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総合原価計算での仕損と減損の処理

仕損とは、製造作業の過程で品質基準や規格基準に合致せず、完全な生産物とならなかったもののことです。いわゆる失敗作であり、不完全な生産物は仕損品といいます。そして、仕損の発生費用から仕損品評価額を差し引いたものを仕損費といいます。

減損とは、投入した原材料のうち、加工中に蒸散、粉散、ガス化、煙化などによって減少した損耗分のことです。減損は無形かつ無価値であり、その発生額は減損費といいます。

主要材料の消費量のうち、どれだけが完成品となったかを示す指標に歩留率があります。歩留率は、以下の計算式で算定します。

  • 歩留率=完成品数量/原材料投入量×100%

目次

  1. 仕損の処理方法
  2. 減損の処理方法
  3. 度外視法
  4. 非度外視法
  5. 期首仕掛品未加工分の処理

仕損の処理方法

仕損には、製品の製造に避けられない正常仕損と異常な原因から発生する異常仕損があります。

異常仕損は、良品の生産に関係がない仕損であるので非原価項目として扱います。

一方、正常仕損は、良品の生産に必要な原価と考えられるので、その発生額は良品に負担させなければなりません。

正常仕損費の処理

正常仕損費を良品に負担させる場合、完成品と期末仕掛品の両方に負担させる方法、完成品のみに負担させる方法の2種類が考えられます。

原価計算基準27では、正常仕損費は、原則として完成品と期末仕掛品とに負担させると規定しています。

総合原価計算においては、仕損の費用は、原則として、特別に仕損費の費目を設けることをしないで、これをその期の完成品と期末仕掛品とに負担させる。

原価計算基準の考え方の他にも、正常仕損費の処理については以下のような考え方があります。

仕損品の検出箇所で決定

仕損が、製品完成箇所で検出された時には完成品のみに負担させ、工程の始めで検出された時には完成品と期末仕掛品に負担させます。

しかし、仕損の検出箇所と発生箇所が必ずしも同じとは言えないので、理論的に妥当ではありません。

工程の始点か終点かで決定

仕損が、工程の始点で発生した場合には完成品と期末仕掛品に負担させ、工程の終点で発生した場合には完成品のみに負担させます。

しかし、中間点で仕損が発生した場合にどうすべきか問題があります。

期末仕掛品の進捗度と仕損品の発生点によって決定

期末仕掛品の進捗度と仕損品の発生点を比較して、仕損費の負担関係を決定します。

期末仕掛品進捗度≧仕損発生点

期末仕掛品の進捗度が、仕損発生点を通過している場合は、仕損費を完成品と期末仕掛品の両方に負担させます。

期末仕掛品進捗度<仕損発生点

期末仕掛品の進捗度が仕損発生点を通過していない場合は、仕損費を完成品のみに負担させます。


この処理方法は、我が国の原価計算の理論で最も支持されています。

期末仕掛品の加工進捗度が仕損発生点を通過していない場合、その仕掛品の加工は仕損発生点に達していないので仕損費を負担させるのは妥当ではありません。

一方、期末仕掛品の加工進捗度が仕損発生点を通過している場合は、その仕掛品の加工は仕損発生点に達しており、期末仕掛品部分からも仕損が発生したと考えられます。したがって、この場合は、完成品と期末仕掛品に仕損費を負担させるのが妥当です。

一種の会計政策として決定

企業が一種の会計政策として、仕損費を完成品のみに負担させるか、完成品と期末仕掛品の両方に負担させるかを決めます。

我が国の実務では、保守主義の立場から、仕損費を完成品のみに負担させる処理を採用していることが多いです。

減損の処理方法

減損も、仕損と同じく、正常減損異常減損があります。

そして、減損の処理方法も仕損と同じように異常減損は非原価項目として扱い、正常減損はその発生額を良品に負担させます。

正常減損の処理

原価計算基準27では、減損は仕損に準じて処理するように規定されています。

加工中に蒸発、粉散、ガス化、煙化等によって生ずる原料の減損の処理は、仕損に準ずる。

したがって、原価計算基準では、減損発生額は、原則として完成品と期末仕掛品の両方に負担させることになります。

また、理論的には、減損も仕損と同様にその発生点によって、完成品と期末仕掛品の両方に負担させる場合と完成品のみに負担させる場合が考えられます。ただし、減損は仕損とは異なり、原材料そのものが蒸発などによって無くなり、跡を残さないので、仕損とは異なる処理方法が要求されます。

