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取得とされた株式交換における株式交換完全親会社の会計処理の具体例(株式交換前に完全子会社となる企業の株式を保有していない場合)

ここでは、取得とされた株式交換における株式交換完全親会社の会計処理(株式交換前に完全子会社となる企業の株式を保有していない場合)について具体例を用いて解説します。

前提条件


  1. 甲社と乙社は、甲社を株式交換完全親会社、乙社を株式交換完全子会社とする株式交換を行いました。

  2. 交換比率は、以下の通りです。
    甲社株式:乙社株式=1:0.4

  3. 甲社の発行済株式総数は100株、乙社の発行済株式総数は150株です。

  4. この株式交換は取得とされ、甲社が取得企業、乙社が被取得企業とされました。

  5. 甲社は、乙社株主に甲社株式を交付しました。なお、甲社株式の時価は1株当たり50千円でした。

  6. 株式交換日の前日における乙社の貸借対照表は以下の通りです。
    乙社の貸借対照表(株式交換の前日)

  7. 株式交換日における乙社が保有する土地の時価は1,200千円、投資有価証券(その他有価証券)の時価は900千円(帳簿価額700千円)と算定されました。

  8. 甲社は、増加すべき株主資本のすべてを資本金としました。

甲社の個別財務諸表上の会計処理

株式交換前の甲社、甲社株主、乙社、乙社株主の関係は以下の通りです。

株式交換前

乙社株主に交付する甲社株式

甲社は、株式交換により乙社株主に甲社株式を交付し、乙社株式を受け取ります。

交換比率は、甲社株式1に対して乙社株式0.4です。また、乙社の発行済株式総数は150株なので、以下の計算より、乙社株主は、甲社株式を60株受け取ることになります。


  • 乙社株主に交付する甲社株式
    =150株×0.4
    =60株

よって、甲社は、乙社株主に甲社株式を60株交付するとともに乙社株主から乙社株式150株を受け取ります。

株式交換

以上より、株式交換後の甲社、甲社株主、乙社、新甲社株主(旧乙社株主)の関係は以下のようになります。

株式交換後

取得原価の算定

株式交換の場合、甲社が取得した乙社の株式の取得原価は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第38項に準じて、株式交換日における甲社(株式交換完全親会社)株式の時価をもとに算定します。

乙社株主に交付した甲社株式は60株、株式交換日における甲社株式の時価は1株当たり50千円なので、乙社株主に交付した甲社株式の時価総額は、以下の計算より3,000千円です。


  • 乙社株主に交付した甲社株式の時価総額
    =株式交換日における甲社株式の時価×交付した甲社株式数
    =50千円×60株
    =3,000千円

よって、取得原価は3,000千円になります。

増加資本

企業結合の対価として、甲社が新株を発行した場合、払込資本の増加として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第111項)。

本事例では、増加すべき株主資本のすべてを資本金とすることから、乙社株主に交付した甲社株式の時価3,000千円と同額の資本金を増加します。

よって、甲社の個別財務諸表上の株式交換の会計処理は以下のようになります。

甲社の個別財務諸表上の会計処理

甲社の連結財務諸表上の会計処理

株式交換日における乙社の識別可能資産および負債の時価

甲社の連結財務諸表上、取得原価は、乙社から受け入れた資産および引き受けた負債のうち、企業結合日(株式交換日)における識別可能資産および負債の企業結合日の時価を基礎として、当該資産および負債に対して配分します。

企業結合日において、乙社が保有する土地と投資有価証券の時価および帳簿価額は以下の通りです。


  • 土地
    時価=1,200千円
    帳簿価額=500千円

  • 投資有価証券
    時価=900千円
    帳簿価額=700千円

よって、乙社の企業結合日における時価評価後の個別貸借対照表は以下のようになります。なお、土地の時価と帳簿価額との差額700千円は評価差額として計上しています。

乙社の個別貸借対照表(株式交換日に時価評価)

投資と資本の消去

甲社の連結財務諸表の作成において、株式交換完全親会社(甲社)の投資と株式交換完全子会社(乙社)の資本を相殺消去します。

甲社の投資

甲社の投資は、甲社の個別財務諸表上の会計処理で算定した取得原価3,000千円(乙社株式)です(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第116項(1))。

乙社の資本

乙社の資本は、株式交換日時点に時価評価した識別可能資産および負債の差額です(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第116項(2))。

本事例では、資産合計は2,400千円、負債合計はゼロなので、識別可能資産および負債の差額は2,400千円です。

のれんの算定

甲社の投資3,000千円と乙社の資本2,400千円との消去差額600千円は、のれんとして処理します。


  • のれん
    =甲社の投資-乙社の資本
    =600千円

のれんの算定

連結仕訳

よって、甲社の連結財務諸表上の会計処理は以下のようになります。

甲社の連結財務諸表上の会計処理

甲社の資産が乙社株式3,000千円のみだったと仮定した場合、株式交換後の甲社の個別貸借対照表は以下のようになります。

甲社の個別貸借対照表(株式交換後)

そして、乙社を連結するための連結仕訳を反映させた後の甲社の連結貸借対照表は以下のようになります。

甲社の連結貸借対照表

参考

甲社と乙社の個別貸借対照表を単純合算

連結財務諸表を作成する場合、まず、親会社と子会社の個別財務諸表を単純合算し、その後で投資と資本を相殺消去します。本事例では、単純合算を省略した会計処理を示していますが、単純合算後に投資と資本を相殺消去した場合も、甲社の連結貸借対照表は同じものとなります。

実際に甲社と乙社の貸借対照表を単純合算し、投資と資本を相殺消去してみましょう。

甲社と乙社の個別貸借対照表を単純合算すると以下のようになります。なお、乙社の個別貸借対照表は時価評価後となっていることに注意してください。

甲社と乙社の個別貸借対照表を単純合算

投資と資本の消去

次に甲社が保有する乙社株式3,000千円と乙社の資本金1,000千円、利益剰余金500千円、その他有価証券評価差額金200千円、評価差額(土地)700千円を相殺消去します。

甲社の投資と乙社の資本

甲社の投資3,000千円と乙社の資本2,400千円との差額600千円は、のれんとなります。

連結仕訳

よって、甲社の連結財務諸表上の会計処理は以下のようになります。

甲社の連結財務諸表上の会計処理

上記会計処理を単純合算後の貸借対照表に反映させたのが、以下の連結貸借対照表です。

甲社の連結貸借対照表

上記の連結貸借対照表と単純合算せずに作成した連結貸借対照表が同じであることを確認してください。