顧客が自社ポイントと他社ポイントを使って買い物をした場合の会計処理
ここでは、顧客が自社ポイントと他社ポイントを使って買い物をした場合の会計処理について、具体例を用いて解説します。
前提条件
- 甲社(3月決算会社)は、甲社が運営する店舗で顧客が買い物をするたびにポイントを付与しています。ポイントの付与率は100円につき1ポイントです。顧客は、次回以降の買い物の際にポイントを使用することができ、1ポイント当たり1円の値引きを受けられます。
- 甲社は、d社が運営するポイント・プログラムに参加しており、顧客が買い物の際にd社会員証を提示するとd社が発行しているポイント(他社ポイント)も付与しています。d社ポイントの付与率は100円につき1ポイントです。顧客は、次回以降の買い物の際にd社ポイントを使用することができ、1ポイント当たり1円の値引きを受けられます。また、d社ポイントは、d社ポイント・プログラムに参加している企業の店舗でも使用可能です。
- 甲社が発行するポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するものであるため、甲社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論づけました(収益認識に関する会計基準の適用指針第48項)。
- d社ポイントは、甲社から見て契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するものではないと判断し、甲社は、顧客へのd社ポイントの付与により履行義務が生じないと結論づけました。
- 甲社が発行するポイントの有効期限は、ポイントを付与した日の3年後の月末です。なお、ポイントの失効率は3%と見積もっています。
- d社ポイントの有効期限は、ポイントを付与した日の4年後の月末です。なお、d社ポイントの失効率は2%と見積もっています。
- 甲社は、顧客が使用したd社ポイントについて、翌月15日にd社から支払いを受けます。また、顧客にd社ポイントを付与した翌月末にd社に対して付与したd社ポイント分の代金を支払います。
- 顧客が買い物の際に使用した甲社ポイントについては、新たに甲社ポイントもd社ポイントも付与しません。
- 顧客が買い物の際に使用したd社ポイントについては、甲社ポイントを付与しますが、d社ポイントは付与しません。
- x1年10月21日に顧客が甲社の運営する店舗で商品を20,000円購入しました。顧客は、甲社ポイントで1,000ポイント(1,000円相当)、d社ポイントで3,000ポイント(3,000円相当)、現金で16,000円を支払いました。新たに発行されたポイントは、甲社ポイントが190ポイント(190円相当)、d社ポイントが160ポイント(160円相当)です。なお、顧客が使用した甲社ポイント1,000ポイントに対応する契約負債は884円です。
- x1年11月15日に甲社は、顧客から受け取ったd社ポイント1,000ポイント(1,000円相当)について、d社から銀行振込で支払いを受けました。
- x1年11月30日に甲社は、顧客に付与したd社ポイント160ポイントについて、T社に160円を支払いました。
会計処理
取引価格の配分
商品20,000円の販売に対して、顧客から受け取ったのは、現金16,000円、甲社ポイント1,000ポイント(1,000円相当)、d社ポイント3,000ポイント(3,000円相当)です。甲社ポイントの使用は値引きとなりますが、d社ポイントの使用はd社への請求権となるので、顧客から受け取った対価は、現金とd社ポイントを合計した19,000円です。
顧客に新たに付与するポイントは、甲社ポイントが190ポイント(190円相当)とd社ポイント160ポイント(160円相当)です。
d社ポイント160ポイント(160円相当)は、d社に支払う義務があるため、第三者のために回収する額(収益認識に関する会計基準第47項)となります。したがって、19,000円から160円を差し引いた18,840円を商品と甲社ポイントに独立販売価格の比率で配分します。
顧客に付与した甲社ポイントは190ポイント(190円相当)、ポイント失効率は3%なので、以下の計算より甲社ポイントの独立販売価格は184円になります。
- ポイントの独立販売価格
=付与したポイントの価格×(1-失効率)
=190円×(1-0.03)
=184円
したがって、取引価格18,840円は、商品の独立販売価格20,000円と付与した甲社ポイントの独立販売価格184円の比率で配分します。
- 商品
=18,840円×20,000円/(20,000円+184円)
