顧客が自社ポイントを使って買い物をした場合の会計処理
ここでは、顧客が自社ポイントを使って買い物をした場合の会計処理について、具体例を用いて解説します。
前提条件
- 甲社(3月決算会社)は、甲社が運営する店舗で顧客が買い物をするたびにポイントを付与しています。ポイントの付与率は100円につき1ポイントです。顧客は、次回以降の買い物の際にポイントを使用することができ、1ポイント当たり1円の値引きを受けられます。
- 当該ポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するものであるため、甲社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論づけました(収益認識に関する会計基準の適用指針第48項)。
- ポイントの有効期限は、ポイントを付与した日の3年後の月末です。なお、ポイントの失効率は3%と見積もっています。
- x1年4月17日に顧客に商品を50,000円で販売し、500ポイントを付与しました。対価は現金で受け取っています。
- x1年6月6日に顧客に商品を10,000円で販売し、対価は、300ポイントと現金9,700円を受け取りました。なお、販売価格から使用ポイントを差し引いた金額に対して、新たにポイントを付与します。
会計処理
x1年4月17日
顧客から受け取った対価50,000円を商品とポイントの独立販売価格の比率で配分します。
ポイントの独立販売価格の計算
顧客に付与したポイントは500ポイント(500円相当)、ポイント失効率は3%なので、以下の計算よりポイントの独立販売価格は485円になります。
- ポイントの独立販売価格
=付与したポイントの価格×(1-失効率)
=500円×(1-0.03)
=485円
取引価格を商品とポイントに配分
以下の計算より、対価50,000円を商品に49,520円、ポイントに480円配分します。
- 商品
=50,000円×50,000円/(50,000円+485円)
=49,520円 - ポイント
=50,000円×485円/(50,000円+485円)
=480円
上記の計算を表にすると以下の通りです。
仕訳
商品49,520円について収益を認識し、ポイント480円について契約負債を認識します。
x1年4月17日の会計処理は以下の通りです。
x1年6月6日
契約負債から売上高に振替
商品を販売し、対価として現金で9,700円、ポイントで300ポイント(300円相当)を受け取ったので収益を認識します。
ポイント使用分については契約負債を取り崩し、売上高に振り替えます。使用されたポイントに対する契約負債は、以下の計算より297円になります。
- 契約負債の取崩額
=使用ポイント/使用を見込むポイント総数×契約負債総額
=300ポイント/(500ポイント×(1-0.03))×480円
=297円
商品と新たに付与したポイントに取引価格を配分
対価のうち、現金で受け取ったのは9,700円なので、97ポイント (97円相当)を顧客に付与します。
ポイントの独立販売価格は、以下の計算より94円になります。
- ポイントの独立販売価格
=97円×(1-0.03)
=94円
商品の独立販売価格は10,000円、ポイントの独立販売価格は94円なので、売上高と契約負債への取引価格の配分は以下の通りです。
- 売上高
=9,700円×10,000円/(10,000円+94円)
=9,610円 - 契約負債
=9,700円×94円/(10,000円+94円)
=90円
仕訳
x1年6月6日の会計処理は以下のようになります。
値引きの配分は、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に行う必要があります(収益認識に関する会計基準第70項)。本事例で、300円の値引後の取引価格9,700円を商品とポイントの独立販売価格の比率で配分したのは、同項の規定に従ったものです。
同会計基準第71項には、履行義務の1つまたは複数に値引きを配分する定めがあり、本事例で300円の値引きを全額商品から差し引く方法も考えられます。しかし、ポイントの付与は商品の購入と一緒に行われるものなので、第71項(1)の「それぞれを、通常、単独で販売していること」の要件を満たしません。したがって、ポイントを単独で販売している場合でない限り、値引きは商品とポイントに独立販売価格の比率に基づき配分すべきと考えられます。
