HOME > 各論 > 収益認識会計基準

 

収益認識に関する会計基準

我が国の「企業会計原則 第二 損益計算書原則 三 B」では、以下のように収益の認識実現主義によることとされています。

売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。

しかし、収益認識に関する包括的な会計基準がこれまで開発されていませんでした。

国際会計基準審議会(IASB)および米国財務会計基準審議会(FASB)では、共同で収益認識に関する包括的な会計基準を開発し、2014年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBではIFRS第15号、FASBではTopic 606)を公表しています。

このような状況から我が国でも、企業会計基準委員会(ASBJ)が、2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)および「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)を公表しました。また、2020年3月31日には改正基準および改正適用指針が公表されています。

開発の意義

これまでの収益認識は、「実現主義の原則に従い」とされているだけで、同一の取引であっても、必ずしも同じ会計処理が行われているとは限らず、企業ごとに会計処理が異なっている場合がありました。これでは、財務諸表間の比較可能性が保たれないことから、収益認識に関する包括的な会計基準の開発が必要とされました。

そこで、我が国の会計基準の体系の整備を行い、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を確保し、企業が開示する情報の充実を図る目的から、IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れた「収益認識に関する会計基準」が開発されました。

適用範囲

収益認識に関する会計基準第1項では、「収益に関する会計処理及び開示については、『企業会計原則』に定めがあるが、本会計基準が優先して適用される」とし、財務諸表の作成にあたって収益認識に関する会計基準に従わなければならないことが規定されています。

また、適用範囲については同会計基準第3項で、一部の取引を除き「顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される」としています。

本会計基準は、次の(1)から(7)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される。
(1)企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)の範囲に含まれる金融商品に係る取引
(2)企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「リース会計基準」という。)の範囲に含まれるリース取引
(3)保険法(平成20年法律第56号)における定義を満たす保険契約
(4)顧客又は潜在的な顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又は製品の交換取引(例えば、2つの企業の間で、異なる場所における顧客からの需要を適時に満たすために商品又は製品を交換する契約)
(5)金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
(6)日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(以下「不動産流動化実務指針」という。)の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む。)の譲渡
(7)資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引法(昭和23年法律第25号)における定義を満たす電子記録移転権利に関連する取引

上記に記載されている収益認識に関する会計基準が適用されない顧客との取引は、以下の通りです。


  1. 金融商品会計基準に含まれる金融商品に係る取引
  2. リース会計基準の範囲に含まれるリース取引
  3. 保険法で定義されている保険契約
  4. 商品または製品の交換取引
  5. 金融商品の組成または取得に際して受け取る手数料
  6. 不動産流動化実務指針の対象となる不動産(不動産信託受益権も含む)の譲渡
  7. 資金決済法で定義されている暗号資産、金融商品取引法で定義されている電子記録移転権利に関連する取引

顧客との契約の一部が上記7つの取引に該当する場合は、それらを除いた取引価格について収益認識に関する会計基準を適用しなければなりません。

用語の定義

収益認識に関する会計基準第5項から第15項では、同会計基準で使用する用語の定義が定められています。

契約

「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいいます。

顧客

「顧客」とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいいます。

したがって、企業の主たる営業活動以外の活動について契約した当事者は、収益認識に関する会計基準の「顧客」には該当しません。同会計基準111項では、提携契約に基づく共同研究開発等に参加するために企業と契約を締結する当該契約の相手方を顧客に該当しない例として示しています。

履行義務

「履行義務」とは、顧客との契約において、次の「1」または「2」のいずれかを顧客に移転する契約をいいます。


  1. 別個の財またはサービス(あるいは別個の財またはサービスの束)
  2. 一連の別個の財またはサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財またはサービス)

独立販売価格

「独立販売価格」とは、財またはサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます。

取引価格

「取引価格」とは、財またはサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいいます。

契約資産

「契約資産」とは、企業が顧客に移転した財またはサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く。)をいいます。

契約負債

「契約負債」とは、財またはサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったものまたは対価を受け取る期限が到来しているものをいいます。

顧客との契約から生じた債権

「顧客との契約から生じた債権」とは、企業が顧客に移転した財またはサービスを交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいいます。

ここで、「対価に対する企業の権利のうち無条件」であるとは、当該対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるものをいいます。

工事契約

「工事契約」とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます。

受注制作のソフトウェア

「受注制作のソフトウェア」とは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいいます。

原価回収基準

「原価回収基準」とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます。