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子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

子会社が親会社に会社分割により事業を移転し、その対価として親会社株式の交付を受けた後、当該株式を子会社の株主に配当した場合(分割型の会社分割)、結合当事企業または事業のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、その支配が一時的でない限り、共通支配下の取引に該当します。

例えば、子会社が営む居酒屋事業を親会社に会社分割により移転し、その対価として受け取った親会社株式を親会社と子会社の非支配株主に配当する取引は、共通支配下の取引になります。この場合、親会社は吸収分割承継会社、子会社は吸収分割会社となります。

子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転

親会社の個別財務諸表上の会計処理

資産および負債の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)が子会社から受け入れる資産および負債は、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します(企業結合に関する会計基準第41項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第218項(1))。

増加すべき株主資本の会計処理

親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額を親会社が子会社を吸収合併する場合における親会社の個別財務諸表上の会計処理に準じて会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第218項(2)および第206項)。

この場合、同適用指針第206項(2)①アの「子会社株式の適正な帳簿価額」は親会社が会社分割直前に保有していた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産および負債と引き換えられたものとみなされる額と読み替えます(同適用指針第218項(2))。

子会社から配当を受けた自己株式の処理

分割型の会社分割において、親会社は、子会社に対して新株を発行(または自己株式を処分)すると同時に、子会社から当該株式を配当として受け取ることとなるため、親会社は発行した新株(または処分した自己株式)を自己株式として保有することになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第218項(2)なお書き)。

この場合、親会社による新株の発行(または自己株式の処分)と当該自己株式の取得は一体の取引とみて、親会社が受け入れた自己株式の帳簿価額はゼロとします。また、自己株式を処分した場合には、当該自己株式に対応する適正な帳簿価額を付します(同適用指針第218項(2))。

中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い

増加すべき株主資本の会計処理において、対価を中間子会社に交付する場合には、親会社が子会社を吸収合併する場合における中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱いに準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第218項(3)および第206項(3))。

孫会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(子会社が吸収分割承継会社となる場合)

資産および負債の会計処理増加すべき株主資本の会計処理中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱いは、子会社を吸収分割承継会社としたその子会社(孫会社)からの分割型の会社分割についても、同様に適用します(同適用指針第218項(4))。

ただし、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第206項(2)①イの非支配株主持分相当額の会計処理は除きます。この場合、子会社が、孫会社株式を非支配株主から追加取得する取引等については、同適用指針第206項(2)①イの非支配株主持分相当額は、中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱いにおける中間子会社持分相当額に準じて処理します。

分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産および負債と引き換えられたものとみなされる額の算定

分割型の会社分割の場合には、会社分割後も分離元企業(子会社)が存在し、その子会社では移転した事業に係る純資産が減少することになるため、親会社では、受け入れた事業と保有していた子会社株式の部分的な引き換えが行われたとみて、親会社が保有する子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、引き換えられたものとみなされる額を減額する会計処理が必要になります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第443項ただし書き)。

分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産および負債と引き換えられたものとみなされる額は、次のいずれかの方法のうち合理的と認められる方法により算定します(同適用指針第219項)。


  1. 関連する時価の比率で按分する方法
  2. 時価総額の比率で按分する方法
  3. 関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む)の比率で按分する方法

関連する時価の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第87項(1)①)の時価と会社分割直前の子会社の株主資本の時価との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分します(同適用指針第219項(1))。

関連する時価の比率で按分する方法

時価総額の比率で按分する方法

会社分割直前直後の子会社の時価総額の差額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の子会社の時価総額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第219項(2)。

時価総額の比率で按分する方法

関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む)の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の子会社の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第219項(3))。

関連する帳簿価額の比率で按分する方法

親会社が子会社から受け入れる資産および負債の修正処理

親会社が子会社から会社分割により受け入れる資産および負債は、原則として適正な帳簿価額により計上することになりますが、親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の資産および負債の帳簿価額を修正しているときは、親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理における親会社が子会社から受け入れる資産および負債の修正処理連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱いの定めに準じて会計処理します。また、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により資産および負債を受け入れます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第220項)。

子会社の個別財務諸表上の会計処理

事業分離等に関する会計基準第63項により、分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう)と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という2つの取引と考えられます。そのため、子会社(吸収分割会社)は次のように会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第221項)。


  1. 会社分割の会計処理
  2. 現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

会社分割の会計処理

吸収分割会社である子会社は、最初に会社分割の対価が子会社株式のみの場合の親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第226項)に準じた会計処理を行います(同適用指針第221項(1))。

現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

次に子会社は、受け取った親会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を減少させます。減少させる株主資本の内訳は、取締役会等の企業の意思決定機関において定められた結果に従います(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第10項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第221項(2))。

親会社の連結財務諸表上の会計処理

親会社が減少させた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額および発生した抱合せ株式消滅差額は、内部取引として消去します(企業結合に関する会計基準第44項および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第222項)。