減損が工程の始点で発生した場合

減損が工程の始点で発生した場合、理論上、減損分の原材料の加工は一切行われていないので、加工数量はゼロとして計算します。

減損が加工途中で発生した場合

減損は、その発生点を直接的に把握するのが困難なため、平均的に発生したと仮定して処理する方法が考えられます。この方法では、原材料の一部が工程の始点から終点にかけて 均等に減っていくと仮定します。そのため、加工費の減損数量は、2分の1を乗じた数量として計算する必要があります。

減損が工程の一定点で発生したことが明らかな場合は、減損発生点を通過した仕掛品には減損発生額を負担させ、減損発生点を通過していない仕掛品には減損発生額を負担させません。つまり、期末仕掛品の加工進捗度が減損発生点を通過している場合は減損発生額を完成品と期末仕掛品の両方に負担させ、期末仕掛品の加工進捗度が減損発生点を通過していない場合は減損発生額を完成品にのみ負担させます。

減損が工程の終点で発生した場合

減損が工程の終点で発生した場合は、原材料の加工は全て終えているので、加工費は原材料と同じように工程終点で全ての費用が発生したとみなせます。

したがって、減損発生額は完成品のみに負担させ、減損の加工進捗度は100%として計算します。

度外視法

正常仕損や正常減損の発生額を分離把握することなく、自動的に良品の原価に算入する計算方法を度外視法といいます。

正常仕損や正常減損の発生額を度外視法で良品に負担させる場合、完成品と期末仕掛品の両方に負担させる計算方法と完成品のみに負担させる計算方法の2種類があります。

完成品と期末仕掛品の両方に負担させる計算方法

完成品と期末仕掛品の両方に負担させる場合には、最初から減損分ないし仕損分が工程に投入されなかったものとして計算します。

この方法では、減損分ないし仕損分の完成品換算量が完成品換算総量の計算から除外されるので、直接材料費と加工費の単位原価が高く計算されます。そのため、減損分ないし仕損分を除外して高くなった単位原価をもとに完成品原価と期末仕掛品原価を計算すれば、自動的に減損分ないし仕損分の発生額が完成品原価と期末仕掛品原価に案分されます。

なお、仕損品に評価額がある場合は、当期製造費用から仕損品評価額を控除する必要があります。

完成品のみに負担させる計算方法

完成品のみに負担させる場合には、減損ないし仕損の完成品換算量を含む完成品換算総量に基づいて計算される単位原価によって、期末仕掛品原価を計算します。そして、期首仕掛品原価と当期製造費用の合計額から期末仕掛品原価を差し引いて完成品原価を計算します。

なお、仕損品に評価額がある場合は、完成品原価から仕損品評価額を控除する必要があります。

計算方法の選択

度外視法で、正常仕損や正常減損の発生額を完成品と期末仕掛品の両方に負担させるか、完成品のみに負担させるかの選択には、様々な考え方があります。

工程の終点で発生した場合は完成品のみに負担させる

この方法では、工程の始点で発生した減損や工程の途中で発生した仕損や減損は、完成品と期末仕掛品の両方に負担させます。そして、工程の終点で発生した仕損や減損は、完成品のみに負担させます。

加工進捗度を考慮して負担させる

期末仕掛品の加工進捗度が、仕損や減損の発生点を通過している場合には、完成品と期末仕掛品の両方に負担させます。仕損や減損が、平均的に発生した場合も、この方法を選択します。

期末仕掛品の加工進捗度が、仕損や減損の発生点を通過していない場合には、完成品のみに負担させます。

一種の会計政策として決定

仕損や減損の発生額の負担先を企業の会計政策によって決定します。

仕損や減損の発生点と期末仕掛品の加工進捗度を比較して、完成品のみに負担させるか、期末仕掛品にも負担させるかは、理論的に考えることはできても、実務では実行が困難です。

