期首仕掛品数量を記入して、当期投入数量を計算します。なお、T勘定の赤字は、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量です。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成し、完成品原価と期末仕掛品原価を計算します。
直接材料費
直接材料費の期末仕掛品原価を計算する際の単位原価は、当期投入数量で、当期製造費用を除して求めます。
- 単位原価=7,540円/500個=15.08円
次に上記の単位原価に仕損品数量、期末仕掛品数量を乗じて、直接材料費の仕損品原価905円、期末仕掛品原価603円を計算します。
- 仕損品原価=15.08円×60個=905円
- 期末仕掛品原価=15.08円×40個=603円
直接材料費の完成品原価6,532円は、当期製造費用から仕損品原価と期末仕掛品原価を差し引き、期首仕掛品原価を加算して計算します。
- 完成品原価=7,540円-905円-603円+500円=6,532円
加工費
加工費の計算も、直接材料費と基本的に同じですが、数量は加工進捗度を加味した完成品換算量であることに注意しなければなりません。
- 単位原価=19,845円/465個=42.68円
次に上記の単位原価に加工進捗度を加味した仕損品数量、期末仕掛品数量を乗じて、加工費の仕損品原価1,024円、期末仕掛品原価854円を計算します。
- 仕損品原価=42.68円×24個=1,024円
- 期末仕掛品原価=42.68円×20個=854円
加工費の完成品原価18,367円は、当期製造費用から仕損品原価と期末仕掛品原価を差し引き、期首仕掛品原価を加算して計算します。
- 完成品原価=19,845円-1,024円-854円+400円=18,367円
仕損費の追加配賦
非度外視法では、分離把握した仕損品原価から仕損品評価額を差し引いた仕損費を期末仕掛品原価と完成品原価に追加配賦する手続きを行います。
なお、仕損は当期投入分から発生しているので、追加配賦の計算には期首仕掛品数量を含めません。
- 追加配賦額=905円+1,024円-60円=1,869円
- 期末仕掛品追加配賦額=1,869円/(500個-60個)×40個=170円
- 完成品追加配賦額=1,869円-170円=1,699円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、期末仕掛品原価は1,627円、完成品原価は26,598円、完成品単位原価は61.86円です。
- 期末仕掛品原価=603円+854円+170円=1,627円
- 完成品原価=6,532円+18,367円+1,699円=26,598円
- 完成品単位原価=26,598円/430個=61.86円
度外視法と非度外視法との間の完成品原価の差異
工程の一定点で発生した仕損費を完成品原価と期末仕掛品原価に配賦する場合、度外視法と非度外視法で計算結果が異なります。
その理由は、度外視法では仕損費の加工費部分を加工進捗度を加味した完成品換算量を基準に完成品原価と期末仕掛品原価に配賦するのに対して、非度外視法では加工進捗度を加味していない数量を基準に完成品原価と期末仕掛品原価に配賦するからです。
工程の一定点で仕損が発生する場合、加工進捗度を加味した完成品換算量を基準に仕損費を配賦すると計算が不正確になります。なぜなら、期末仕掛品が仕損発生点を通過している場合、次期の加工では当該仕掛品からは仕損が発生しないからです。それなのに加工進捗度を加味して期末仕掛品に仕損費を配賦すると、本来配賦すべき仕損費よりも少なく計算されてしまいます。
なお、度外視法で完成品原価を計算すると26,645円となり、非度外視法よりも47円多くなります。
これは、加工費から発生した仕損費の配賦基準数量が度外視法と非度外視法とで異なっているからです。以下の計算式で、両者の差異金額を計算できます。
- 度外視法での完成品負担額
=1,024円/441個×421個=978円 - 非度外視法での完成品負担額
=1,024円/440個×400個=931円 - 差異
=978円-931円=47円
正常仕損費を完成品のみに負担させる場合
甲社は、総合原価計算を採用しており、完成品と期末仕掛品原価は先入先出法で算定しています。
期首仕掛品数量は30個、加工進捗度は30%です。期首仕掛品に含まれる直接材料費は500円、加工費は400円です。
当期投入数量は500個で、直接材料費は8,500円、加工費は21,465円です。
