取得原価の配分方法
取得原価は、被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産および負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産および負債に対して企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準第28項)。
企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます(同会計基準(注6))。
なお、暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行います。企業結合年度の翌年度の財務諸表(連結財務諸表および個別財務諸表)と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させます(同会計基準(注6)なお書き)。
受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います(同会計基準第29項)。
取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識します。当該負債は、原則として、固定負債として表示し、その主な内容および金額を連結貸借対照表および個別貸借対照表に注記します(同会計基準第30項)。
取得原価が、受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして、下回る場合には、その不足額は負ののれんとして会計処理します。
- 識別可能資産および負債
- 無形資産への取得原価の配分
- リースに係る使用権資産およびリース負債への取得原価の配分
- 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分
- 退職給付に係る負債への取得原価の配分
- 被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合の取得原価の配分
- 取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目
- 暫定的に決定した会計処理の確定手続
- 取得企業の税効果会計
識別可能資産および負債
被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なものは、識別可能資産および負債と呼ばれます(企業結合に関する会計基準第99項)。
識別可能資産および負債の範囲
識別可能資産および負債の範囲は、被取得企業の企業結合日前の貸借対照表において計上されていたかどうかにかかわらず、企業がそれらに対して対価を支払って取得した場合、原則として、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定されます(企業結合に関する会計基準第99項)。
識別可能資産および負債への取得原価の配分額の算定
識別可能資産および負債の時価については、企業結合日時点における次の時価を基礎にして算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第53項)。
- 観察可能な市場価格に基づく価額
- 観察可能な市場価格に基づく価額がない場合には、合理的に算定された価額
観察可能な市場価格がある場合には、その市場価格が通常最も客観的な評価額であり、企業結合日時点の時価となると考えられます。典型例は、市場性のある有価証券です(企業結合に関する会計基準第102項)。
しかし、現実的には、観察可能な市場価格がない場合の方が多く、このような場合には、何らかの方法で時価を見積る必要があります。そのため、当該場合には、合理的に算定された価額を基礎にして、識別可能資産および負債の時価を算定します。
合理的に算定された価額による場合には、市場参加者が利用するであろう情報や前提等が入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くことになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第53項(2))。
合理的に算定された価額は、一般に以下の見積方法が考えられ、資産の特性等により、併用または選択して算定します(同適用指針第53項(2))。
なお、金融商品、退職給付に係る負債など個々の識別可能資産および負債については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準において示されている時価等の算定方法が利用されることとなります(同適用指針第53項(2)なお書き)。
簡便的な取扱い
識別可能資産および負債への取得原価の配分額は、以下のいずれの要件も満たす場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できる簡便法も認められます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第54項)。
- 被取得企業が、企業結合日の前日において、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って資産および負債の適正な帳簿価額を算定していること
- 上記「1」の帳簿価額と企業結合日の当該資産または負債の時価との差異が重要でないと見込まれること
時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例
受け入れた資産に大規模工場用地や近郊が開発されていない郊外地のように時価が一義的には定まりにくい資産が含まれ、これを評価することにより、負ののれんが多額に発生することが見込まれる場合には、その金額を当該固定資産等に合理的に配分した評価額も合理的に算定された時価となります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第55項)。
したがって、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができます。
ただし、企業結合条件の交渉過程で取得企業が利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき当該資産の価額を算定しており、それが取得の対価の算定にあたり考慮されている場合には、その価額を取得原価の配分額とします(同適用指針第55項だたし書き)。
なお、当該取扱いは、時価が一義的に定まりにくい資産に限定したものであるので、合理的な評価が可能である資産について、当該取扱いを適用することは認められません(同適用指針第364項なお書き)。