そのため、仕損や減損の発生額をどのように負担させるかは、個々の企業の会計方針に委ねるしかない場合があります。


非度外視法

正常仕損ないし正常減損は、通常は、計算の簡便性から度外視法で処理します。

しかし、度外視法では、正常減損費を正確に把握できないので、原価管理に限界があるという欠点があります。

そこで、正常仕損費や正常減損費を計算し、他の生産単位に追加配賦する非度外視法の適用が主張されます。非度外視法であれば、計算の正確性が得られるだけでなく、工程の仕損や減損を意識させ原価管理に役立てることが可能となります。

非度外視法では、仕損ないし減損の発生点と期末仕掛品の加工進捗度との関係から、それらの発生額を完成品のみに負担させるか、期末仕掛品にも負担させるかを決定します。

工程の始点で発生した場合

減損が工程の始点で発生した場合は、完成品と期末仕掛品の両方に負担させます。

直接材料費は、減損分100%を完成品と期末仕掛品に追加配賦するので、度外視法と計算結果が一致します。

加工費は、減損分の加工進捗度が0%であり、減損換算量も減損費もゼロとなります。したがって、加工費も度外視法と計算結果は一致します。

工程の終点で発生した場合

仕損や減損が工程の終点で発生した場合は、それらの発生額を完成品にのみ追加配賦します。

直接材料費分の仕損や減損は完成品に追加配賦されるので、度外視法と計算結果が一致します。

加工費分の仕損や減損は完成品に追加配賦されるので、度外視法と計算結果が一致します。

平均的に発生した場合

仕損や減損が、加工を通じて平均的に発生した場合は、それらの発生額は完成品と期末仕掛品に追加配賦します。

直接材料費分の仕損や減損の発生額を期末仕掛品原価に追加配賦する際、期末仕掛品数量に加工進捗度を乗じて計算するので、度外視法と計算結果が異なります

加工費分の仕損や減損の発生額を期末仕掛品原価に追加配賦する際、期末仕掛品数量に加工進捗度を乗じて計算するので、度外視法と計算結果が一致します。

工程の一定点で発生した場合

工程の一定点で仕損や減損が発生した場合には、それらの発生点と期末仕掛品の加工進捗度との関係で、完成品のみに追加配賦するか、期末仕掛品にも追加配賦するかを決定します。

  • 期末仕掛品進捗度≧発生点:完成品と期末仕掛品に追加配賦
  • 期末仕掛品進捗度<発生点:完成品のみに追加配賦

直接材料費分の仕損や減損の発生額を完成品と期末仕掛品に追加配賦する場合は、度外視法と計算結果が一致します。

加工費分の仕損や減損の発生額を完成品と期末仕掛品に追加配賦する際、期末仕掛品数量に加工進捗度を乗じないので、度外視法と計算結果が異なります

完成品のみに仕損や減損の発生額を追加配賦する場合は、度外視法と計算結果が一致します。


期首仕掛品未加工分の処理

期首仕掛品の前期の未加工分からも、仕損や減損が発生する可能性があります。

この場合、厳密に計算するなら、期首仕掛品の仕損や減損の発生と当期の仕損や減損の発生を区別して、それらの発生額の負担関係を決めなければなりません。

しかし、このように厳密に計算するのは、実務上煩雑となることから、一定の仮定に基づき、仕損や減損の発生額を計算することになります。

先入先出法を採用している場合は、当期投入分から仕損や減損が発生したと仮定することがあります。また、平均法であれば、前期と当期の加重平均単価を用いて仕損や減損の原価を計算するのが、よく見られる方法です。

計算の正確性を重視するなら、期首仕掛品の前期の未加工分と当期投入分を区別して仕損や減損を把握すべきですが、通常は、期首仕掛品数量よりも当期投入数量の方が圧倒的に多いので、仕損や減損が当期投入分から発生したと仮定しても計算結果に大きな差異が生じることはほとんどありません。