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重要性等に関する代替的な取扱い

収益認識に関する会計基準の適用指針では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めています。

なお、当該代替的な取扱いを適用するにあたっては、個々の項目の要件に照らして適用の可否を判定することとなりますが、企業による過度の負担を回避するため、金額的な影響を集計して重要性の有無を判定する要件は設けていません(同適用指針第164項)。


  1. 契約変更
  2. 履行義務の識別
  3. 一定の期間にわたり充足される履行義務
  4. 一時点で充足される履行義務
  5. 履行義務の充足に係る進捗度
  6. 取引価格の配分
  7. 有償支給取引

契約変更

重要性が乏しい場合の取扱い

契約変更による財またはサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性に乏しい場合には、当該契約変更について処理するにあたり、以下のいずれの方法も適用することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第92項)。


  1. 契約変更を独立した契約として処理する。
  2. 契約変更を既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する。
  3. 契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理する。

履行義務の識別

顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い

約束した財またはサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができます。顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するにあたっては、当該約束した財またはサービスの定量的および定性的な性質を考慮し、契約全体における当該約束した財またはサービスの相対的な重要性を検討しなければなりません(収益認識に関する会計基準の適用指針第93項)。

出荷および配送活動に関する会計処理の選択

顧客が商品または製品に対する支配を獲得した後に行う出荷および配送活動については、商品または製品を移転する約束を履行するための活動として処理し、履行義務として識別しないことができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第94項)。したがって、出荷および配送活動を履行義務として識別しない場合には、当該活動に取引価格を配分する必要はありません。

一定の期間にわたり充足される履行義務

期間がごく短い工事契約および受注制作のソフトウェア

工事契約および受注制作のソフトウェアについて、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます (収益認識に関する会計基準の適用指針第95項および第96項)。

船舶による運送サービス

一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて、一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船回航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動または待期期間を除く。)である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで、当該期間にわたり収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第97項)。

一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が内航海運または外航海運における通常の期間である場合には、当該期間は短期間であると想定されるので、上記のように処理しても財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせないと考えられます(同適用指針第170項)。

一時点で充足される履行義務

出荷基準等の取扱い

商品または製品の国内の販売において、出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、一時点で充足される履行義務の定めにかかわらず、出荷時から当該商品または製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第98項)。

なお、上記の通常の期間とは、当該期間が国内における出荷および配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えらえる日数である場合をいいます。

履行義務の充足に係る進捗度

契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

原価回収基準の定め(収益認識に関する会計基準第45項)にかかわらず、一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第99項)。

取引価格の配分

履行義務への取引価格の配分

重要性が乏しい財またはサービスに対する残余アプローチの使用

履行義務への取引価格の配分の定め(収益認識に関する会計基準の適用指針第31項)にかかわらず、履行義務の基礎となる財またはサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、当該財またはサービスが、契約における他の財またはサービスに付随的なものであり、重要性が乏しいと認められるときには、当該財またはサービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを使用することができます(同適用指針第100項)。

契約の結合、履行義務の識別および独立販売価格に基づく取引価格の配分

契約に基づく収益認識の単位および取引価格の配分

契約の結合(収益認識に関する会計基準第27項)、履行義務の識別(同会計基準第32項)、履行義務への取引価格の配分(同会計基準第66項)の定めにかかわらず、以下のいずれも満たす場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約において定められている顧客に移転する財またはサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約において定められている当該財またはサービスの金額にしたがって収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第101項)。


  1. 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること
  2. 顧客との個々の契約における財またはサービスの金額が合理的に定められていることにより、当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること

工事契約および受注制作のソフトウェアの収益認識の単位

工事契約および受注制作のソフトウェアについて、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や異なる時点に締結した複数の契約を含む。)を結合した際の収益認識の時期および金額と当該複数の契約について契約の結合(収益認識に関する会計基準第27項)および履行義務の識別(同会計基準第32項)の定めに基づく収益認識の時期および金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針第102項および第103項)。

有償支給取引

有償支給取引とは、企業が、対価と交換に原材料等(支給品)を外部(支給先)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工品に組み込まれている場合を含む。)を購入する取引のことです。有償支給取引に係る処理にあたっては、企業が当該支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する必要があります(収益認識に関する会計基準の適用指針第104項)。

企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合

有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は当該支給品の消滅を認識しますが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません

企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合

有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、支給先が当該支給品を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されているため、支給先は当該支給品に対する支配を獲得していないこととなります。この場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないこととなります(収益認識に関する会計基準の適用指針第180項)。

しかしながら、譲渡された支給品は、物理的には支給先において在庫管理が行われているため、企業による在庫管理に関して実務上の困難さがある点が指摘されており、この点を踏まえ、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができます。なお、その場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しません (同適用指針第181項)。