無形資産への取得原価の配分
無形資産が識別可能なものであれば、原則として識別して資産計上しなければなりません(企業結合に関する会計基準第100項)。
法律上の権利
法律上の権利とは、特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利をいい、特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利には以下のもの等があります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第58項)。
- 産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)
- 著作権
- 半導体集積回路配置
- 商号
- 営業上の機密事項
- 植物の新品種
分離して譲渡可能な無形資産
分離して譲渡可能な無形資産とは、受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業または事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければなりません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第59項)。
分離して譲渡可能な無形資産であるか否かは、対象となる無形資産の実態に基づいて判断すべきであり、例えば、以下のものについても分離して譲渡可能なものがある点に留意しなければなりません(同適用指針第367項)。
- ソフトウェア
- 顧客リスト
- 特許で保護されていない技術
- データベース
- 研究開発活動の途中段階の成果(最終段階にあるものに限らない)
上記「5」について、資産として識別した場合には、当該資産は企業のその後の使用実態に基づき、有効期間にわたって償却処理されることとなりますが、その研究開発が完成するまでは、当該無形資産の有効期間は開始しない点に留意する必要があります(同適用指針第367-3項)。
特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱います。したがって、このような場合には、当該無形資産を識別可能資産として、取得原価を配分することとなります(同適用指針第59-2項)。
無形資産の認識要件を満たさないものの例
法律上の権利など分離して譲渡可能という認識要件を満たさないため、無形資産として認識できないものの例としては、被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力や被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップやチームワーク)があります。これらは識別不能な資産としてのれん(または負ののれんの減少)に含まれることになります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第368項)。
ブランドの取扱い
いわゆるブランドをのれんと区分して無形資産として認識するためには、その独立した価額を合理的に算定できなければなりません。
ブランドには、プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランドに分けて説明されることがありますが、そのうちコーポレート・ブランドについては、企業または事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難です。しかし、無形資産として取得原価を配分する場合には、事業から独立したコーポレート・ブランドの合理的な価額を算定でき、かつ、分離可能性があるかどうかについて留意する必要があります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第370項)。
リースに係る使用権資産およびリース負債への取得原価の配分
リースに係るリース負債は、当該リースが企業結合日現在で新規のリースであったかのように残りの借手のリース料の現在価値を基礎として取得原価の配分額を算定することができます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第61-2項)。
この場合、リースに係る使用権資産は、リース負債に次の金額を加減した金額を基礎として使用権資産への取得原価の配分額を算定します。
- リースの条件が市場の条件と比較して有利または不利になる場合における市場と異なる条件の影響額
- 借地権の設定に係る権利金等が識別されている場合における当該権利金等の時価
本来、識別可能資産および負債への取得原価の配分額は、企業結合日の時価を基礎として算定しなければなりません。しかし、使用権資産およびリース負債について企業結合日の時価を算定することは、時価で測定するための情報の入手が困難な場合があることや時価の算定が複雑となる場合があると考えられることから、上記のような取扱いとされています(同適用指針第371-2項)。
少額リースおよび借手のリース期間が12ヶ月以内であるリース
リースに関する会計基準の適用指針第22項に定める少額リースおよび企業結合日において残りの借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースについては、取得原価を配分しないことができます。この場合、企業結合日後に計上した費用について、損益計算書において区分して表示していないとき、同適用指針第100項(1)の短期リースに係る費用の発生額に含めて注記します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第61-3項)。
企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分
取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識することになりますが、当該負債は、企業結合に係る特定勘定として計上されます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第62項)。
認識の対象となった事象が貸借対照表日後1年内に発生することが明らかなものは流動負債として表示します(同適用指針第62項なお書き)。
特定勘定は、企業結合後の投資原価の回収計算を適切に行い得ることから負債計上します。