当期の完成品数量は430個です。
期末仕掛品数量は40個、加工進捗度は50%です。
材料は工程の始点で投入します。
仕損は工程の60%の地点で60個発生し、評価額は60円です。仕損はすべて正常であり、完成品に負担させます。なお、仕損品評価額は、直接材料費から控除します。
数量関係の把握
総合原価計算では、T勘定を作成して数量関係を把握するのが便利です。T勘定の作成では、まず貸方の数量を記入し、その後に借方の期首仕掛品数量を記入して、当期投入数量を計算します。なお、T勘定の赤字は、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量です。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成し、完成品原価と期末仕掛品原価を計算します。
直接材料費
直接材料費の期末仕掛品原価を計算する際の単位原価は、当期投入数量で、当期製造費用を除して求めます。
- 単位原価=8,500円/500個=17.0円
したがって、直接材料費の期末仕掛品原価は680円、仕損品原価は1,020円になります。
- 期末仕掛品原価=17.0円×40個=680円
- 仕損品原価=17.0円×60個=1,020円
直接材料費の完成品原価は、当期製造費用から期末仕掛品原価と仕損品評価額を差し引き、期首仕掛品原価を加算した7,300円になります。
- 完成品原価=8,500円-680円-1,020円+500円=7,300円
加工費
加工費の計算も、直接材料費と基本的に同じですが、数量は加工進捗度を加味した完成品換算量であることに注意しなければなりません。
- 単位原価=21,465円/477個=45.0円
したがって、加工費の期末仕掛品原価は900円、仕損品原価は1,620円になります。
- 期末仕掛品原価=45.0円×20個=900円
- 仕損品原価=45.0円×36個=1,620円
加工費の完成品原価は、当期製造費用から期末仕掛品原価と仕損品評価額を差し引き、期首仕掛品原価を加算した19,345円になります。
- 完成品原価=21,465円-900円-1,620円+400円=19,345円
仕損費の追加配賦
非度外視法では、分離把握した仕損品原価から仕損品評価額を差し引いた仕損費を完成品原価に追加配賦する手続きを行います。
なお、仕損は当期投入分から発生しているので、追加配賦の計算には期首仕掛品数量を含めません。
- 追加配賦額=1,020円+1,620円-60円=2,580円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、期末仕掛品原価は1,580円、完成品原価は29,225円、完成品単位原価は68.0円です。
- 期末仕掛品原価=680円+900円=1,580円
- 完成品原価=7,300円+19,345円+2,580円=29,225円
- 完成品単位原価=29,225円/430個=68.0円
度外視法と非度外視法で計算結果は一致
仕損費を完成品にのみ負担させる場合は、度外視法と非度外視法で計算結果が一致します。
したがって、計算の簡便性の点からは度外視法が適しています。しかし、原価管理の点からは、仕損費がいくら発生したかを把握できる非度外視法が適しています。
正常仕損が平均的に発生する場合
甲社は、総合原価計算を採用しており、完成品と期末仕掛品原価は先入先出法で算定しています。
期首仕掛品数量は30個、加工進捗度は30%です。期首仕掛品に含まれる直接材料費は500円、加工費は400円です。
当期投入数量は500個で、直接材料費は7,540円、加工費は19,665円です。
当期の完成品数量は430個です。
期末仕掛品数量は40個、加工進捗度は40%です。
材料は工程の始点で投入します。
仕損は加工を通して平均的に発生します。当期の仕損品発生量は60個、評価額は60円です。仕損はすべて正常であり、完成品と期末仕掛品の両方に非度外視法で負担させます。なお、仕損は、当期投入分から発生したものとします。
数量関係の把握
総合原価計算では、T勘定を作成して数量関係を把握するのが便利です。T勘定の作成では、まず貸方の数量を記入し、その後に借方の期首仕掛品数量を記入して、当期投入数量を計算します。なお、T勘定の赤字は、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量です。仕損は平均的に発生するので、加工進捗度は50%で計算します。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成し、完成品原価と期末仕掛品原価を計算します。
