企業結合会計
企業結合とは、ある企業またはある企業を構成する事業と他の企業または他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合されることをいいます(企業結合に関する会計基準第66項)。
企業結合には「取得」と「持分の結合」という異なる経済的実態を有するものが存在します。
「取得」は、ある企業が他の企業の支配を獲得する企業結合を意味し(同会計基準第67項)、「持分の結合」は、いずれの結合当事企業も他の結合当事企業に対する支配を獲得したとは合理的に判断できない企業結合を意味します(同会計基準第68項)。
パーチェス法(買収法)
企業結合が「取得」とされた場合には、ある企業が他の企業の支配を獲得することになるという経済的実体を重視し、パーチェス法(買収法)により会計処理することになります(企業結合に関する会計基準第67項)。
パーチェス法は、企業結合の多くは、実質的にはいずれかの結合当事企業による新規の投資と同じであり、交付する現金および株式等の投資額を取得価額として他の結合当事企業から受け入れる資産および負債を評価する会計処理です(同会計基準第67項)。
持分プーリング法
企業結合が「持分の結合」とされた場合には、いずれの企業(または事業)の株主(または持分保有者)も他の企業(または事業)を支配したとは認められず、結合後企業のリスクや便益を引き続き相互に共有することを達成するため、それぞれの事業のすべてまたは事実上のすべてを統合して1つの報告単位となります(企業結合に関する会計基準第68項)。
そのため、この場合には、持分プーリング法による会計処理を適用するのが妥当と考えられます。
持分プーリング法は、いずれの結合当事企業の持分も継続が断たれて おらず、いずれの結合当事企業も支配を獲得していないと判断される限り、企業結合によって投資のリスクが変質しても、その変質によっては個々の投資のリターンは実現していないと考え、対応する資産および負債を帳簿価額で引き継ぐ会計処理です(同会計基準第68項)。
持分プーリング法の廃止
持分プーリング法は、平成20年(2008年)の企業結合に関する会計基準の改正時に廃止されています(同会計基準第70項)。
国際的な会計基準では、持分プーリング法は採用されておらず、我が国の会計基準と国際的な会計基準で会計処理が異なるという障害が発生していました。そのため、直接海外市場で資金調達をする企業のみ ならず、広く我が国の資本市場や日本企業に影響を及ぼすと考えられたことから、会計基準のコンバージェンスを推進する観点から、従来「持分の結合」に該当した企業結合のうち、共同支配企業の形成以外の企業結合については取得となるものとして、パーチェス法により会計処理を行うこととなりました。
ただし、持分の結合の考え方は存在しているため、それに該当する共 同支配企業の形成の会計処理については、持分プーリング法と同様の会計処理を行います(同会計基準第71項)。これは、国際的な会計処理でも同様です。
適用範囲
企業結合に該当する取引には、共同支配企業の形成および共通支配下の取引も含め、企業結合に関する会計基準を適用します(同会計基準第3項)。
用語の定義
企業結合に関する会計基準第4項から第16項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第5項では、以下の用語の定義を定めています。
- 企業
- 企業結合
- 事業
- 支配
- 共同支配
- 取得
- 取得企業
- 共同支配企業
- 共同支配投資企業
- 結合当事企業
- 時価
- 企業結合日
- 共通支配下の取引
- 吸収合併存続会社
- 吸収合併消滅会社
- 新設合併設立会社
- 新設合併消滅会社
- 吸収分割承継会社
- 吸収分割会社
- 新設分割設立会社
- 新設分割会社
- 株式交換完全親会社
- 株式交換完全子会社
- 株式移転設立完全親会社
- 株式移転完全子会社
- 吸収合併存続会社等
- 吸収合併消滅会社等
- 吸収分割承継会社等
- 吸収分割会社等
- 株式交換完全親会社等
- 株式交換完全子会社等
企業
「企業」とは、会社および会社に準ずる事業体をいい、会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)を指します。
企業結合
「企業結合」とは、ある企業またはある企業を構成する事業と他の企業または他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合されることをいいます。なお、複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱います。
事業
「事業」とは、企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源をいいます。
支配