特定勘定を計上するのは、企業結合の条件交渉の過程で、被取得企業に関連して発生する可能性のある将来の費用または損失が取得の対価に反映されている場合(取得の対価がそれだけ減額されている場合)には、被取得企業が企業結合日前に当該費用または損失を負担したと考えられるからです。そのため、これらの費用等を企業結合日以後の取得企業の業績に反映させない方が取得企業の投資原価の回収計算を適切に行うことができると考えられます(同適用指針第372項)。
企業結合に係る特定勘定として負債計上する費用または損失には、以下のものが考えられます(同適用指針第373項)。
- 人員の配置転換や再教育費用
- 割増(一時)退職金
- 訴訟案件等に係る偶発債務
- 工場用地の公害対策や環境整備費用
- 資産の処分に係る費用
上記「5」については、処分費用を当該資産の評価額に反映させた場合で、その処分費用が処分予定の資産の評価額を超過した場合には、その超過額を含みます。
企業結合に係る特定勘定に計上できる費用または損失の範囲
取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失は、企業結合日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(ただし、当該企業結合に係る特定勘定に適用される基準を除く。)の下で認識される識別可能負債に該当しないもののうち、企業結合日後に発生することが予測され、被取得企業に係る特定の事象に対応した費用または損失(ただし、識別可能資産への取得原価の配分額に反映されていないものに限る。)をいいます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第63項)。
なお、企業結合に係る特定勘定に計上できる費用または損失の範囲については以下の点に留意する必要があります(同適用指針第374項)。
- 具体的な事象が特定されていない将来の営業損失については当該負債の認識の対象とはならない
- 特定の事象に対応した費用または損失が識別可能資産への取得原価の配分額に反映されている場合には、資産の評価額がすでに減額されているため該当しない
- 企業結合日後に発生する被取得企業に係る費用または損失に限定される
取得の対価の算定に反映されている場合
被取得企業に関連して発生する可能性のある将来の費用または損失が取得の対価に反映されている場合とは、次のいずれかの要件を満たしている場合をいいます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第64項)。
- 当該事象およびその金額が契約条項等(結合当事企業の合意文書)で明確にされていること
- 当該事象が契約条項等で明確にされ、当該事象に係る金額が取得の対価(株式の交換比率など)の算定にあたり重視された資料に含まれ、当該事象が反映されたことにより、取得の対価が減額されていることが取得企業の取締役会議事録等により確認できること
- 当該事象が取得の対価の算定にあたって考慮されていたことが企業結合日現在の事業計画等により明らかであり、かつ当該事象に係る金額が合理的に算定されること(ただし、この場合には、のれんが発生しない範囲で評価した額に限る。)
企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理
企業結合に係る特定勘定は、認識の対象となった事象が発生した事業年度または当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度に取り崩します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第66項)。
ただし、企業結合日以後、引当金または未払金など、他の負債としての認識要件を満たした場合には、企業結合に係る特定勘定から他の適当な負債科目に振り替えることが必要になります(同適用指針第66項ただし書き)。
当該事象が発生しないことが明らかになった場合の取崩額は、原則として、特別利益に計上します(同適用指針第66項また書き)。
なお、当該負債は、取得の対価に反映されている場合を前提として計上されるため、暫定的な会計処理の対象外になります(同適用指針第377項なお書き)。
退職給付に係る負債への取得原価の配分
確定給付制度による退職給付に係る負債は、企業結合日において、受け入れた制度ごとに退職給付に関する会計基準に基づいて算定した退職給付債務および年金資産の正味の価額を基礎として取得原価を配分します。したがって、被取得企業における未認識項目は取得企業に引き継がれません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第67項)。
退職給付債務については、原則として、企業結合日において受け入れる従業員等の分について、企業結合日の計算基礎により数理計算をします。ただし、企業結合日前の一定日における被取得企業が計算した退職給付債務を基礎に、取得企業が適切に調整して算定した額を用いることもできます。
なお、被取得企業の退職給付制度について、制度の改訂が予定されている場合であっても、退職給付債務に関する測定は、企業結合日における適切な諸条件に基づいて行います。また、企業結合により、被取得企業の従業員に関する退職一時金や早期割増退職金の支払予定額が取得の対価の算定に反映されているときなど、企業結合に係る特定勘定の要件のすべてを満たしている場合には、企業結合に係る特定勘定として取得原価の配分の対象となります(同適用指針第67項なお書き)。
被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合
被取得企業でヘッジ会計を適用していたか否かにかかわらず、受け入れた金融資産または引き受けた金融負債(デリバティブを含む。)は、金融商品に関する会計基準に従って算定した時価を基礎として取得原価を配分します。したがって、被取得企業においてヘッジ会計が適用されており、繰延ヘッジ損失および繰延ヘッジ利益が計上されていても、取得企業はそれらを引き継ぐことはできません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第68項)。
取得企業において、受け入れた資産または引き受けた負債に対してヘッジ会計を適用する場合は、企業結合日において新たにヘッジ指定を行うこととします。キャッシュ・フローを固定するヘッジ取引とする場合には、企業結合日に取得原価が配分されたデリバティブの時価相当額を前受利息等に振り替え、ヘッジ対象が損益として実現する期間の損益として処理します。
暫定的な会計処理の対象となる科目
暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産および繰延税金負債のほか、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第69項)。
