ポイントが消滅した場合の会計処理
ここでは、ポイントが消滅した場合の会計処理について、具体例を用いて解説します。
前提条件
- 甲社(3月決算会社)は、甲社が運営する店舗で顧客が買い物をするたびにポイントを付与しています。ポイントの付与率は100円につき1ポイントです。顧客は、次回以降の買い物の際にポイントを使用することができ、1ポイント当たり1円の値引きを受けられます。
- 当該ポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するものであるため、甲社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論づけました(収益認識に関する会計基準の適用指針第48項)。
- ポイントの有効期限は、ポイントを付与した日の3年後の月末です。なお、ポイントの失効率は3%と見積もっています。
- x1年度に顧客に付与したポイント総数は500,000ポイントで、認識した契約負債は480,341円です。
- x1年度に付与したポイントのうち、x1年度に顧客が使用したポイントは150,000ポイントでした。
- x1年度に付与したポイントのうち、x2年度に顧客が使用したポイントは180,000ポイントでした。なお、x2年度の顧客のポイント使用の状況が良いことからから、x2年度の決算でポイントの失効率の見積もりを3%から2%に引き下げました。
- x1年度に付与したポイントのうち、x3年度に顧客が使用したポイントは90,000ポイントでした。
- x1年度に付与したポイントのうち、x4年度に顧客が使用したポイントは55,000ポイントでした。25,000ポイントは有効期限の到来で失効しました。
- x2年度に顧客に付与したポイント総数は600,000ポイントで、認識した契約負債は576,409円です。
- x2年度はキャンペーンを実施し、顧客にボーナスポイントを100,000ポイント付与しています。ボーナスポイントの有効期限は1年後の月末です。ボーナスポイントの失効率は10%と見積もっています。ボーナスポイントを付与した際に認識した契約負債は89,197円です。
- x2年度に付与したポイントのうち、x2年度に顧客が使用したポイントは200,000ポイントでした。これとは別に顧客が使用したボーナスポイントは40,000ポイントでした。通常ポイントの失効率の見積もりは3%から2%に引き下げますが、ボーナスポイントの失効率の見積もりは10%のまま変わっていません。
- x2年度に付与したポイントのうち、x3年度に顧客が使用したポイントは180,000ポイントでした。これとは別に顧客が使用したボーナスポイントは48,000ポイントで、12,000ポイントは有効期限の到来で失効しました。
- x2年度に付与したポイントのうち、x4年度に顧客が使用したポイントは130,000ポイントでした。なお、顧客がポイント・プログラムから退会したことで10,000ポイントが失効しています。失効したポイントについては、ポイントが使用された時と同様に処理しています。
- x2年度に付与したポイントのうち、x5年度に顧客が使用したポイントは60,000ポイントでした。20,000ポイントは有効期限の到来で失効しました。
会計処理
使用されたポイントの処理
顧客がポイントを使用して買い物をした場合、当該使用ポイントに対応する契約負債を売上高に振り替えて収益を認識します。
契約負債を売上高に振り替える処理をポイントが使用される都度行うと、会計処理が煩雑となります。また、ポイントの失効率は、決算日に見直さなければならず、失効率に変化があった場合は、期中に契約負債から振り替えた売上高の修正が必要になります。
そのため、期中のポイント使用の事実は補助簿で管理し、契約負債を売上高に振り替える会計処理は、期末に失効率を見直した後に一括で行うのが実務上の手間を省くことができ望ましいと言えます。
また、付与したポイントは、付与した年度ごとに管理します。同一年度に付与したポイントでも、通常ポイント、ボーナスポイント、来店ポイントなどのアクションポイントは、有効期限や失効率などに違いがあることから、別個に管理する必要があります。
x1年度末
x1年度に付与したポイントの会計処理
顧客が使用したポイントに対応する契約負債は以下のように計算します。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=当年度の使用ポイント/使用見込ポイント総数×契約負債計上額
x1年度に付与した500,000ポイントのうち3%が失効すると見込んでいるので、使用見込ポイント総数は485,000ポイントです。
- 使用見込ポイント総数
=500,000ポイント×(1-0.03)
=485,000ポイント
よって、x1年度に付与したポイントのうち、x1年度に使用されたポイントに対応する契約負債は148,559円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=150,000ポイント/485,000ポイント×480,341円
=148,559円
以上から、x1年度に使用されたポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
x1年度に付与したポイントの増減をT勘定で示すと以下のようになります。
また、x1年度に付与したポイントに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度末
x1年度に付与したポイントの会計処理
x2年度にポイント失効率の見積もりを3%から2%に変更しているので、使用見込ポイント総数を490,000ポイントに変更します。
- 使用見込ポイント総数の修正
=500,000ポイント×(1-0.02)
=490,000ポイント
使用見込ポイント総数を変更した会計期間に売上高に振り替える契約負債は、以下の計算式で求めます。
- 失効率を変更した会計期間の使用ポイントに対応する契約負債
=当年度までの使用ポイント累計/修正後の使用見込ポイント総数×契約負債計上額-前期までに売上高に振り替えた契約負債累計額
したがって、x1年度に付与したポイントのうちx2年度に使用したポイントに対応する契約負債は174,936円です。
- 失効率を変更した会計期間の使用ポイントに対応する契約負債
=(150,000ポイント+180,000ポイント)/490,000ポイント×480,341円-148,559円
=174,936円
以上から、x2年度に使用されたポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x1年度に付与したポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度に付与した通常ポイントの会計処理
x2年度に付与した通常ポイントについては、変更後の失効率2%を用いて使用見込ポイント総数を計算します。
- x2年度に付与した通常ポイントの使用見込ポイント総数
=600,000ポイント×(1-0.02)
=588,000ポイント
x2年度に付与した通常ポイントのうち、x2年度に使用されたポイントに対応する契約負債は196,057円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=200,000ポイント/588,000ポイント×576,409円
=196,057円
以上から、x2年度に使用された通常ポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x2年度に付与した通常ポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度に付与したボーナスポイントの会計処理