「支配」とは、ある企業または企業を構成する事業の活動から便益を享受するために、その企業または事業の財務および経営方針を左右する能力を有していることをいいます。
共同支配
「共同支配」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、ある企業を共同で支配することをいいます。
取得
「取得」とは、ある企業が他の企業または企業を構成する事業に対する支配を獲得することをいいます。
取得企業
「取得企業」とは、ある企業または企業を構成する事業を取得する企業をいい、当該取得される企業を「被取得企業」といいます。
共同支配企業
「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいいます。
共同支配投資企業
「共同支配投資企業」とは、共同支配企業を共同で支配する企業をいいます。
結合当事企業
「結合当事企業」とは、企業結合に係る企業をいい、このうち、他の企業または他の企業を構成する事業を受け入れて対価(現金等の財産や自社の株式)を支払う企業を「結合企業」、当該他の企業を「被結合企業」といいます。また、企業結合によって統合された1つの報告単位となる企業を「結合後企業」といいます。
時価
「時価」とは、公正な評価額をいいます。通常、それは観察可能な市場価格をいい、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額をいいます。ただし、金融商品およびトレーディング目的で保有する棚卸資産については、算定日において市場参加者間で秩序ある 取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格とします(金融商品に関する会計基準第6項および棚卸資産の評価に関する会計基準第4項)。
企業結合日
「企業結合日」とは、被取得企業もしくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日、または結合当事企業の事業のすべてもしくは事実上すべてが統合された日をいい、企業結合日の属する事業年度を「企業結合年度」といいます。
共通支配下の取引
「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます。親会社と子会社の合併および子会社同士の合併は、共通支配下の取引に含まれます。
吸収合併存続会社
「吸収合併存続会社」とは、吸収合併後存続する会社をいいます(会社法第749条第1項)。
吸収合併消滅会社
「吸収合併消滅会社」とは、吸収合併により消滅する会社をいいます(会社法第749条第1項第1号)。
新設合併設立会社
「新設合併設立会社」とは、新設合併により設立する会社をいいます(会社法第753条第1項)。
新設合併消滅会社
「新設合併消滅会社」とは、新設合併により消滅する会社をいいます(会社法第753条第1項第1号)。
吸収分割承継会社
「吸収分割承継会社」とは、吸収分割において、ある会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を当該会社から承継する会社をいいます(会社法第757条)。
吸収分割会社
「吸収分割会社」とは、吸収分割において、事業に関して有する権利義務の全部または一部をある会社に承継させる会社をいいます(会社法第758条第1号)。
新設分割設立会社
「新設分割設立会社」とは、新設分割により設立する会社をいいます(会社法第763条)。
新設分割会社
「新設分割会社」とは、新設分割をする会社をいいます(会社法第763条第5号)。
株式交換完全親会社
「株式交換完全親会社」とは、株式交換において、ある株式会社の発行済株式の全部を取得する会社をいいます(会社法第767条)。
株式交換完全子会社
「株式交換完全子会社」とは、株式交換において、発行済株式の全部を取得される株式会社をいいます(会社法第768条第1項第1号)。
株式移転設立完全親会社
「株式移転設立完全親会社」とは、株式移転により設立する株式会社をいいます(会社法第773条第1項第1号)。
株式移転完全子会社
「株式移転完全子会社」とは、株式移転において、株式移転設立完全親会社に発行済株式の全部を取得させる株式会社をいいます(会社法第773条第1項第5号)。
吸収合併存続会社等
「吸収合併存続会社等」とは、吸収合併存続会社および新設合併設立会社をいいます。
吸収合併消滅会社等
「吸収合併消滅会社等」とは、吸収合併消滅会社および新設合併消滅会社をいいます。
吸収分割承継会社等
「吸収分割承継会社等」とは、吸収分割承継会社および新設分割設立会社をいいます。
吸収分割会社等
「吸収分割会社等」とは、吸収分割会社および新設分割会社をいいます。
株式交換完全親会社等
「株式交換完全親会社等」とは、株式交換完全親会社および株式移転設立完全親会社をいいます。
株式交換完全子会社等
「株式交換完全子会社等」とは、株式交換完全子会社および株式移転完全子会社をいいます。