工程別総合原価計算(非累加法-通常の計算方式)の計算例
ここでは、非累加法(通常の計算方式)による工程別総合原価計算の計算方法を具体例を用いて解説します。
計算の前提
甲社は、非累加法による工程別総合原価計算により製品原価を計算しています。なお、完成品総合原価と期末仕掛品原価の計算は、平均法で行っています。
期首仕掛品
各工程の期首仕掛品の情報は以下の通りです。
第1工程
- 数量=200t
- 加工進捗度=20%
- 自工程直接材料費=12,000円
- 自工程加工費=2,600円
第2工程
- 数量=100t
- 加工進捗度=60%
- 第1工程直接材料費=6,000円
- 第1工程加工費=6,500円
- 自工程加工費=2,400円
第3工程
- 数量=120t
- 加工進捗度=50%
- 第1工程直接材料費=7,200円
- 第1工程加工費=7,800円
- 第2工程加工費=4,800円
- 自工程加工費=1,676円
当期投入
材料は、第1工程の始点で1,300t投入します。
第1工程の完了品は全量が第2工程に投入されます。さらに第2工程の完了品は全量が第3工程に投入されます。第2工程も第3工程も、前工程完成品は工程の始点で投入されます。
当期投入分の直接材料費と加工費は以下の通りです。
- 直接材料費=76,280円
- 第1工程加工費=83,060円
- 第2工程加工費=44,400円
- 第3工程加工費=32,374円
期末仕掛品
期末仕掛品数量と加工進捗度は以下の通りです。
第1工程
- 数量=300t
- 加工進捗度=40%
第2工程
- 数量=150t
- 加工進捗度=80%
第3工程
- 数量=70t
- 加工進捗度=50%
完成品数量
各工程の完成品数量は以下の通りです。
- 第1工程=1,100t
- 第2工程=1,050t
- 第3工程=1,050t
減損
減損は、第1工程の加工進捗度30%の地点で100個発生しました。減損はすべて正常で、完成品に度外視法で負担させます。
仕損
仕損は、第3工程の終点で50個発生し、すべて正常です。仕損品評価額は990円で、完成品原価の直接材料費から控除します。
非累加法での計算方法
非累加法では、自工程で発生した製造原価の最終工程での最終完成品原価を構成する部分を直接計算します。
すなわち、自工程から最終工程までの加工を1工程で終えたかのようにして原価計算表を作成して、完成品原価に占める自工程費を計算します。
第1工程費の計算
数量関係の把握
総合原価計算では、T勘定を作成して数量関係を把握するのが便利です。T勘定の作成では、まず貸方の数量を記入し、その後に借方の期首仕掛品数量を記入して、当期投入数量を計算します。なお、T勘定の赤字は、数量に加工進捗度を乗じた完成品換算量です。
原価計算表の作成
数量関係を把握した後は、直接材料費と加工費に分けて、原価計算表を作成し、完成品原価と期末仕掛品原価を計算します。
直接材料費の原価計算表
第1工程の直接材料費の原価計算表は以下のようになります。
直接材料費の期末仕掛品原価を計算する際の平均単価は、第1工程、第2工程、第3工程の期首仕掛品数量と当期投入数量を加算した数量で、第1工程、第2工程、第3工程の期首仕掛品に占める第1工程直接材料費と当期製造費用を加算した価額を除します。
- 数量=200t+100t+120t+1,300t=1,720t
- 金額=12,000円+6,000円+7,200円+76,280円=101,480円
- 平均単価=101,480円/1,720t=59.0円
次に上記平均単価59.0円を第1工程、第2工程、第3工程の各期末仕掛品数量に乗じて、各工程の期末仕掛品原価を計算します。
- 第1工程期末仕掛品原価=59.0円×300t=17,700円
- 第2工程期末仕掛品原価=59.0円×150t=8,850円
- 第3工程期末仕掛品原価=59.0円×70t=4,130円
全工程の期首仕掛品原価に当期製造費用を加算し、全工程の期末仕掛品原価を差し引いて、第1工程直接材料費の完成品原価を計算します。
なお、第1工程で発生した減損も、第3工程で発生した仕損も完成品のみに負担させます。第3工程の仕損品評価額は、直接材料費の完成品原価から差し引きます。
- 完成品原価
=101,480円-17,700円-8,850円-4,130円-990円=69,810円
加工費の原価計算表
第1工程の加工費の原価計算表は以下のようになります。