契約負債から収益への振替の留意点
顧客がポイントを使用するたびに契約負債を取り崩し収益を認識するのは、実務上、会計処理が煩雑となります。
収益認識に関する会計基準第55項で、見積った取引価格は、各決算日に見直すことが定められています。
本事例では、ポイント失効率を3%と見積もっていますが、仮に決算日に1%と見積りを変更した場合、期中に契約負債から振り替えた収益を修正しなければなりません。
また、顧客がポイントを使用するたびに契約負債を取り崩す処理をすると、ポイント失効率を3%(ポイント使用率97%)と見積もっていて、期中に顧客のポイント使用率が97%を超えた場合、契約負債の残高が負(借方残)になる不都合が生じます。
したがって、ポイント使用の事実は補助簿で管理し、会計上は決算日に一括で使用ポイント総数に対応する契約負債を計算し、契約負債から売上高に振り替える処理が望ましいです。
消費税を加味した会計処理
消費税を加味した会計処理も紹介しておきます。なお、消費税率は10%とし、消費税に対してはポイントは付与しないものとします。
x1年4月17日
課税売上げの対価は、売上高49,520円と契約負債480円を合計した50,000円になります。したがって、課税売上げに係る消費税額は5,000円です。
- 課税売上げに係る消費税額
=(49,520円+480円)×10%
=5,000円
売上高、契約負債、消費税の関係を図示すると以下のようになります。
x1年6月6日
課税売上げの対価は10,000円、課税売上げに係る消費税額は1,000円(10,000円×10%)になります。使用された300ポイント(300円相当)のうち、対価の返還等は273円(300円/110%×100%)、対価の返還等に係る消費税額は27円(300円/110%×10%)になります。
いったん現金11,000円を受け取ったものとして処理
顧客が300ポイントを使用する前にいったん11,000円を現金で受け取ったものとして処理します。
ポイントは税抜きの売上高100円に対して1ポイントが付与されるので、10,000円の税抜き売上高に対しては100ポイント(100円相当)が付与されます。以下の計算より、ポイントの独立販売価格は97円になります。
- ポイントの独立販売価格
=100円×(1-0.03)
=97円
取引価格10,000円を売上高に9,904円、契約負債に96円配分します。
- 売上高
=10,000円×10,000円/(10,000円+97円)
=9,904円 - 契約負債
=10,000円×97円/(10,000円+97円)
=96円
したがって、対価として現金11,000円を受けとったと仮定した場合の会計処理は以下のようになります。
値引後の売上高と契約負債の計算
顧客から受け取ったのは現金10,700円なので、最終的に仮受消費税は973円になります。
- 仮受消費税
=10,700円/110%×10%=973円
よって、仮受消費税を差し引いた取引価格は9,727円になります。
- 取引価格
=10,700円-973円=9,727円
顧客に付与するポイントは100円につき1ポイントなので、97ポイントが今回の買い物で付与されます。なお、97ポイントの独立販売価格は、消費税を加味しない場合の会計処理で94円と計算しています。
したがって、取引価格9,727円は、商品の独立販売価格10,000円とポイントの独立販売価格94円との比率で配分し、売上高9,636円、契約負債91円となります。
- 売上高
=9,727円×10,000円/(10,000円+94円)
=9,636円 - 契約負債
=9,727円×94円/(10,000円+94円)
=91円
300ポイント使用分を値引きとして処理
次に顧客が使用した300ポイントについて値引きをし、300円を返金したと仮定して処理します。
- 取り消す売上高
9,904円-9,636円
=268円 - 取り消す契約負債
=96円-91円
=5円 - 取り消す仮受消費税
=1,000円-973
=27円
したがって、顧客に300ポイント(300円相当)を返金したと仮定した場合の会計処理は以下のようになります。
なお、以上の会計処理をまとめると以下の通りです。
売上高、契約負債、消費税の関係を図示すると以下のようになります。
契約負債から売上高に振替
対価として受け取った300ポイントについて、契約負債から売上高に振り替える処理は、課税対象外取引になります。