共通支配下の取引等の会計処理
企業集団内における組織再編の会計処理には、共通支配下の取引と非支配株主との取引(共通支配下の取引等)があります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第200項)。
共通支配下の取引とは、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます(企業結合に関する会計基準第16項)。
共通支配下の取引は、親会社の立場からは内部取引と考えられます。そのため、個別財務諸表上は、共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産および負債は、原則として、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上し(同会計基準第41項)、それらの対価として交付された株式の取得原価は、当該資産および負債の適正な帳簿価額に基づいて算定します(同会計基準第43項)。
また、移転された資産および負債の差額は、純資産として処理します(同会計基準第42項)。共通支配下の取引により子会社が法律上消滅する場合には、当該子会社に係る子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額とこれに対応する増加資本との差額は、親会社の損益とします(同会計基準(注10))。
連結財務諸表上、共通支配下の取引は、内部取引としてすべて消去します(同会計基準第44項)。
なお、親会社と子会社が企業結合する場合において、子会社の資産および負債の帳簿価額を連結上修正しているときは、親会社が作成する個別財務諸表においては、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により計上します(同会計基準(注9))。
非支配株主との取引
非支配株主との取引は、親会社が子会社を株式交換により完全子会社とする場合など、親会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用されます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第200項また書き)。
なお、非支配株主との取引の個別財務諸表上の会計処理は、企業集団の最上位に位置する会社(最上位の親会社)が非支配株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用されます(同適用指針第200項また書き)。
個別財務諸表上の会計処理
非支配株主から追加取得する子会社株式の取得原価は、追加取得時における当該株式の時価とその対価となる財の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します(企業結合に関する会計基準第45項)。
対価となる財の時価は、企業結合が取得とされた場合の取得原価の算定方法に準じて算定します(同会計基準(注11))。
連結財務諸表上の会計処理
非支配株主との取引については、連結財務諸表に関する会計基準第28項から第30項(子会社株式の追加取得及び一部売却等)に準じて処理します(企業結合に関する会計基準第46項)。
共通支配下の取引の範囲
共通支配下の取引における支配の主体である「同一の株主」には企業に限定されず、個人も含まれます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第201項)。
また、投資会社とその関連会社との企業結合は共通支配下の取引には該当しません(同適用指針第201項また書き)。これは、関連会社との企業結合は、親会社および子会社から形成される企業集団内における企業結合ではないと解されるからです。したがって、関連会社との企業結合は、取得または共同支配企業の形成のいずれかに識別されることになります(同適用指針第435項)。
「同一の株主」により支配されている会社の判定にあたっては、ある株主と緊密な者および同意している者が保有する議決権を合わせ て、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配されているかを実質的に判定します(同適用指針第202項)。
ここで、ある株主と緊密な者とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者をいいます。また、同意している者とは、自己の意思と同一の議決権を行使することに同意している者をいいます。
支配の判定は、連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針に準じて行います。
共通支配下の取引等に係る対価
共通支配下の取引等に係る対価の前提
企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針では、共通支配下の取引等に係る会計処理の定めの記載の簡略化のため、組織再編の対価について、特に断りのない限り、次の前提をおいています(同適用指針第203項)。
- 組織再編の形式が合併、会社分割(分割型の会社分割を含む。)、株式交換および株式移転の場合の対価は、特に断りのない限り、結合企業の時価のある株式(新株の発行)のみとする。
- 組織再編の形式が事業譲渡の場合の対価は、現金等の財産とする。
完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理
組織再編の対価が支払われない場合であっても、合併や会社分割による組織再編の形式であって、結合当事企業のすべてが同一の株主に株式のすべてを直接または間接保有されているとき(完全親子会社関係にあるとき)は、結合当事企業は会計処理が必要になります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第203-2項)。
合併の場合(子会社と他の子会社との合併の場合)
吸収合併存続会社の株主資本項目については、合併が共同支配企業の形成と判定された場合における「認められる会計処理」に準じて、吸収合併消滅会社の株主資本の額を引き継ぐ処理をします。増加すべき払込資本の内訳項目は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第203-2項(1))。
