HOME > 各論 > 企業結合会計 > 共通支配下の取引等の会計処理 >

 

親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理

例えば、A社はB社を子会社として支配していますが、その支配は100%支配ではなく、B社には他にも株主(非支配株主)がいたとします。この条件下で、A社はB社株主にA社株式を交付するとともにB社株主からB社株式の全てを取得する株式交換が行われたとします。

株式交換前

この場合、A社は株式交換完全親会社となり、B社を100%支配することになります。また、B社は株式交換完全子会社となり、旧B社株主は新A社株主になります。

株式交換後

個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

株式交換完全子会社株式の取得原価の算定

親会社が追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、取得の対価(非支配株主に交付した株式交換完全親会社株式の時価)に付随費用を加算して算定します。付随費用の取扱いについては、金融商品会計に関する実務指針に従います(企業結合に関する会計基準(注11)および企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236項(1))。

増加すべき株主資本の会計処理

株式交換により増加する株式交換完全親会社の資本は、払込資本資本金または資本剰余金)として処理します。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236項(2))。

親会社(株式交換完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

親会社の会計処理

株式交換に際して、親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、または親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、親会社は、株式交換完全子会社等で認識された新株予約権の消滅に伴う利益または新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定します。また、親会社は株式交換日の前日に子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を純資産の部または負債の部に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236-2項)。

子会社の会計処理

親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、または親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、子会社は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権または新株予約権付社債の額を利益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236-3項)。

中間子会社に対価を支払う場合の取扱い

親会社の会計処理

株式交換に際して、親会社(株式交換完全親会社)が、株式交換完全子会社以外の子会社(中間子会社)に対価を支払う場合、親会社が中間子会社から追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、株式交換完全子会社の株式交換日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換日の前日の持分比率を乗じた中間子会社持分相当 額により算定します。また、その額を払込資本として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236-4項)。

親会社が中間子会社から追加取得する子会社株式の取得原価

中間子会社の会計処理

中間子会社が、株式交換完全子会社株式と引き換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、当該株式交換完全子会社株式の適正な帳簿価額により算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236-4項)。

子会社が孫会社を株式交換完全子会社とする場合の取扱い

子会社がその子会社(孫会社)を株式交換完全子会社とする場合、子会社が追加取得する株式交換完全子会社株式(孫会社株式)の取得原価は、中間子会社に対価を支払う場合における中間子会社持分相当額に準じて算定します。また、その額を払込資本として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第236-5項)。

連結財務諸表上の会計処理

子会社株式の追加取得の会計処理(投資と資本の消去)

追加取得した子会社株式の取得原価と追加取得により増加する親会社の持分(追加取得持分)または減少する非支配株主持分の金額との差額は資本剰余金に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第237項)。

株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合には、当該株式交換日の前後いずれかの決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして処理することができます。ただし、みなし取得日は、主要条件が合意されて公表された日以降としなければなりません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第238項)。

なお、支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定における企業結合日(同適用指針第38項)は、みなし取得日と読み替えます。

株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合

親会社の会計処理

株式交換直前に子会社が自己株式を保有しており、株式交換日において、親会社(株式交換完全親会社)が当該自己株式(子会社株式)の取得と引き換えに子会社に対して自社の株式(親会社株式)を交付した場合の親会社の会計処理は、親会社(株式交換完全親会社)の個別財務諸表上の会計処理に準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第238-2項)。

なお、連結財務諸表上は、最初に連結財務諸表上の子会社株式の追加取得の会計処理(投資と資本の消去)に従い会計処理し、次に連結財務諸表上の子会社の会計処理に従い算定された株式交換完全子会社が保有する親会社株式の取得原価を自己株式に振り替えます(同適用指針第238-2項なお書き)。

子会社の会計処理

自己株式と引き換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、親会社が付した子会社株式の取得原価を基礎として算定します。また、親会社株式の取得原価と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第238-3項)。

なお、子会社が受け入れた親会社株式および親会社が取得した子会社株式に付すべき帳簿価額は、以下の理由から親会社株式の時価とします(同適用指針第447-3項)。


  1. 株式交換にあたり、会社法上、親会社は、子会社が保有する自己株式に対して対価(親会社株式など)を交付し、子会社株式を取得することとなるが、もともと、株式交換日に子会社が自己株式を保有するかどうかは結合当事企業の意思決定の結果に依存する。このため、親会社と子会社との間で行う株式の交換は、当該株式交換と一体の取引として捉える必要はなく、会計上は、共通支配下の取引として処理する必然性はない

  2. 子会社にとっては、当該株式交換により、資本控除されている自己株式が親会社株式という資産に置き換わり、その連続性はなくなる。すなわち、資本取引の対象から損益取引の対象に変わることになるため、子会社が受け入れる親会社株式の帳簿価額に自己株式の帳簿価額を付すのではなく、新たに受け入れる親会社株式の時価を基礎として処理することによって、株式交換後の子会社の損益を適切に算定することができる