x2年度に付与したボーナスポイントの使用見込ポイント総数は以下の計算より90,000ポイントです。
- x2年度に付与したボーナスポイントの使用見込ポイント総数
=100,000ポイント×(1-0.1)
=90,000ポイント
x2年度に付与したボーナスポイントのうち、x2年度に使用されたポイントに対応する契約負債は39,643円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=40,000ポイント/90,000ポイント×89,197円
=39,643円
以上から、x2年度に使用されたボーナスポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x2年度に付与したボーナスポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x3年度末
x1年度に付与したポイントの会計処理
x1年度に付与したポイントのうちx3年度に使用したポイントに対応する契約負債は88,226円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=90,000ポイント/490,000ポイント×480,341円
=88,226円
以上から、x3年度に使用されたポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x1年度に付与したポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度に付与した通常ポイントの会計処理
x2年度に付与した通常ポイントのうち、x3年度に使用されたポイントに対応する契約負債は176,452円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=180,000ポイント/588,000ポイント×576,409円
=176,452円
以上から、x3年度に使用された通常ポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x2年度に付与した通常ポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度に付与したボーナスポイントの会計処理
x2年度に付与したボーナスポイントのうち、x3年度に使用されたポイントに対応する契約負債は47,572円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=48,000ポイント/90,000ポイント×89,197円
=47,572円
以上から、x3年度に使用されたボーナスポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
また、x3年度に有効期限の到来で消滅したボーナスポイントについても、契約負債から売上高に振り替えます。売上高に振り替える契約負債は、期首の契約負債残高から当期の使用ポイントに対応する契約負債を差し引いた1,982円です。
- 消滅したポイントに対応する契約負債
=49,554円-47,572円
=1,982円
したがって、x3年度のx2年に付与したボーナスポイントの消滅の会計処理は以下のようになります。
消滅したポイントに対応する契約負債は、1ポイント当たりの契約負債を消滅するポイント数に乗じて計算せず、ポイントが使用されずに残った契約負債を全額売上高に振り替えます。
ポイント有効期限が到来する年度では、顧客が使用したポイントと使用されずに消滅したポイントを分けず、期首の契約負債残高を全て売上高に振り替えても、収益認識額は同じになります。
なお、x2年度に付与したボーナスポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x4年度末
x1年度に付与したポイントの会計処理
x1年度に付与したポイントのうちx4年度に使用したポイントに対応する契約負債は53,916円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=55,000ポイント/490,000ポイント×480,341円
=53,916円
以上から、x4年度に使用されたポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
また、x4年度に有効期限の到来で消滅したポイントについても、契約負債から売上高に振り替えます。売上高に振り替える契約負債は、期首の契約負債残高から当期の使用ポイントに対応する契約負債を差し引いた14,704円です。
- 消滅したポイントに対応する契約負債
=68,620円-53,916円
=14,704円
したがって、x4年度のx1年に付与したポイントの消滅の会計処理は以下のようになります。
なお、x1年度に付与したポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x2年度に付与した通常ポイントの会計処理
x2年度に付与した通常ポイントのうち、x4年度に使用されたポイントに対応する契約負債は127,437円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=130,000ポイント/588,000ポイント×576,409円
=127,437円
以上から、x4年度に使用された通常ポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
x4年度には、退会により失効したポイントが10,000ポイントあります。収益認識に関する会計基準の適用指針では、退会によるポイント失効について具体的な定めがないため、ここでは、退会によるポイント失効をポイント使用と同じように会計処理します。
x2年度に付与した通常ポイントのうち、x4年度に会員の退会により失効したポイントに対応する契約負債は9,803円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=10,000ポイント/588,000ポイント×576,409円
=9,803円
以上から、x4年度に会員の退会により失効した通常ポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
なお、x2年度に付与した通常ポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。
x5年度末
x2年度に付与した通常ポイントの会計処理
x2年度に付与した通常ポイントのうちx5年度に使用したポイントに対応する契約負債は58,817円です。
- 使用ポイントに対応する契約負債
=60,000ポイント/588,000ポイント×576,409円
=58,817円
以上から、x5年度に使用された通常ポイントの収益認識の会計処理は以下の通りです。
また、x5年度に有効期限の到来で消滅した通常ポイントについても、契約負債から売上高に振り替えます。売上高に振り替える契約負債は、期首の契約負債残高から当期の使用ポイントに対応する契約負債を差し引いた8,023円です。
- 消滅したポイントに対応する契約負債
=66,840円-58,817円
=8,023円
したがって、x5年度のx2年に付与した通常ポイントの消滅の会計処理は以下のようになります。
なお、x2年度に付与した通常ポイントとそれに対応する契約負債の増減をT勘定で示すと以下のようになります。