加工費の計算も、直接材料費と基本的に同じです。ただし、数量は、自工程は加工進捗度を加味した完成品換算量を使いますが、次工程以降の数量には加工進捗度を加味してはいけません。したがって、第1工程加工費の計算では、第1工程の数量は完成品換算量、第2工程と第3工程は加工進捗度を加味しない数量を使います。
- 数量=40t+100t+120t+1,210t=1,470t
- 金額=2,600円+6,500円+7,800円+83,060円=99,960円
- 平均単価=99,960円/1,470t=68.0円
次に上記平均単価68.0円を第1工程、第2工程、第3工程の各期末仕掛品数量に乗じて、各工程の期末仕掛品原価を計算します。
- 第1工程期末仕掛品原価=68.0円×120t=8,160円
- 第2工程期末仕掛品原価=68.0円×150t=10,200円
- 第3工程期末仕掛品原価=68.0円×70t=4,760円
全工程の期首仕掛品原価に当期製造費用を加算し、全工程の期末仕掛品原価を差し引いて、第1工程加工費の完成品原価を計算します。
なお、第1工程で発生した減損も、第3工程で発生した仕損も完成品のみに負担させます。
- 完成品原価
=99,960円-8,160円-10,200円-4,760円=76,840円
第2工程費の計算
第2工程では、第1工程の完成品全量が投入されて加工が行われます。
そのため、第2工程費は、加工費のみの計算を行います。
原価計算表の作成
第2工程加工費の原価計算表を作成すると以下のようになります。
第2工程加工費の期末仕掛品原価を算定するための平均単価の計算では、第2工程の数量は完成品換算量を使い、第3工程の数量は加工進捗度を加味しない数量を使います。
- 数量=60t+120t+1,110t=1,290t
- 金額=2,400円+4,800円+44,400円=51,600円
- 平均単価=51,600円/1,290t=40.0円
次に上記平均単価40.0円を第2工程、第3工程の各期末仕掛品数量に乗じて、各工程の期末仕掛品原価を計算します。
- 第2工程期末仕掛品原価=40.0円×120t=4,800円
- 第3工程期末仕掛品原価=40.0円×70t=2,800円
全工程の期首仕掛品原価に当期製造費用を加算し、全工程の期末仕掛品原価を差し引いて、第2工程加工費の完成品原価を計算します。
なお、第3工程で発生した仕損は完成品のみに負担させます。
- 完成品原価=51,600円-4,800円-2,800円=44,000円
第3工程費の計算
第3工程では、第2工程の完成品全量が投入されて加工が行われます。
そのため、第3工程費は、加工費のみの計算を行います。
原価計算表の作成
第3工程加工費の原価計算表を作成すると以下のようになります。
第3工程は最終工程なので、第3工程加工費の計算は単純総合原価計算の加工費の計算と同じです。すなわち、第3工程の期首仕掛品数量と当期投入数量を加算した数量で、期首仕掛品原価と当期製造費用を加算した価額を除して平均単価を計算し、完成品原価と期末仕掛品原価を算定します。なお、数量は完成品換算量であることに注意しなければなりません。
- 数量=60t+1,075t=1,135t
- 金額=1,676円+32,374円=34,050円
- 平均単価=34,050円/1,135t=30.0円
次に上記平均単価30.0円を第3工程の期末仕掛品数量に乗じて、期末仕掛品原価を計算します。
- 第3工程期末仕掛品原価=30.0円×35t=1,050円
期首仕掛品原価に当期製造費用を加算し、期末仕掛品原価を差し引いて、第3工程加工費の完成品原価を計算します。
なお、第3工程で発生した仕損は完成品のみに負担させます。
- 完成品原価=34,050円-1,050円=33,000円
全工程の合計
以上の計算を集計した原価計算表は以下の通りです。
期末仕掛品
各工程の期末仕掛品原価の計算は以下の通りです。
- 第1工程期末仕掛品原価
=17,700円+8,160円=25,860円 - 第2工程期末仕掛品原価
=8,850円+10,200円+4,800円=23,850円 - 第3工程期末仕掛品原価
=4,130円+4,760円+2,800円+1,050円=12,740円
完成品原価と完成品単位原価
完成品原価と完成品単位原価の計算は以下の通りです。
- 完成品原価
=69,810円+76,840円+44,000円+33,000円=223,650円 - 完成品単位原価
=223,650円/1,050t=213.0円