同一の親会社に支配されている子会社同士(兄弟会社同士)が吸収合併し、吸収合併存続会社となる子会社が吸収合併消滅会社の株主(吸収合併存続会社の親会社)に対価を支払わない場合には、原則として、吸収合併存続会社は受け入れた資産および負債の差額のうち株主資本の額を負ののれん(またはのれん)として会計処理することになります。しかし、完全親子会社関係にある場合には、合併の対価の支払いの有無に関係なく、親会社の当該子会社に対する持分比率は合併の前後で100%と変化はなく、企業集団の経済的実態には何ら影響がないと考えられます。そのため、完全親子会社関係にある子会社同士の吸収合併においては、対価の支払の有無が会計処理に大きな影響を与えることは適当ではないと考え、吸収合併存続会社が、吸収合併消滅会社の株主に対価を支払わなかった場合には、吸収合併消滅会社の株主資本の額を引き継ぐこととしています(同適用指針第437-2項)。
なお、結合当事企業の株主(親会社)は、吸収合併消滅会社の株式の帳簿価額を吸収合併存続会社の株式の帳簿価額に加算します(同適用指針第203-2項(1)なお書き)。ただし、会社法上、吸収合併存続会社が、合併に際して株式を発行していない場合には、資本金および準備金を増加させることは適当ではないと解されるため、会計上は、吸収合併消滅会社の株主資本の各項目を原則として引き継ぐこととしたうえで、増加すべき払込資本の内訳項目は、会社法の規定に従い、吸収合併消滅会社の資本金および資本準備金はその他資本剰余金として引き継ぎ、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぐことになります(同適用指針第437-2項なお書き)。
会社分割の場合(親会社の事業を子会社に移転する場合)
吸収分割会社である親会社は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第233項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させます(同適用指針第203-2項(2)①)。
吸収分割承継会社である子会社は、親会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上します。
親会社の株主は会計処理を要しません。
会社分割の場合(子会社の事業を他の子会社に移転する場合)
吸収分割会社である子会社は、子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第255項)に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させます(同適用指針第203-2項(2)②)。
吸収分割承継会社である他の子会社は、吸収分割会社である子会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上します。
なお、吸収分割承継会社である他の子会社が分割期日に吸収分割会社である子会社の株式を保有している場合には、当該吸収分割後の吸収分割会社の財務内容等を勘案して、期末において、当該吸収分割会社の株式の帳簿価額について、相当の減額の要否を検討することとなります(同適用指針第203-2項(2)②なお書き)。
また、吸収分割会社の株主(親会社)は、受け取る吸収分割承継会社の株式とこれまで保有していた吸収分割会社の株式が実質的に引き換えられたものとみなし、分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理(同適用指針第294項)に準じて処理します(同適用指針第203-2項(2)②また書き)。
会社分割の場合(子会社の事業を親会社に移転する場合)
吸収分割承継会社である親会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第218項から第220項参照)に準じて処理します(同適用指針第203-2項(2)③)。
ただし、移転する事業に子会社株式(親会社からみて孫会社株式)や関連会社株式が含まれている場合には、親会社は、当該子会社株式等の受入れについて、子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の株主(親会社)の会計処理(同適用指針第257項)に準じて処理します(同適用指針第203-2項(2)③ただし書き)。
吸収分割会社である子会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(同適用指針第221項)に準じて処理します(同適用指針第203-2項(2)③)。
共通支配下の取引等の組織再編の形式ごとの会計処理
親会社と子会社の組織再編
- 親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理
- 子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理
- 子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)
- 子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理
- 親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)
- 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)
- 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理の具体例(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)
- 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式と現金等の財産の場合)
- 親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理
- 親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理
- 親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理
子会社間の組織再編
- 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が現金等の財産のみである場合)
- 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合)
- 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)
- 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理
- 子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理
- 子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理