親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理
例えば、A社が親会社、B社が子会社で、B社にはA社以外にも株主(非支配株主)がいた場合に新たにP社を設立して株式移転を行ったとします。

P社は、A社、A社株主、B社株主にP社株式を交付します。そして、A社株主からA社株式、A社とB社株主からB社株式を受け取ります。

株式移転により、P社はA社とB社の発行済株式の全部を取得して株式移転設立完全親会社となります。そして、A社とB社は、P社の100%子会社(株式移転完全子会社)となります。また、A社は、B社株式をP社に移転した際、受け取ったP社株式を保有しています。

株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理
株式移転完全子会社株式の取得原価の算定
株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)
原則として、株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239項(1)①ア)。
ただし、簡便的な方法として、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式 (旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額によ り算定することができます(同適用指針第239項(1)イ)。
ここで、適正な帳簿価額による株主資本の額が、株式移転日の前日と直前の決算日で重要な差異がないと認められる場合とは、直前の決算日後に、多額の増資、自己株式の取得等の資本取引や、重要な減損損失の認識がないなど、株式移転日の前日までの間に適正な帳簿価額による株主資本の額に重要な変動が生じていないと認められる場合をいいます(同適用指針第404-3項)。
株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)
株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における持分比率に基づき、旧親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に区分し、次の合計額として算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239項(1)②)。
- 旧親会社持分相当額
株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定。 - 非支配株主持分相当額
取得の対価(旧子会社の非支配株主に交付した株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額)に付随費用を加算して算定。付随費用の取扱いについては金融商品会計に関する実務指針に従う。株式移転完全子会社(旧子会社)の株主が株式移転設立完全親会社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の数を、株式移転完全子会社(旧親会社)が交付したものとみなして算定する。

なお、株式移転設立完全親会社は、受け入れた株式移転完全子会社(旧子会社)以外の子会社(中間子会社)が有していた株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価についても、旧親会社持分相当額に準じて算定します(同適用指針第239項(1)②なお書き)。
株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の会計処理
株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金または資本剰余金)として処理します。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239項(2))。
親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い
親会社(株式移転設立完全親会社)の個別財務諸表上の会計処理
株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社または旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、または株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と旧子会社の株式)の取得原価を次のように算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239-2項)。
株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)
原則として、株式移転完全子会社(旧親会社)の適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式移転完全子会社(旧親会社)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益または新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価を算定します。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転日 の前日の株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を純資産の部または負債の部に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239-2項(1)①)。
株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価の算定にあたり簡便的な方法を適用する場合であっても、株式移転完全子会社(旧親会社)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益または新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額に加算します(同適用指針第239-2項(1)②)。
株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)
株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日に株式移転完全子会社(旧子会社)が付していた適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価に加算します。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日の適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を純資産の部または負債の部に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239-2項(2))。
子会社(株式移転完全子会社)の個別財務諸表上の会計処理
株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社または旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、または株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転完全子会社(旧親会社または旧子会社)は株式移転日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を利益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239-3項)。
旧親会社の個別財務諸表上の会計処理
株式移転に際して、株式移転完全子会社(旧親会社)が、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式と引き換えに受け入れた株式移転設立完全親会社株式の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)株式の株式移転直前の適正な帳簿価額により計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第239-4項)。
連結財務諸表上の会計処理
連結財務諸表上の会計処理は、以下のように行います。なお、取得関連費用については費用として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第240項)。
投資と資本の消去
株式移転完全子会社(旧親会社)への投資
株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧親会社)の株主資本を相殺します(企業結合に関する会計基準第46項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第240項(1)①)。
株式移転完全子会社(旧子会社)への投資
株式移転完全子会社(旧子会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧子会社)の株主資本を相殺し、消去差額は資本剰余金に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第240項(1)②)。
なお、追加取得持分は、企業結合に関する会計基準第46項、連結財務諸表に関する会計基準第28項および(注8)に従って算定します。
連結上の自己株式への振替
株式移転完全子会社(旧親会社)が株式移転完全子会社(旧子会社)の株式との交換により受け入れた株式移転設立完全親会社株式は、連結財務諸表上、自己株式に振り替えます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第240項(2))。
株主資本項目の調整
株式移転設立完全親会社の株主資本の額は、株式移転直前の連結財務諸表上の株主資本項目に非支配株主との取引により増加した払込資本の額を加算します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第240項(3))。
株式移転日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い
株式移転日が子会社の決算日以外の日である場合、株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い(みなし取得日)と同様に処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第241項)。
株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合
親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理
株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理に準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第241-2項)。
子会社(株式移転完全子会社)の会計処理
株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理に準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第241-3項)。