親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)
例えば、親会社が運営するカフェ事業を子会社に移転し、対価として子会社株式のみを受け取る取引は、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主に支配されており、その支配が一時的ではない場合、共通支配下の取引となります。

この場合、親会社は吸収分割会社、子会社は吸収分割承継会社になります。
親会社の個別財務諸表上の会計処理
吸収分割会社である親会社が、会社分割により追加取得する子会社株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します(企業結合に関する会計基準第43項、事業分離等に関する会計基準第19項(1)および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第226項)。
この場合、移転損益は発生しません。
子会社株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産および繰延税金負債を控除することに留意しなければなりません(同適用指針第108項(2)および第226項)。
組織再編により生じた株式の特別勘定
移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第226項なお書き)。

組織再編により生じた株式の特別勘定の事業分離後の会計処理
組織再編により生じた株式の特別勘定は、分離元企業が当該分離先企業の株式を処分したときには損益に振り替え、現物配当(分割型の会社分割を含む)を行ったときは株主資本を直接変動させるなど、通常の有価証券の会計処理に従うことになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第394項なお書き)。
企業結合(会社分割)に要した支出額
企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第226項また書き)。
子会社の個別財務諸表上の会計処理
受け入れた資産および負債の会計処理
吸収分割承継会社である子会社が親会社から受け入れる資産および負債は、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します(企業結合に関する会計基準第41項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第227項(1))。
増加すべき株主資本の会計処理
移転事業に係る評価・換算差額等を引き継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額は、払込資本(資本金または資本剰余金)として処理します。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合に関する会計基準第41項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第227項(2))。
なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理します(同適用指針第227項(2)なお書き)。
企業結合(会社分割)に要した支出額
企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理します(企業結合に関する会計基準第41項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第227項(3))。
子会社が親会社から受け入れる資産および負債の修正処理
子会社(吸収分割承継会社)が親会社(吸収分割会社)から会社分割により事業を受け入れる場合には、子会社が親会社を吸収合併する場合の子会社が親会社から受け入れる資産および負債の修正処理に準じて処理します(企業結合に関する会計基準第41項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第228項)。
親会社の連結財務諸表上の会計処理
内部取引の消去
事業の移転取引および子会社の増資に関する取引は、内部取引として消去します(企業結合に関する会計基準第44項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第229項(1))。
親会社の持分変動による差額の計上
親会社は、会社分割により追加取得した子会社に係る親会社の持分の増加額(追加取得持分)と移転した事業に係る親会社の持分の減少額との差額を資本剰余金に計上します(事業分離等に関する会計基準第19項(2)および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第229項(2))。