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取得企業の増加資本の会計処理

企業結合における取得企業が支払う対価には、以下のものが考えられます。


  1. 新株の発行
  2. 自己株式の処分
  3. 取得企業の株式以外の財産
  4. 子会社が保有する親会社株式

企業結合の対価が上記のどれかによって、取得企業の増加資本の会計処理は異なります。

新株の発行

企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本(資本金または資本剰余金)の増加として会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第79項)。

これは、企業結合が取得とされた場合、会計処理はパーチェス法で行うためであり、増加すべき株主資本を留保利益である利益剰余金とするのは適当ではないと考えられるからです(同適用指針第384)。

増加すべき払込資本の内訳項目

企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第79項なお書き)。

なお、会社法においては、剰余金の引継ぎに関する制度は原則として廃止され、企業結合が取得とされた場合、企業結合による増加すべき株主資本のうち、どの株主資本項目を増加させるかは、吸収合併消滅会社または分割会社の資本構成にかかわりなく、吸収合併存続会社または吸収分割承継会社任意に決定できることとされています(同適用指針第386項)。

増加すべき株主資本の額

増加すべき株主資本の額は、以下のように算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第79項また書きおよび第38項)。


  1. 支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価は、原則として、当該株式の企業結合日における時価により算定する。

  2. 非公開企業同士の株式の交換において、企業結合会計上の測定値として妥当と認められる時価純資産が算定されている場合には、被取得企業から受け入れた識別可能資産および負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額をもって評価することもできる。

上記「2」を除き、株式の交換比率を算定する目的で算定された価額であっても、被取得企業または取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価に適切に調整しており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には、取得の対価とすることができます(同適用指針第39項)。

自己株式の処分

企業結合の対価として、取得企業が自己株式を処分した場合には、増加すべき株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加として会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第80項)。

上記の定めは、自己株式の処分と新株の発行を同時に行った場合にも適用されます。

また、増加すべき株主資本の額は、自己株式の処分の対価の額とします。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額が、増加すべき株主資本の額になります。

なお、増加すべき株主資本の額がマイナスとなる場合は、その他資本剰余金の減少として処理します。

増加すべき株主資本の額

増加すべき株主資本の額は、新株の発行の場合に準じて算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第80項および第38項)。

また、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金またはその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(同適用指針第80項なお書き)。



取得企業の株式以外の財産

企業結合の対価として、取得企業が自社の株式以外の財産を交付した場合には、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を損益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第81項)。

子会社が保有する親会社株式

子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と企業結合する場合(いわゆる三角合併などの場合)には、次のように会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第82項)。


  1. 個別財務諸表上の会計処理
    交付した親会社株式の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を損益に計上。

  2. 連結財務諸表上の会計処理
    個別財務諸表において計上された損益を、連結財務諸表上は資本取引として自己株式処分差額に振り替え、自己株式の処分の定め(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準第9項、第10項および第12項)にしたがって会計処理する。

連結財務諸表上、子会社の個別財務諸表で計上した損益を自己株式処分差額とするのは、企業集団からみると、親会社が企業結合の対価として自己株式を処分する取引と同様に考えられるからです(同適用指針第390項)。