ただし、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、被取得企業から受け入れた識別可能資産および負債への取得原価の配分額が確定しない場合(被取得企業の適正な帳簿価額の算定が企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算には間に合わない場合等)も想定されるので、このような場合には、被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のすべてを暫定的な会計処理の対象とすることができます(同適用指針第69項ただし書き)。
暫定的に決定した会計処理の確定手続
識別可能資産および負債を特定し、それらに対して取得原価を配分する作業は、企業結合日以後の決算前に完了すべきですが、それが困難な状況も考えられます。
この場合、配分する作業は企業結合日以後1年以内に完了するものとし、完了前の決算においては暫定的に決定した会計処理を行います。したがって、企業結合日が、例えば年度決算の直前となる場合は、配分する作業が完了した時点で初めて会計処理を行うのではなく、その年度決算の時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行った上で、その後、追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます(企業結合に関する会計基準第104項)。
暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行います。この場合において、企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させます(同会計基準第70項)。
取得企業の税効果会計
繰延税金資産および繰延税金負債への取得原価の配分
組織再編の形式が、事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合には、取得企業は、企業結合日において、被取得企業または取得した事業から生じる一時差異等に係る税金の額を、将来の事業年度において回収または支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産または繰延税金負債として計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第71項)。
ここで、一時差異等とは、取得原価の配分額(繰延税金資産および繰延税金負債を除く。)と課税所得計算上の資産および負債の金額との差額ならびに取得企業に引き継がれる被取得企業の税務上の繰越欠損金等を意味します。
のれんに対する税効果
のれん(または負ののれん)については、配分残余という性格上、税効果を認識しても同額ののれん(または負ののれん)が変動する結果となるため、あえて税効果を認識する意義は薄いと考えられることから、税効果は認識しません(同適用指針第72項および378-3項)。
繰延税金資産および繰延税金負債への取得原価の配分額の確定
企業結合日に認識された繰延税金資産および繰延税金負債への取得原価の配分額の見直しは、次の場合があります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第73項)。
- 暫定的な会計処理の対象としていた識別可能資産および負債の取得原価への配分額の見直しに伴うもの
- 将来年度の課税所得の見積りの変更等による繰延税金資産の回収見込額の見直しによるもの
どちらの場合も、暫定的に決定した会計処理の確定手続の定めに従って会計処理します。
ただし、上記「2」については、その見直し内容が明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の見直しと考えられる場合や、企業結合日に存在していた事実および状況に関して、その後追加的に入手した情報等に基づき繰延税金資産の回収見込額の見直しを行 う場合に限ります(同適用指針第73項ただし書き)。この場合、繰延税金資産の回収見込額の修正は、企業結合日と取得企業の事業年度との関係から、企業結合日が取得企業の事業年度期首の場合と企業結合日が取得企業の事業年度の期首の翌日以降の場合に分けて処理します(同適用指針第74項)。
企業結合日が取得企業の事業年度期首の場合
企業結合日の1年後(企業結合年度末)に繰延税金資産への取得原価の配分額を確定し、その額が企業結合日の繰延税金資産への取得原価の配分額となります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第74項(1))。
企業結合年度の中間会計期間末または四半期会計期間末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上します。これは基本的に暫定的な会計処理として取り扱います。
企業結合日が取得企業の事業年度の期首の翌日以降の場合
企業結合年度の中間会計期間末または四半期会計期間末および企業結合年度末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上します。これは基本的に暫定的な会計処理として取り扱います(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第74項(2))。
企業結合日から1年を経過した日(実務上は1年経過後最初に到来する中間会計期間末、四半期会計期間末または事業年度末)において、企業結合日における繰延税金資産への取得原価の配分額が確定します。企業結合日において計上した繰延税金資産の額を修正する場合は繰延税金資産および繰延税金負債への取得原価の配分額の確定の定めに従い会計処理します。
繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産の回収可能性は、取得企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断し(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針第6項)、企業結合による影響は、企業結合年度から反映させます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第75項)。
将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて判断する場合には、企業結合年度以後、取得した企業または事業に係る過年度の業績等を取得企業の既存事業に係るものと合算した上で課税所得を見積ります。