=18,668円 - ポイント
=18,840円×184円/(20,000円+184円)
=172円
上記の計算を表にすると以下の通りです。
x1年10月21日
商品18,668円は売上高、甲社ポイント172円は契約負債を認識します。また、顧客が使用したd社ポイント3,000ポイント(3,000円相当)は未収入金、新たに顧客に付与するd社ポイント160ポイント(160円相当)は未払金を認識します。
顧客が使用した甲社ポイント1,000ポイントに対応する契約負債は884円なので、売上高に振り替えます。
x1年11月15日
d社から1,000円の支払いを受けたので、未収入金の消滅を認識します。
x1年11月30日
d社に160円を支払ったので、未払金の消滅を認識します。
消費税を加味した会計処理
消費税を加味した会計処理についても解説しておきます。なお、消費税率は10%とし、消費税部分についてはd社ポイントを付与しないものとします。
x1年10月21日
課税売上げの対価は20,000円、課税売上げに係る消費税額は2,000円(20,000円×10%)になります。使用された甲社ポイント1,000ポイント(1,000円相当)のうち、対価の返還等は909円(1,000円/110%×100%)、対価の返還等に係る消費税額は91円(1,000円/110%×10%)になります。
いったん税込みの対価22,000円を受け取ったものとして処理
顧客が甲社ポイント1,000ポイントを使用する前にいったん22,000円を現金で19,000円、3,000円をd社ポイントで受け取ったものとして処理します。
甲社ポイントは税抜きの売上高100円に対して1ポイントが付与されるので、20,000円の税抜き売上高に対しては200ポイント(200円相当)が付与されます。以下の計算より、甲社ポイントの独立販売価格は97円になります。
- ポイントの独立販売価格
=200円×(1-0.03)
=194円
取引価格20,000円から新たに付与するd社ポイント160ポイント(160円相当)を差し引いた19,840円を売上高に19,649円、契約負債に191円配分します。
- 売上高
=19,840円×20,000円/(20,000円+194円)
=19,649円 - 契約負債
=19,840円×194円/(20,000円+194円)
=191円
したがって、対価として現金とd社ポイントで22,000円を受けとったと仮定した場合の会計処理は以下のようになります。
値引後の売上高と契約負債の計算
顧客から受け取ったのは現金18,000円とd社ポイント3,000円の21,000円なので、最終的に仮受消費税は1,909円になります。
- 仮受消費税
=21,000円/110%×10%=1,909円
よって、仮受消費税を差し引いた取引価格は19,091円になります。
- 取引価格
=21,000円-1,909円=19,091円
顧客に付与するポイントは100円につき1ポイントなので、190ポイントが今回の買い物で付与されます。なお、190ポイントの独立販売価格は、消費税を加味しない場合の会計処理で184円と計算しています。
したがって、取引価格19,091円から新たに付与するd社ポイント160円を差し引いた18,931円は、商品の独立販売価格20,000円とポイントの独立販売価格184円との比率で配分し、売上高18,758円、契約負債173円となります。
- 売上高
=18,931円×20,000円/(20,000円+184円)
=18,758円 - 契約負債
=18,931円×184円/(20,000円+184円)
=173円
1,000ポイント使用分を値引きとして処理
次に顧客が使用した甲社ポイント1,000ポイントについて値引きをし、1,000円を返金したと仮定して処理します。
- 取り消す売上高
19,649円-18,758円
=891円 - 取り消す契約負債
=191円-173円
=18円 - 取り消す仮受消費税
=2,000円-1,909
=91円
したがって、顧客に1,000ポイント(1,000円相当)を返金したと仮定した場合の会計処理は以下のようになります。
なお、以上の会計処理をまとめると以下の通りです。
売上高、契約負債、未払金(d社ポイント)、消費税の関係を図示すると以下のようになります。
契約負債から売上高に振替
対価として受け取った甲社ポイント1,000ポイントについて、契約負債から売上高に振り替える処理は、課税対象外取引になります。
なお、x1年11月15日とx1年11月30日の会計処理は、消費税を加味しない場合の会計処理と同じです。