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逆取得となる吸収合併の会計処理の具体例

ここでは、逆取得となる吸収合併の会計処理について具体例を用いて解説します。

前提条件


  1. 公開会社の甲社(3月決算会社)と公開会社の乙社(3月決算会社)は、吸収合併存続会社を甲社、吸収合併消滅会社を乙社として合併に合意しました。

  2. 当該企業結合は取得とされ、取得企業は乙社とします(逆取得)。

  3. 合併比率(甲社:乙社)は、1:2です。

  4. 合併期日(企業結合日)における乙社の株価は1株当たり60千円でした。

  5. 発行済株式数は、甲社が100株、乙社が75株です。

  6. 甲社の合併期日前日の個別貸借対照表は以下の通りでした。なお、企業結合日における諸資産の時価は2,000千円です。
    甲社の貸借対照表

  7. 乙社の合併期日前日の個別貸借対照表は以下の通りでした。
    乙社の貸借対照表

  8. 甲社は、乙社の株主資本の額を払込資本として処理し、その全額を資本剰余金とします。

甲社の個別貸借対照表上の会計処理

本事例の吸収合併は、吸収合併消滅会社である乙社が取得企業となるので、逆取得に該当します。

そのため、甲社は、乙社の合併期日の前日に算定した適正な帳簿価額により資産および負債を受け入れ、両者の差額のうち、乙社の株主資本の額を払込資本(資本剰余金)、株主資本以外の項目(その他有価証券評価差額金)を適正な帳簿価額で引き継ぎます(企業結合に関する会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第84項(1))。

受け入れた資産および引き受けた負債

したがって、甲社における吸収合併の会計処理は以下のようになります。

甲社における吸収合併の会計処理

以上より、合併後の甲社の個別貸借対照表は以下のようになります。

甲社の合併後の個別貸借対照表

甲社の連結財務諸表上の会計処理

逆取得となる吸収合併が行われた場合、結合後企業の連結財務諸表は、吸収合併存続会社を被取得企業としてパーチェス法を適用します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第85項)。

本事例では、吸収合併消滅会社(取得企業)である乙社の合併期日の前日における連結財務諸表上の金額に吸収合併存続会社(被取得企業)である甲社の資産および負債を加算し、両者の差額を払込資本として処理します。

取得原価の算定

合併が逆取得となる場合の取得の対価となる財の時価は、甲社株主が合併後の企業(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の乙社株式を、乙社が交付したものとみなして算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第85項(1))。

甲社株主の結合後企業に対する議決権比率の計算

合併比率は、甲社:乙社=1:2なので、以下の計算より甲社株主の結合後企業に対する議決権比率は40%になります。


  • 甲社株主の結合後企業に対する議決権比率
    =合併前の甲社発行済株式数/合併後の甲社発行済株式数×100%
    =100株/(100株+75株×2)×100%
    =100株/250株×100%
    =40%

吸収合併後の議決権比率の変化

乙社が交付したとみなす乙社株式の数

甲社株主の結合後企業に対する実際の議決権比率(40%)と同じ比率を保有するのに必要な乙社株式を乙社が交付したとみなします。

乙社が交付したとみなす乙社株式の数をXとおき、以下の方程式を解きます。


  • X/(X+合併前の乙社の発行済株式数)=甲社株主の結合後企業に対する議決権比率

合併前の乙社の発行済株式数は75株、甲社株主の結合後企業に対する議決権比率は40%です。よって、Xは50株となります。


  • X/(X+75株)=0.4
    X=0.4×(X+75株)
    X=0.4X+30株
    X-0.4X=30株
    0.6X=30株
    X=50株

乙社株式を交付したとみなした場合の議決権比率の変化

取得原価

合併期日における乙社株式の時価は1株当たり60千円、乙社が交付したとみなす乙社株式の数は50株なので、取得原価は3,000千円になります。


  • 取得原価
    =60千円×50株
    =3,000千円

取得原価の配分額とのれんの計算

取得原価の配分額

甲社の企業結合日における諸資産の時価は2,000千円、負債はゼロなので、取得原価の配分額は2,000千円です。


  • 取得原価の配分額
    =2,000千円-0
    =2,000千円

のれん

取得原価3,000千円から取得原価の配分額2,000千円を差し引き、のれん1,000千円を計算します。


  • のれん
    =3,000千円-2,000千円
    =1,000千円

受け入れた資産および引き受けた負債

よって、甲社の連結財務諸表上ののれん計上の会計処理は以下のようになります。

甲社の連結財務諸表上ののれん計上の会計処理

のれん計上後の甲社の連結貸借対照表

逆取得では、結合後企業が連結財務諸表を作成する際、吸収合併消滅会社(乙社)の合併期日の前日における連結財務諸表上の金額に上記の「甲社の連結財務諸表上ののれん計上の会計処理」を加算します。なお、本事例では、合併期日の前日における乙社の個別貸借対照表と連結貸借対照表は同一だったものとします。

よって、のれん計上後の甲社の連結貸借対照表は以下のようになります。

のれん計上後の甲社の連結貸借対照表

増加すべき株主資本の会計処理

資本金

連結財務諸表上の資本金は吸収合併存続会社(被取得企業)である甲社の資本金とします(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第85項(3)ただし書き)。

合併期日の前日における甲社の資本金は500千円なので、のれん計上後の甲社の連結貸借対照表の資本金900千円を500千円に修正するため、資本金を400千円減額し、資本剰余金を400千円増額します。

したがって、会計処理は以下のようになります。

甲社の連結貸借対照表上の資本金修正の会計処理

払込資本を資本剰余金に振り替え

のれん計上後の甲社の連結貸借対照表に計上されている払込資本3,000千円を資本剰余金に振り替えます。会計処理は以下の通りです。

払込資本を資本剰余金に振り替える会計処理

甲社の連結貸借対照表

以上より、増加すべき株主資本の会計処理後の甲社の連結貸借対照表は以下のようになります。

甲社の連結貸借対照表