工程別予定(正常)原価計算の計算例
ここでは、工程別予定(正常)原価計算の計算方法を具体例を用いて解説します。
計算の前提
乙社は、累加法による工程別総合原価計算により製品原価を計算しています。
材料は、第1工程の始点で投入します。加工は第1工程、第2工程、第3工程と順次行います。
第1工程
第1工程の各種情報は以下の通りです。
期首仕掛品
- 数量=100個
- 加工進捗度=30%
- 直接材料費=2,377円
- 加工費=1,335円
期末仕掛品
- 数量=80個
- 加工進捗度=60%
当期投入
- 数量=1,230個
- 直接材料費=30,873円
- 加工費=55,950円
仕損
仕損が加工の50%の地点で50個発生しました。仕損は全て異常であり、仕損品評価額は1,000円です。
完了品
第1工程の完了品は1,200個です。
期末仕掛品原価と完成品原価は、平均法で計算します。
第1工程完了品のうち1,000個を第2工程に投入し、200個は入庫します。
第2工程
第2工程の各種情報は以下の通りです。
期首仕掛品
- 数量=80個
- 加工進捗度=50%
- 前工程費=5,760円
- 加工費=2,096円
期末仕掛品
- 数量=120個
- 加工進捗度=30%
当期投入
第2工程では、第1工程完了品のうち1,000個を投入します。なお、第1工程完了品を第2工程に投入する際、予定単価を72円に設定しています。
第2工程の当期の加工費は47,800円です。
完成品
期末仕掛品原価と完成品原価は、先入先出法で計算します。
第2工程の完成品は960個で、そのうち800個を第3工程に投入し、160個は入庫します。
第3工程
第3工程の各種情報は以下の通りです。
期首仕掛品
- 数量=150個
- 加工進捗度=40%
- 前工程費=19,200円
- 加工費=2,140円
期末仕掛品
- 数量=110個
- 加工進捗度=60%
当期投入
第3工程では、第2工程完了品のうち800個を投入します。なお、第2工程完了品を第3工程に投入する際、予定単価を125円に設定しています。
第2工程の当期の加工費は29,610円です。
減損
減損は加工の終点で20個発生しました。減損は完成品のみに負担させます。
完成品
期末仕掛品原価と完成品原価は、先入先出法で計算します。
第3工程の完成品は820個です。
第1工程の計算
数量関係の把握
総合原価計算では、T勘定を作成して数量関係を把握するのが便利です。T勘定の作成では、まず貸方の数量を記入し、その後に借方の期首仕掛品数量を記入して、当期投入数量を計算します。なお、T勘定の赤字は、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量です。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成します。
直接材料費の計算
完成品と期末仕掛品原価の計算は平均法で行うので、期末仕掛品原価を計算するための平均単価は、期首仕掛品数量と当期投入数量の合計で期首仕掛品原価と当期製造費用を加算した価額を除して計算します。
- 数量=100個+1,230個=1,330個
- 金額=2,377円+30,873円=33,250円
- 単位原価=33,250円/1,330個=25.0円
仕損は、全て異常仕損なので、異常仕損分の直接材料費は良品の計算から除外します。
- 異常仕損=25.0円×50個=1,250円
次に平均単価25.0円を期末仕掛品数量と完成品数量に乗じて、それぞれの原価を計算します。
- 期末仕掛品原価=25.0円×80個=2,000円
- 完成品原価=25.0円×1,200個=30,000円
加工費の計算
加工費の計算も基本的に直接材料費と同じですが、数量は完成品換算量を使うことに注意しなければなりません。
- 数量=30個+1,243個=1,273個
- 金額=1,335円+55,950円=57,285円
- 単位原価=57,285円/1,273個=45.0円
したがって、加工費の異常仕損、期末仕掛品原価、完成品原価は以下のようになります。
- 異常仕損=45.0円×25個=1,125円
- 期末仕掛品原価=45.0円×48個=2,160円
- 完成品原価=45.0円×1,200個=54,000円
異常仕損費
仕損品の評価額は1,000円なので、異常仕損費は1,375円になります。
- 異常仕損費=1,250円+1,125円-1,000円=1,375円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、第1工程の期末仕掛品原価、完成品原価、完成品単位原価は以下のようになります。
- 期末仕掛品原価=2,000円+2,160円=4,160円
- 完成品原価=30,000円+54,000円=84,000円
- 完成品単位原価=84,000円/1,200個=70.0円
第2工程の計算
第2工程では、第1工程完了品1,000個が投入され加工が行われます。なお、第1工程完了品は、予定価格72円で受け入れます。
数量関係の把握
第2工程でもT勘定を作成して数量関係を把握します。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成します。
前工程費
第2工程では先入先出法で、期末仕掛品原価と完成品原価を計算します。したがって、前工程費の期末仕掛品原価は、振替価格72円を使って計算します。
- 期末仕掛品原価=72.0円×120個=8,640円
したがって完成品原価は69,120円になります。
- 完成品原価=72,000円-8,640円+5,760円=69,120円
加工費
加工費の計算は、基本的に前工程費と同じです。ただし、数量は加工進捗度を加味した完成品換算量であることに注意しなければなりません。
期末仕掛品原価と完成品原価を計算するための単位原価は以下の計算により50.0円になります。
- 単位原価=47,800円/956個=50.0円
したがって、期末仕掛品原価と完成品原価は以下のようになります。
- 期末仕掛品原価=50.0円×36個=1,800円
- 完成品原価=47,800円-1,800円+2,096円=48,096円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、第2工程の期末仕掛品原価、完成品原価、完成品単位原価は以下のようになります。
- 期末仕掛品原価=8,640円+1,800円=10,440円
- 完成品原価=69,120円+48,096円=117,216円
- 完成品単位原価=117,216円/960個=122.1円
第3工程の計算
第3工程では、第2工程完了品800個が投入され加工が行われます。なお、第2工程完了品は、予定価格125円で受け入れます。
数量関係の把握
第3工程でもT勘定を作成して数量関係を把握します。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、以下のような原価計算表を作成します。
前工程費
第3工程では先入先出法で、期末仕掛品原価と完成品原価を計算します。また、減損は全て完成品に負担させるので、前工程費の期末仕掛品原価は、振替価格125.0円を使って計算します。
- 期末仕掛品原価=125.0円×110個=13,750円
したがって完成品原価は105,450円になります。
- 完成品原価=100,000円-13,750円+19,200円=105,450円
加工費
加工費の計算は、基本的に前工程費と同じです。ただし、数量は加工進捗度を加味した完成品換算量であることに注意しなければなりません。
期末仕掛品原価を計算するための単位原価は以下の計算により35.0円になります。
- 単位原価=29,610円/846個=35.0円
したがって、期末仕掛品原価と完成品原価は以下のようになります。
- 期末仕掛品原価=35.0円×66個=2,310円
- 完成品原価=29,610円-2,310円+2,140円=29,440円
期末仕掛品原価と完成品原価
以上より、第3工程の期末仕掛品原価、完成品原価、完成品単位原価は以下のようになります。
- 期末仕掛品原価=13,750円+2,310円=16,060円
- 完成品原価=105,450円+29,440円=134,890円
- 完成品単位原価=134,890円/820個=164.5円
振替差異の計算
第1工程完了品を第2工程に振り替える際、実際原価と予定原価との間に振替差異が発生しています。
同様に第2工程完了品を第3工程に振り替える際も振替差異が発生しています。
- 第1工程の振替差異
=(72.0円-70.0円)×1,000個=2,000円(有利差異) - 第2工程の振替差異
=(125.0円-122.1円)×800個=2,320円(有利差異)