直接材料費
直接材料費の期末仕掛品原価を計算する際の単位原価は、当期投入数量で、当期製造費用を除して求めます。
- 単位原価=7,540円/500個=15.08円
次に上記の単位原価に仕損品数量、期末仕掛品数量を乗じて、直接材料費の仕損品原価905円、期末仕掛品原価603円を計算します。
- 仕損品原価=15.08円×60個=905円
- 期末仕掛品原価=15.08円×40個=603円
直接材料費の完成品原価6,532円は、当期製造費用から仕損品原価と期末仕掛品原価を差し引き、期首仕掛品原価を加算して計算します。
- 完成品原価=7,540円-905円-603円+500円=6,532円
加工費
加工費の計算も、直接材料費と基本的に同じですが、数量は加工進捗度を加味した完成品換算量であることに注意しなければなりません。
- 単位原価=19,665円/467個=42.11円
次に上記の単位原価に加工進捗度を加味した仕損品数量、期末仕掛品数量を乗じて、加工費の仕損品原価1,263円、期末仕掛品原価674円を計算します。
- 仕損品原価=42.11円×30個=1,263円
- 期末仕掛品原価=42.11円×16個=674円
加工費の完成品原価18,128円は、当期製造費用から仕損品原価と期末仕掛品原価を差し引き、期首仕掛品原価を加算して計算します。
- 完成品原価=19,665円-1,263円-674円+400円=18,128円
仕損費の追加配賦
非度外視法では、分離把握した仕損品原価から仕損品評価額を差し引いた仕損費を期末仕掛品原価と完成品原価に追加配賦する手続きを行います。
なお、仕損は当期投入分から発生しているので、追加配賦の計算には期首仕掛品数量を含めません。
- 追加配賦額=905円+1,263円-60円=2,108円
- 期末仕掛品追加配賦額=2,108円/(467個-30個)×16個=77円
- 完成品追加配賦額=2,108円-77円=2,031円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、期末仕掛品原価は1,354円、完成品原価は26,691円、完成品単位原価は62.07円です。
- 期末仕掛品原価=603円+674円+77円=1,354円
- 完成品原価=6,532円+18,128円+2,031円=26,691円
- 完成品単位原価=26,691円/430個=62.07円
仕損が平均的に発生する場合は、仕損費を完成品と期末仕掛品の両方に負担させます。
したがって、非度外視法では、期末仕掛品の加工進捗度が仕損発生点を通過している場合と仕損が平均的に発生する場合は、仕損費を期末仕掛品と完成品の両方に負担させる点で同じです。
ただし、仕損が平均的に発生する場合の仕損の完成品換算量は50%で計算するのに対して、工程の一定点で仕損が発生する場合の完成品換算量は加工進捗度によって変化します。この点で、工程の一定点で仕損が発生する場合と平均的に仕損が発生する場合で、完成品換算量が異なります。
度外視法と非度外視法との間の完成品原価の差異
加工を通して平均的に仕損が発生する場合、完成品原価と期末仕掛品原価に配賦する仕損費は、度外視法と非度外視法で異なります。
度外視法の場合、直接材料費部分の仕損費は加工進捗度を加味しない数量を基準に完成品と期末仕掛品に配賦します。一方の非度外視法では、直接材料費部分の仕損費を加工進捗度を加味した完成品換算量を基準に完成品と期末仕掛品に配賦します。これが両者で、完成品原価と期末仕掛品原価が異なる理由です。
仕損が平均的に発生する場合、期末仕掛品からも仕損が発生しています。また、当該仕掛品は次期の加工でも完成品になるまで平均的に仕損が発生します。そのため、仕損費は加工に応じて負担させるのが妥当であり、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量を基準に追加配賦すべきと考えられます。
なお、度外視法で完成品原価を計算すると26,645円となり、非度外視法よりも46円少なくなります。
これは、直接材料費から発生した仕損費の配賦基準数量が度外視法と非度外視法とで異なっているからです。以下の計算式で、両者の差異金額を計算できます。
- 度外視法での完成品負担額
=(905円-60円)/440個×400個=768円 - 非度外視法での完成品負担額
=(905円-60円)/437個×421個=814円 - 差異=768円-814円
=-46円